環境ホルモン


「 世界は究極の疫病の虜になっていた。不妊がペストのように拡がった。終末はあまりにも突然やってきたのだ。あたかも一夜にして、人類は繁殖する力を失ったかのようだった。世界の隅々まで大捜査をくりひろげた末、妊婦はどこにもいないと生物学者が宣言した。
この星で産声が聞こえなくなって、もう25年になる。子供の声が聞けるのは、テープやテレビの中だけだ。子供たちの遊び場は消滅してしまった。学校は成人教育の場に様変わりした。世界各国は何らかの知的生命体が跡を継いでくれるだろうとの、はかない期待を抱いて後世のためにと歴史を記録した。
人類の未来への希望はなく、春が訪れる度に、一世代前には予想もしなかった終末が近づいてきた。
満開のマロニエにも、石壁を照らす太陽の光にも、人々の心は痛んだ。この先、永遠に春は訪れるだろうが、それを見る者はいない。」

デボラ・キャドバリー著 「メス化する自然」より 

デボラ・キャドバリーのストリーが現実になるかもしれない兆候が最近、数多く報告されています。


1.
 成人男性の平均精子数が50年間で半減した。
 
誕生年数が若いほど(若者ほど)、平均精子数は低くなり、奇形精子の割合も格段に高くなっている。精子数の低下が若年層で顕著に見られ、しかも精子数が誕生年数に反比例しているという事実は、その原因が成長してからではなく、胎生期の発育環境にあることを意味する。


2. 性器の先天性発育不全、性器の悪性腫瘍の増加。
 
近年、停留睾丸や尿道下裂などの性器の先天性発育不全が増加している。デンマークでは、若年層の病気である精巣がんは3倍増え、他の先進国でも同じような傾向が見られた。


3. 1993年デンマークのスカケベックらは英国の医学雑誌[ランセット]に、出生前に高レベルの合成エストロゲン(合成女性ホルモン、DES)に暴露された男性には、精子数の低下や停留睾丸、尿道下裂、精巣の腫瘍などの増加傾向が見られると発表した。それ以前に流産防止のためDESを服用した女性から生まれた女児に子宮、膣、卵巣に構造上の欠陥が現われ、若年層に生ずるごく稀な膣ガン(明細胞腺ガン)の発症率が高いことが判明していた。このような変化は妊娠10週目ころに合成エストロゲンに暴露された場合が最も大きいことが明らかにされた。


4. このようなエストロゲン類似作用が、エストロゲンとは全く異なるダイオキシンDDTPCBのような有機塩素化合物にも存在することが最近、明らかにされた。さらにプラスチック製品、工業用洗浄剤、殺虫剤から発生するノニルフェノール、食器などの日用品につかわれているポリカルボネートや缶詰の内側のプラスチック・コーティングからしみ出すビスフェノールAなどにもエストロゲン類似作用があることが次第に明らかになった。これらエストロゲン類似化学物質は自然界で分解されにくく、脂肪と結合しやすいため生体の脂肪内に蓄積され、母体の胎盤を通じて胎児に伝わり、生まれてからも脂肪の豊かな母乳を通じて子供に移動し、蓄積される。
 また、
果物についたカビの駆除薬として広く使われているビンクロゾリンp'p-DDE(DDTの分解物質)はアンドロゲン(男性ホルモン)の作用を遮断することにより、男児性器の発育を障害する以外に、ヒトが本来有するホルモン(内因性ホルモン)を分解し、ホルモンレベルを低下させる作用もあることが判明した。


5. これらエストロゲン類似作用、あるいはアンドロゲン遮断作用を有する化学物質は偽ホルモンではあるが、「内分泌攪乱物質」とも「環境ホルモン」とも呼ばれるようになった。


