
平成12年春より法制化されるチャイルドシートの着用義務について、賛否両論の意見があります。
外科系ではない私の小児科医院でも、急ブレーキや軽い衝突が原因のケガの手当てをすることがあります。これらの殆どがチャイルドシート(単にシートとも書きます)を着用していれば避けられた外傷で、部位は頭部か顔面が多く、なかには外科や脳外科に紹介して、傷跡や後遺症の心配をしなければならない場合もあります。
シート着用の法制化とは無関係に、幼い子供達を事故から守るためにチャイルドシートを着用すべきと考えます。
正しく着用していればチャイルドシートはある限度以下の衝撃から子供を守れるはずですが、それでも最近、着用中の死亡事故のためシートに対する訴訟がありましたし、数日前にもシート着用中の事故で運転者は軽症で済んだが幼児が死亡する痛ましい事故がありました。シートを装着しているにも拘わらず起こる死傷事故は、米国でも85%あると云われる着用ミスが原因のほとんどであろうと思われますが、シートの性能や品質が死傷事故の原因でないかどうかを調べたデータは日本では現在のところ、公表されていません。
客観的な報道をすることで定評ある、ドイツの自動車雑誌 Auto Motor und Sport(アウト・モトア・ウント・シュポルト、AMS誌)が衝突試験を自社で行い、ドイツで販売されているチャイルドシートに対して厳しい評価を下した記事を最近載せています。中身の濃い記事でしたので、衝突試験の結果と個々のシートに対する評価を、なるべく原文に忠実に翻訳するよう心掛けて、このページを作りました。日本でも早期にこのようなテストが行われ、その結果を私達が知る事ができることを願っています。
はじめにシートが必要な理由とシートの種類の説明を簡単にします。子供の体格に合ったシートを、きちんと着用しなければ効果がないからです。これについてはインターネットで多くのページがありますので、飛ばし読みをしていただいて結構です。メインのページは第3章の「チャイルドシートの安全性テスト」です。
また、このページを作成するに当たって、予めデータや記事の転載をする了承をAuto Motor
und Sport誌から得ています。
目次 1. チャイルドシートの必要な理由
2. チャイルドシートの種類
-特に着用ミスの少ないUCSSS方式について-3. チャイルドシートの安全性テスト
-Auto Motor und Sposrt誌より-
警視庁の調べによると、下の表のように平成6年から10年まで、過去5年間の6才未満児の交通事故のうち、チャイルドシートを着用していなかった場合の致死率は、着用していた場合と比べて約4.5倍、重傷率では約2.5倍高くなっています。
| 日本の統計 (平成6年から10年まで) |
被害者数(人) | 被害率(%) | |||
| 死者数 | 重傷者数 | 軽傷者数 | 致死率 | 重傷率 | |
| チャイルドシート着用 | 2 | 29 | 4290 | 0.05 | 0.72 |
| チャイルドシート非着用 | 63 | 520 | 29987 | 0.21 | 1.91 |
財団法人交通事故総合分析センター(ITARDA)の試算によるとチャイルドシート着用率100%のとき死者は現在より75%減少し、重傷者は57%減少すると云われます。
これらの結果はチャイルドシートを着用することが、いかに子供の交通事故の被害を軽減するために効果があるかを示しています。
| 年令 | チャイルドシート着用 | 大人用シートベルト着用 | 大人が抱っこ | そのまま着座 |
| 0〜12ヵ月 | 31.4 | 1.2 | 55.4 | 12.0 |
| 1〜4才 | 8.5 | 4.0 | 18.6 | 68.9 |
| 5〜8才 | 1.0 | 9.8 | 2.6 | 86.6 |
| 平均 | 8.3 | 5.5 | 17.1 | 69.1 |
・シートの着用率が最も高いのが0〜12ヵ月ですが反面、この年令層の半数以上が抱っこされている危険な状態です。
・着用率は年令が上がるにつれて低くなる傾向があります。
・1〜4才で69%が、5〜8才で86%がシートなしで、そのまま着座している危険な状態です。
・成人用のベルトだけで固定された場合、事故の際に重症または致命的負傷の危険性が7倍にも増加します。
チャイルドシートを着用すれば、死亡率が1/4以下にさがります。
身長や体重に適合したチャイルイドシートを正しく着用しないと、事故の際に子供を守る事は出来ません。下の表は年令や体格(体重)に合ったシートを示します。しかし、現在の3点式シートベルトでチャイルイドシートをきちんと固定するには、ある程度の熟練と力を要し、チャイルイドシート先進国のアメリカでも85%着用ミスがあると云われています。これを解決する新しい方法(UCSSS)が最近開発されましたので、後にのべます。
| 年令 | ドイツ分類 | アメリカ分類 | シートの向き |
| 0〜18ヵ月 (体重3〜13Kg) |
クラス0+ | ベビーシート | 後向き |
| 9ヵ月〜4才 (体重9〜18Kg) |
クラス1 |
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後、ないし前向き |
| 3〜7才 (体重15〜25Kg) |
クラス2 | 前向き | |
| 6〜12才 (体重15〜36Kg) |
クラス3 | ジュニア用 ブースターシート |
前向き |
ドイツでは4つのクラスに分類されていますが、実際には4種類全部を購入する必要はなく、ベビーシートとチャイルドシートの2種で乳児から体重36Kg,あるいは12才まで対応できます。BMW社の一例で示します。
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BMW ベビーシート クラス0+
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| BMW チャイルドシート クラス1 シート・クッション、かこみ机(セフテイ・テーブル)、高さ調節可能なバックレスト、支持脚(サポート・フット)で構成。 3点式ベルトで後部座席か、エアバックの作動を停止させた助手席に装着する。 9ヵ月〜4才(体重9〜18Kg)に適合。 セフテイ・テーブルを取り外せば、クラス2として使用できる。 |
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BMW チャイルドシート クラス2 シート・クッション、12cmまで高さ調節可能なバックレスト、サポート・フットで構成。 |
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BMW ジュニア用シート クラス3 シート・クッションに内蔵されているフツクを起こして使用。 |
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1. 購入した店の専門家に、できるだけ取付けるところを見てもらう。
2. 初めの取付け前に説明書をよく読む。
3. 子供に合わせてシートの調節する。このさい問題があれば、メーカーが附属品(オプションのクッション、または枕)を用意しているかを問い合わせる。
4. 自動シートベルト・システムについて自身で調べてください。多くの新しいシートベルトは制動(ロック)機能によってチャイルイドシートを長時間、強固に固定できる。
5. 取付けに熟知したら、貴方がたのご両親、またはシートを取付ける人に貴方がたの経験を伝えてください。
参考のために: チャイルドシートは幾らしっかりしたものでも、きちんと着用しなければ万一の事故のときに大きな加速度(50Km/hの衝突で30Gの力=体重とシートの合計重量の30倍の重力)がかかります。たとえば、体重15Kgの子供が6Kgのシートに固定されているとすると、約630Kgの重量物がフロントグラスを突き破って飛び出し、シートを着用しないより更に悪い結果をもたらすことになります。
チャイルドシートの装着を統一して、単純化することにより、装着ミスによる事故を減らそうとする新しいシステムが米国で採用されます。本年9月から米国で段階的に導入され、3年間で全ての米国のクルマに装備されます。UCSSS ( Universal Child Safety Seat System 、統一チャイルドシートシステム)と呼ばれる方式です。このシステムの導入により、米国で年間50人の生命が救われ、負傷者が3000人減少すると試算されています。
1. 後部座席のお尻の後ろに設置された2個の強固なアンカー(下部アンカー)にチャイルドシート側の2個のコネクターを差し込むだけ。差し込みは極めて簡単で、強固に固定され、取付けミスはありません。
2. 上のようなチャイルドシートの取付け方法をイソフィックス方式と云います。これに対応しているメーカーは現在のところ、アウディ、ルノー、セアト、フォルクスワーゲン、オペルのヨーロッパの各社ですが、イソフィックス方式のアンカー装着車の生産台数は少ない。日本ではトヨタが計画中です。オペル社はオペルフィックスというチャイルドシートを作っているが、これはオペルのクルマにしか装着できません。現在市販されているチャイルドシートは、次の安全テストの項で比較しているボテックス・ボブシィG1 (Votex Bobsy G1 Isofix)とアウディ・ヒュッヶパックG1の2品目だけです。
2. さらに、リアウインドーシェルフ(後席後ろの棚)の1個アンカー(上部アンカー)にチャイルドシート上部のテザー・ストラップと呼ばれるつなぎ綱を取付ける。
3. 2個の下部アンカーでチャイルドシートをより完全に固定し、テザー・ストラップで衝突のさい、チャイルドシート上部が前方へ飛び出さないようにします。すなわち、イソフィックス方式とテザー・ストラップとでチャイルドシートを強固に装着する方法をUCSSS と呼びます。
4. 後部座席には少なくとも2組のUCSSSが設置されます。
5. UCSSS 方式のクルマにも、現在の3点式シートベルトで固定するチャイルドシートはそのまま使用できます。
1992年以来、Auto Motor und Sportは60以上のチャイルドシートの衝突試験をおこなった。これらはいづれもヨーロッパ安全規準ECE-R44.03をクリアーしている商品であったが大抵は不満足な結果であった。メーカーは安全なチャイルドシートとは何かを理解できたのであろうか?