6. 
1984年ヤコブソンらはPCBをはじめとする高レベルの汚染物質を含んだ五大湖の汚染魚を月に2、3度の割合で食べていた女性から生まれた子供達に低体重小頭症けいれん認識能力の欠陥知能テストの劣成績軽度のストレス下での過剰反応が認められたと報告。また臍帯血のPCB濃度が高い子供ほど、神経系の発育が悪くなる傾向があった。


7. 1994年ポーターフィールドらはきわめて低レベルのPCBやダイオキシンが母親と胎児の甲状腺機能を変化させ、それによって神経発達を妨げると推測。多動症、学習障害、知的障害の可能性を指摘した。


8. 1993年リエールらはダイオキシンに暴露して10年たったアカゲザルに子宮内膜症が発生したと発表。ダイオキシンへの暴露量が大きければ大きいほど子宮内膜症が重症であった。(子宮内膜症:本来,子宮内腔を被う内膜組織が子宮以外の骨盤内に存在し,エストロゲンにより増殖,進行する疾患である。子宮内膜の卵管を経由した逆流<逆流説>等により発生する.子宮内膜組織が子宮筋層で増殖する子宮腺筋症とは区別して考えられる。)


9. 1994年プジョールらはエストロゲン反応性の乳がんの増加原因が、エストロゲン類似化学物質の存在によってエストロゲン暴露の総量が増えたことが原因である可能性を示唆。また出生前にエストロゲンに暴露すると後年、乳がんを誘発しやすくなる。


10. 1994年ヴォン・サールらは出生前に高レベルのエストロゲンに暴露されたマウスのオスでは前立腺内のアンドロゲン受容体が増加し、その結果アンドロゲンに対して敏感になってしまうという。成長後のエストロゲン暴露量がほんの少し増えただけで、前立腺内のアンドロゲン受容体数はさらに5割増しになる。あふれ返った受容体のために、前立腺はアンドロゲンに対して常に過敏となり、肥大化しやすくなる=前立腺肥大


11. 1993年ソーらはラット実験によってエストロゲン暴露が長期に及ぶと、前立腺がんが誘発されうることを確認した。

環境ホルモンの存在と地球の生命体の変化との関連について、さらに多くの報告があります。

12. 1989年カナダのセント・ローレンス川のDDT,PCB,ダイオキシンといったエストロゲン類似化学物質に汚染された雄ベルーガ(シロクジラ)死体からオスにはあり得ない子宮と卵巣が見つかった=両性具有動物。500ppm(ppm=1リットル中1mg)を超えるPCBが残留していた記録もある。その後も若い個体や流産の胎児からも高レベルの汚染物質が見つかった。環境ホルモンが母体の胎盤を通じて胎児に伝わり、生まれてからも脂肪の豊かな母乳を通じて汚染物質が子供に伝わっていることを意味する。セント・ローレンス川のメスのベルーガは北極圏のベルーガに比べて卵巣のはたらきが鈍く、妊娠率も低くなっている。


13. バルト海の汚染魚(バルト海のニシンにはダイオキシンのように作用するエストロゲン類似化学物質が北大西洋産の10倍も含まれていた)を2年間与えられたアザラシには生殖障害が確認されている。一方、汚染度の低い北大西洋産の魚を食べていたアザラシの個体群には一切問題は見られなかった。バルト海の魚から検出された汚染化学物質は、セント・ローレンス川のべルーガが食べている魚から見つかったものとよく似たものだった。


14. 1987年ジステンパー・ウィルスのため推定1万頭のバイカルアザラシの大量死。


15. 1987年アメリカ東海岸で700頭のバンドウイルカの大量死。


16. 1988年北海での2万頭のゴマフアザラシの大量死。


17. 1990〜1993年地中海のシマイルカのジステンパー・ウイルス感染による1千頭の大量死。


18. 1995年ラービスらはイルカの血液中のPCBやDDTの血中濃度が高くなるほどリンパ球の免疫応答が低下することを発表。これらの事実は、海洋での食物連鎖の頂点に位置する海洋哺乳類は高レベルの汚染物質を体内に蓄積しており、その子供は初めから免疫不全をかかえたまま生まれてくる。海洋哺乳類の大量死はこうした先天性の免疫不全と、誕生後に汚染海域で長期にわたって暴露してきた環境ホルモンとの「悪の相乗効果」によって起こるべくして起こったのかもしれない。環境ホルモンに胎内で暴露している子供は、成長後の暴露しか経験していない親に比べて、病気に対する抵抗力が著しく劣っている。


19. 1995年世界各国でカエルの減少報告。
1993年フェースマイヤーらはフロリダヒョウのオスの性ホルモン比率(アンドロゲンとエストロゲンの比率)の逆転を観察=オスのメス化。フロリダヒョウの脂肪から致死レベルの水銀のほかに、DDEが57.6ppm,PCBが27ppm検出された。


20. ハクトウワシ(カモメより高い食物連鎖に位置する)の生殖能力の低下。


21. イギリスでのカワウソの絶滅


22. 成長促進薬DES(合成女性ホルモン剤)で飼育されたニワトリの肉やPCB濃度の高い魚で飼育されたミンクの不妊症、ヒナの高い死亡率。0.3から5ppmのPCBが含まれた食物を与えられると不妊症。=今日、五大湖でとれる魚やヒトの母乳の乳脂肪に含まれるPCBと同じレベル。


23. オンタリオ湖のセグロカモメに発生した奇形の多発とヒナの高死亡率


24. 南カリフォルニアのセイヨウカモメのつがい行動の低下


25. フロリダ、アポプカ湖<1980年タワー化学会社のディコフォイル(DDTと近縁の殺虫剤)流出事故があった>の雄アリゲーター(ワニ)のぺニスの萎縮化と孵化した子供の高死亡率。オスの血液中性ホルモン比率は標準的なメスのそれと同じ。メスのほうもエストロゲン・レベルが高く、アンドロゲンに対する比率は通常の2倍だった。アリゲーターの卵に1ppmという微量のDDEを塗る実験では、生殖器官が未発達の個体が通常より高い割合で生まれてきた。同じような現象が植物を食べるアカミミガメにも見られた。


26. 多摩川の雄コイの精巣萎縮


27. 1991年セイガーらは生後間もないラットにPCBに汚染された母乳を与え、成長後にそのラットの精子を調べてみたところ、特にこれといった異常は認められなかったが、交尾させてみると、卵子を受精させることができないばかりか、できたとしてもその受精卵は発育できなかった。

環境ホルモンのまとめ:
・内分泌、特に性ホルモン作用をかく乱して、性発達の障害による不妊症をきたす。
・分解されにくく、体脂肪に結合して体内に蓄積され、母乳を通じて母体から子供に移行する。
・免疫不全をきたす可能性。
・子宮内膜症、乳がんを発症する可能性。
・前立腺肥大、前立腺がん、精巣がんを発症する可能性。
・多動症、学習障害、知的障害、攻撃性、軽度のストレス下での過剰反応(キレる)の可能性。
・身の回りの人々に見られる不妊症をはじめ、学校で慢性化している学力不振、家庭崩壊、幼児無視や幼児 虐待、社会 に蔓延する暴力などとどのくらい関連しているのか?



環境ホルモン解説:


エストロゲン類似作用について]

 女性ホルモンであるエストロゲンは、標的細胞のエストロゲン受容体と結合してはじめて、生物学的活性を発揮できる。本来、エストロゲン受容体にはエストロゲンしか結合できないとされてきた。合成エストロゲンのように、細胞のエストロゲンの受容体に結合してあたかもエストロゲンのような働きをするエストロゲン類似作用を持つ物質をエストロゲン類似物質という。合成エストロゲン(DES)は天然エストロゲンとは構造が異なる。1938年エドワード・ドッズが合成に成功した。
 子宮内でDESに暴露したオスには精巣の下降不全(停留精巣)をはじめ、精巣の発育不全、精巣上体の嚢胞、奇形化した精子、生殖力の減退、生殖器の腫瘍が発生(マウス)。のちにヒトでも確認された。関節炎。女性の両性愛傾向、子育てに無関心、不安、神経性食欲不振。強迫神経症。女性40%、男性70%がうつ状態。
マウス実験では子宮内でDESに暴露しているとヘルパーT細胞の数が減ってくる。
 エストロゲンは血液中では大部分が遊離の状態ではなく、性ステロイド結合グロブリンという蛋白と結合し、必要な分だけがエストロゲン受容体と結合して生物学的活性を発揮する。すなわち過剰なエストロゲンは性ステロイド結合グロブリンに結合され、その作用はブロックされている。しかし、性ステロイド結合グロブリンはDESを認識しないため、胎児のDESへの過剰な暴露を食い止めることはできない。
 1938年より数十年間DESが流産や早産予防のため妊婦に投与された。またニワトリや雌ウシを効率的に肥らせるため飼料に混入したり、注射した。若年層に生ずるごく稀な膣ガン(明細胞腺がん)が、その母親が妊娠中に服用していたDESと関連している。妊娠10週以前の服用がガンを誘発する可能性が高くなる。
これらはDES症候群と名付けられた。

ホルモン様合成化学物質は人畜無害な要素に分解されにくい。
ダイオキシン、DDT、PCBのような有機塩素化合物は水に溶けにくく、熱や酸、アルカリなどでも分解されにくい化学物質であり、一旦環境中へ投棄されると長期間残留する(残留性化学物質)。動植物の脂肪中に取り込まれやすく、脂肪を含む食品に移行しやすい性質を持っている。大気中に放出され、地上に落下すると地面にしみこみ、雨に流され、川、海に流れ込み、海底に堆積する。やがて植物プランクトンに取り込まれ、動物プランクトン、アミ(オキアミのような)、小魚などに取り込まれる。小魚をそれより大きな魚が食べる。このように食物連鎖の上位に位置するものほど、残留性化学物質は高濃度に濃縮される=生物濃縮

アンドロゲン遮断作用について]
 
ビンクロゾリン(果物についた真菌類の駆除薬として広く使われている)やp'p-DDE(DDTの分解物質)はアンドロゲン・受容体と結合してアンドロゲンが細胞の受容体に結合するのを妨げ、アンドロゲンの作用を遮断する。その威力は前立腺がんの治療に使われるフルタミド(男性ホルモン遮断剤)に匹敵する。胎生期にテストステロン・メッセージが遮断されてしまえば胎児の精巣が下降してこない場合もありうる。
エストロゲンにも弱いながらアンドロゲン遮断作用がある。
またDDEにはホルモンを分解し、その分解物質を直ちに体外へ排泄しホルモンレベル低下させる作用もある。

環境ホルモン各論]

1. 
DDT
(1938年パウル・ミュラー開発、1948年ノーベル賞)
 半減期100年で残留性が高い。母乳のDDT濃度は世界平均で30ppb。未開発国ではこれより100倍も高い。北極ペンギンの脂肪中では73ppm(7万3千ppb)が検出された。 ペンギンは魚のみを食べる。ペンギンを主食とする北極クマで最も高濃度に生物濃縮される。
DDTを規制している先進諸国では、環境中のDDT濃度は1970年代後半から劇的に低下しているが、ヒトの体組織中のDDT減少率は緩慢な動きしか見せていない。途上国ではマラリア防除のため未だに使用されている。
1950年、シラキューズ大学の研究チームがDESとDDTが化学構造上きわめて類似している事実を突き止めた。DDTを投与された若い雄鶏の精巣が著しく阻害され、オス特有の立派なトサカや肉垂も現れなかった。
DDTに代わるメトキシクロルは残留性は低いが、ホルモン作用かく乱物質である。他にケルセン、ヘプタクロル、ケポンなどの殺虫剤にもエストロゲン類似作用あり。

2. PCB
 
1929年にPCBが導入された。変圧器、潤滑剤、作動油、切削油、燃えない木材、燃えないプラスチック、丈夫で長持ちするゴム、水に強い漆喰、ペンキ、ワニス、印刷インク、殺虫剤、カーボンレスのコピー紙、トランジスタ、電流安定装置などに用いられ、150万トン生産された。
PCBは高度に生物濃縮される
 
ミジンコのようなプランクトンで水中濃度の400倍に濃縮される。次いでアミ、キュウリウオ、マス、セグロカモメ、ハクトウワシ2500万倍の順で濃縮される。
別ルート=セグロカモメの卵、ウミザリガニ、アメリカウナギ(死亡)、カイアシ(小えび)、ホッキョクダラ4800万倍、ワモンアザラシ3億8400万倍、ホッキョクグマ30億倍。

母乳中の濃度:ドイツ100ppb、デンマーク140ppb、スペイン250ppb。
ホッキョクグマの脂肪から1992年に90ppm(9万ppb)のPCBを検出。
1964年、デンマーク生まれのソーレン・イェンセンが広範囲のPCB汚染を指摘した。
1972年日本で生産、使用を禁止。
1976年アメリカがPCBの生産を禁止。
ソビエトが1990年まで生産を続けた。
ヒトの体組織中に残留しているPCB濃度はここ数年ほとんど変わっていない。つまり暴露件数は一向に減っていないということである。かって製造されたPCBの三分の二がいまだに変圧器その他の電気設備に使われたままになっており、PCBを封入した製品が劣化し、いつ環境中に放出されてもおかしくない状態である。適切な回収・処分処置が必要である。

3. ダイオキシン


2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin(2,3,7,8-TCDD)が最も毒性が強い。遅発性。塩素結合の位置の違いによって75種あり。ng-TEQ, pg-TEQ=毒性等価係数=2,3,7,8-TCDDのもつ毒性に換算。
・ポリ塩化ダイベンゾフラン=135種あり。
・コプラナーPCB
[発生]
 ダイオキシンの80%はゴミ焼却場から発生している。塩化ビニールなどを含んだプラスチック類や人工合成品を300度から600度の比較的低温で、酸素が足りない不完全燃焼させたとき(黒い煙が出る)に発生する。850度以上の高温ではほとんど発生しない。日本のゴミ焼却場に多い小型焼却炉は燃焼温度が上がりにくく、ダイオキシン発生量が多い。水分を多く含んだ台所ゴミは燃焼温度を下げ、ダイオキシンが発生しやすくなる。家庭用の小型簡易焼却炉は最も危ない。その他殺虫剤や木材用防腐剤に使われる塩素含有化学物質の製造、塩素による紙の漂白、工場排煙などで発生する。
 日本のゴミ焼却量はアメリカを抜いて世界一多く、1996年の厚生省の報告によると、
全国のゴミ焼却施設からの年間ダイオキシン発生量は5,300グラム。ゴミ対策を徹底しているドイツは、日本の千分の一以下の4グラムでしかない。
ダイオキシンの発生をへらすには燃やさないこと、すなわち塩化ビニール製品のゴミを出さないこと、リサイクルで同じ容器を何度も使うこと。
塩化ビニール製品の例:
食品のラップ類、トレー、コンビニ弁当の容器、おかずの残り、ハムなどの密着包装、靴下、農業用ビニール、サンダル、ゴム手袋、人形、ペットボトル、カセットテープ、塩ビ管など。
[侵入ルート]

 
焼却炉から発生したダイオキシンは風に乗って広い範囲にばらまかれる。野菜、果物、牧草も汚染される。焼却灰にも含まれる。植物では次に述べる有機物にある生物濃縮はみられない。
地上に落下したダイオキシンは雨によって流され、川から池や海に流れ込み、水底に堆積する。他の堆積物の粒子状物質と結合し、植物プランクトン、動物プランクトンに摂取される。次いでアミ類、小さい魚、大きい魚と食物連鎖の中で順次濃縮され、さらに魚のみを捕食するカモメ、アザラシの順に生物濃縮が進む。アザラシを食べる北極グマは最も濃縮度が高い。
呼吸や皮膚接触によってもヒトの体内に侵入するが、
日本人では95%は食物から、そのうち60%は魚介類を通して体内に入る。
近海魚のダイオキシン濃度は遠洋沖合魚のそれより10倍高い。
脂肪の多い魚はより多くダイオキシンを蓄積している。
牛、鳥、豚は穀類、干し草を飼料とし、生物濃縮はないため汚染度は低い。またヒトより生存期間が短いため、蓄積量も少ない。

一般的生活環境のダイオキシン類暴露量 魚の摂取量が多い場合のダイオキシン類暴露量
ゴミ焼却施設周辺 大都市周辺 大都市周辺 中小都市 田舎
摂取総量pg/kg/日 1.79〜5.09 0.52〜3.53 1.90〜5.28 1.87〜5.25 1.66〜5.04
食物 % 14.5〜64.0 50.0〜92.6 85.7〜94.9 87.2〜95.4 98.2〜99.4
大気 % 50.3〜23.6 34.6〜5.1 9.5〜0.34 8.0〜2.86 1.2〜0.4
水  % 0.05〜0.02 0.2〜0.03 0.05〜0.02 0.05〜0.02 0.06〜0.02
土壌 % 35.2〜12.4 16.1〜2.4 4.4〜1.6 4.5〜1.6 0.63〜0.2

                         「ダイオキシン排出抑制対策検討会報告書より転載」

ゴミ焼却施設周辺では大気や土壌からの摂取が多く、魚の摂取量が多い日本人では食物からの摂取が多い。平均の2倍程度の量の魚を摂取し、動物性蛋白質として肉、卵を摂取しない人ではダイオキシンの99%は魚から入る。

重量単位 濃度
μg(マイクログラム) =100万分の1グラム ppm=100万分の1グラム/ml =1mg/L
ng(ナノグラム)   =10億分の1 グラム  ppb=10億分の1グラム/ml  =1mg/1000L  
pg(ピコグラム)   =1兆分の1グラム ppt=1兆分の1グラム/ml  =1mg/1000by1000L 

[特性]
1日4mg-TEQ(1000分の1グラム)で急性症状(皮膚炎、多発性神経炎、眼球振盪、肝機能不全)。慢性症状(体重減少、胸腺萎縮、肝臓の代謝障害、心筋障害、ホルモンやコ レステロール代謝障害、塩素ざそう、学習能力の低下、中枢神経症状)。
1日1μg-TEQ100万分の1グラム)で形態異常。
1日10ng-TEQ(10億分の1グラム)で発がんの可能性。
 軟組織肉腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病に罹患。
・北イタリアのセベソの化学工場の爆発事故の住民から5万6000
pptを検出。
・オレンジ剤=除草剤2,4-Dと2,4,5-Tを混合したもの。これらの製造過程でダイオキシンが生成される。
ベトナム枯れ葉作戦に使われた。
DDTやPCBと同じように体脂肪への残留性が高い。他の残留性化学物質同様、大気、水、土壌、堆積物、食物などから広く検出されている。
・1992年ピーターソンらは、発育上のポイントともいえる時期(ラットでは妊娠15日目=性決定プロセスの中でもとりわけ重要な時期)に小量のダイオキシン(先進国で人体か ら検出されているダイオキシンや関連化学物質の濃度にほぼ等しい)を投与されたラットから生まれたオスには、精子数の減少が現れたと報告。
・オンタリオ湖の土着のマスが絶滅した。マスはダイオキシンに極めて敏感。40ppt
2,3,7,8-TCDDに暴露させただけで卵も孵化したばかりの幼魚も高い死亡率を示し100pptで全ての卵が死滅。
・DDT,ダイオキシン、そしてPCB類はごく微小な有機物に極めて効率よく結合し湖底の泥の上に堆積する。湖底近くに棲息するカジカはほかの魚に比べて暴露レベルが高いため絶滅した。マスはカジカを餌にしている。
・五大湖のサケはすべて、甲状線が異常に肥大している。五大湖の魚のみを餌にするセグロカモメにも甲状線肥大が見られた。
・WHO委員会が1990年に決めたダイオキシンの耐用一日摂取量は体重1キログラムあたり10pg(ピコグラム=1兆分の1グラム)以下。アメリカは0.01pgと世界一厳しい。農水省のデータによれば、母乳で育てられている生後2ヵ月の乳児はこの10倍以上にあたる110pgを摂取している計算になる。


4. ノニルフェノール
 
1991年ソトとゾンネンシャイン博士は、エストロゲン類似作用を持つ化学物質として、プラスチック製試験官からエストロゲン様効果を持つ化合物P-ノニルフェノール(アルキルフェノールAlkylphenol)を抽出した。ポリスチレンとポリ塩化ビニル(PVC)に酸化防止剤としてノニルフェノールを添加すると、安定した分解しにくいプラスチックになる。
食品加工包装業界ではアルキルフェノールを含むPVCが使用されていた。
PVC製の水道管を通る水はノニルフェノールに汚染されている。
クリーム状の避妊薬に使われる化合物ノノクシノール-9に含まれている。ノノクシノール-9が動物の体内で分解するとノニルフェノールが生成する。
工業用洗浄剤、殺虫剤、薬用化粧品などに使われるアルキルフェノール・ポリエトキシレートが動物の体や、環境や、下水処理施設に棲みついているバクテリアによって分解されるとノニルフェノールなどの
エストロゲン類似化学物質ができる。
イギリスでは毎年2万トンのノニルフェノールが使用された。サンプターらは1995年、いくつかの川で50ppb以上のノニルフェノールを検出した。下水処理施設の排水溝の下流にある潟で魚の雌雄が判別できなくなり(間性)、オス魚のビテロギニン・レベル(ビテロギニン=メスの魚のみがエストロゲンに反応してつくり出す特殊な卵黄蛋白)上昇を確認。
ヨーロッパおよびスカンジナビア14か国は2000年までに撤廃することで合意。

5. ビスフェノールA
1993年スタンフォード大学のKrishnanらは、実験用フラスコ、食品、飲み物の容器などの日用品に使われている透明な硬いプラスチックであるポリカルボネートからしみ出す2〜5ppbのビスフェノールAでエストロゲン反応が引き起こされることを発見。
スペインのOleaらは1995年缶詰食品のほぼ半数から最高80ppbのビスフェノールAを検出した。缶詰の内側には金属成分の浸出を防いだり、金属臭が食物に移らないようにするため、プラスチック・コーティングが施されている
子供の虫歯予防に使われるシーラントや詰め物にも使われている。

6. フタル酸化合物
プラスチックの柔軟剤として床用のビニールタイル、合成皮革、合成ゴムなどの工業製品に使われている。

7.  植物エストロゲン
 1940年代に西オーストラリアで新たに導入された地中海原産のクローバーのため、ヒツジの不妊と死産が大量に発生した。後にクローバーに含まれるフォルモノネティンのエストロゲン類似作用が原因であることが判明した=植物エストロゲン=疑似ホルモン。
大豆、ブロッコリー、キャベツ、サヤインゲン、オオウィキョウ、ザクロ、パセリ、セージ、ニンニク、コムギ、オオムギ、米、ジャガイモ、ニンジン、エンドウマメ、アルファルファの新芽、リンゴ、サクランボ、プラム、コーヒー、にも植物エストロゲンは含まれる。これらの植物を食べる動物を不妊にすることによる植物の自衛手段。ヒトは長いあいだ、このような植物エストロゲンと共にいきてきたために、次第にそれらに適応してきたが、植物エストロゲンを含む植物の偏重した摂取は悪影響をおよぼすかもしれない。
 合成エストロゲン類似化学物質は分解されにくく、体内に蓄積される。天然植物エストロゲンは1日で体外に排泄されるが、合成エストロゲン類似物質は何年も残留する。

8. その他
現在確認されているだけで、70種類以上の化学物質にホルモン類似作用が確認され、毎年その数が増えている。

[対処法]
 子宮内で暴露した場合に重大で永続的な被害を誘発するおそれのあるホルモン作用攪乱物質が母体に蓄積しないように妊娠中に限らず、数年あるいは数十年単位での注意が必要。というのも子宮を汚染する有害物質の濃度は、妊娠中の摂取量と妊娠までに体脂肪中に蓄積された汚染物質の量によって決まるからである。2、30年にわたって母体に蓄積された汚染物質は、妊娠や母乳の授乳を通じて子供に引き継がれていく。したがって個人だけでなく社会全体で、この有毒の遺産をへらしてゆくという姿勢が大切である。未来の人類のためにも、子供たちをできるだけ汚染物質にさらさないようにし、妊娠までに女性の体内に蓄積される汚染物質の量を最小限に食い止めねばならない。


1. 水に注意する
 
殺虫剤を大量に散布する期間とその直後は特に注意が必要。アトラジンとダクタルの除草剤は歩哨の役割をはたしている。このいずれかが検出されれば、ほかにも殺虫剤が混入している可能性がある。プラスチック・ボトル入りの天然水は要注意。


2. 食物に気をつける
 
子供と出産年令に達していない女性はダイオキシン、PCB、DDEなどの残留性の高いホルモン作用攪乱物質に汚染された魚はたべないようにすべき。動物性脂肪は極力控えたほうがよい。魚は獣肉よりも蛋白源として優れているが、摂りすぎに注意。プラスチックと食品との接触を最小限に抑える。食品を温めたり、電子レンジにかけたりする場合は決して食品をプラスチック容器に入れたり、ラップで包んだりしないこと。電子レンジで調理をするときはガラスか陶器の器を使用する。牛乳の
残留性化学物質の量は母乳の五分の一に留まっている。その理由としては、牛がヒトに比べて短命であること、草食動物であること、乳しぼりによって汚染物質を毎日体外へ排出していることが考えられる。それでも現在のところ、母乳栄養の優位は動かない。


3. 化学物質の使いすぎと暴露を避ける
 
合成化学物質の大半は気化して机、家具、衣服などに付着しているため、こまめに手を洗うこと。殺虫剤、除草剤は使わない。乳児にはペンキやニスを塗っていない木製ないしは天然繊維製の玩具を与えたい。
先進諸国では
DDTや残留性化学物質にさらされることはなくなってきているが、その一方でホルモン作用攪乱物質にさらされる危険は激増しつつある。この20年間でガラスや紙の包装はすっかり影をひそめ、それに代わってプラスチックの包装がどれだけ増えたことか? プラスチックは当初考えられていたのとは違って化学変化を起こし、プラスチックから出るある種の化学物質はホルモンのように作用する。プラスチックはいたるところに使われているから、ホルモン作用攪乱物質にさらされる危険は常にあるわけである。プラスチックは炭酸水から調理用オイルにいたるありとあらゆる日用品に含まれている。またプラスチックは金属缶の裏地にも使われているし、子供の玩具にはうってつけの素材だ。


4. 燃やすゴミを極力減らす
 
我が国はダイオキシン排出量が世界一で、ゴミの焼却を厳しく管理しているドイツより1000倍も多いと云われ、その80%はゴミ焼却場から排出している。空中に飛散したダイオキシンは地面に降り、川から海に流れ込み、魚の脂肪中に取り込まれ、最終的にはダイオキシンを排出した人間のところに戻ってくる。魚が大好きな日本人に最も多くダイオキシンは蓄積されるかもしれない。