今回はドイツで販売されているクラス1(9ヵ月〜4才、体重9〜18Kg用)とクラス2(3〜7才、体重15〜25Kg用)のチャイルドシートをそれぞれ10品目ずつ、合計20品目のテストを行った。これらのうち、数品目は日本でも販売されている。衝突試験の前には全てのチャイルドシートは強固に見えたが、がっかりしたことに、合格して「推奨できる」の称号をつけられるのは、20品目のうち5品目だけで、しかも6品目は「推奨できない」商品であった。
加藤のコメント:
アメリカは自動車安全先進国であり、世界で最もチャイルドシートが早くから普及した国であると思います。今回、転載するのはドイツのデータですが、アメリカにもこれ以上のデータがあるはずです。チャイルドシートメーカーに対しては第三者であるAuto Motor und Sport誌のような客観的で、しかもEuro-NCAPやECE-R44/03よりきびしい判定をする機関が日本にもあればよいと思います。
1. フォルクスワーゲン・ゴルフ4型の後席にチャイルイドシートを3点式シートベルトで固定し、50km/hで障害物に衝突させた。
2. チャイルイドシートに装着されたダミー(人形)は、クラス1では3才児に、クラス2では6才児に相当するハイブリッド第3世代のバイオ人形であり、衝撃に対する脊柱の反応がそれぞれの年令相当であった。
3. われわれのテストの衝撃強度は、ヨーロッパ衝突安全規準ECE-R44.03の20〜28gよりも高い33gであった。
4. ダミーとチャイルイドシートに起きた衝突の経過を高速カメラで撮影した。
5. ダミーには応力と加速度センサーが装置され、衝突時のデータを記録した。
6. 衝突のさいに測定された頭部傷害度(head injury criterion=HIC)、頭部加速度、首にかかる力、胸部加速度、頭部の前方への突出度、および高速カメラで撮影したダミーの動きを総合して負傷危険性を色分けして低い、中程度、高いと示した。
7. これらの結果を下の表にまとめた。左端の青の商品名をクリックするとシートのイラストと特徴、衝突写真のイラスト、個々のシートを評価したページに移行する (リンクする)。
HIC、頭部突出度、頭部加速度、胸部加速度の制限値がクラス1より低くなっている。即ち、クラス2のほうが安全性に対する要求が厳しくなっていることに注意。
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判定 |
負傷危険度 | 測定値 :HIC=頭部傷害度, 1g=9.81m/s2、 N=ニュートン | |||||||
| HIC | 頭部加速度 | 首にかかる力 | 胸部加速度 | 頭部突出度 | ||||||
| 全体 | 頭 | 頚 | 胸 | < 825 | < 80g |
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< 55g | < 55cm | ||
| 推奨 | 低 | 低 | 低 | 低 | 417 | 52.8 | 1600 | 51.4 | 51 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 推奨 | 低 | 低 | 低 | 低 | 339 | 57.5 | 1700 | 44.2 | 50 | |
| 条件つき推奨 | 中 | 低 | 中 | 中 | 547 | 58.4 | 2100 | 59.7 | 44 | |
| 条件つき推奨 | 中 | 低 | 中 | 中 | 746 | 62.2 | 2000 | 57.4 | 37 | |
| 条件つき推奨 | 中 | 低 | 中 | 中 | 767 | 66.4 | 2100 | 56.4 | 42 | |
| 推奨できない | 高 | 高 | 高 | 中 | 1143 | 77.2 | 3300 | 57.4 | 40 | |
| 推奨できない | 高 | 高 | 中 | 高 | 1213 | 72.7 | 2400 | 68.7 | 32 | |
| 推奨できない | 高 | 高 | 低 | 高 | 1142 | 70.7 | 1900 | 64.8 | 41 | |
| 推奨できない | 高 | 低 | 低 | 高 | 326 | 52.7 | 1700 | 51.1 | 42 | |
| 推奨できない | 高 | 高 | 高 | 中 | 1309 | 84.6 | 2700 | 58.1 | 42 | |
1. チャイルドシートを着用したダミーをフォルクスワーゲン・ゴルフの後席に装着し、時速50Km/sで衝突試験を行った。対象はドイツで販売されているクラス1のチャイルドシート10品目、クラス2のチャイルドシート10品目、合計20品目であった。
2. 高速カメラで衝突経過中のダミーの動きと、頭部の前方突出距離とを撮影した。また、ダミーに設置したセンサーで頭部傷害度、頭部加速度、首にかかる力、胸部加速度を測定した。
3. 測定された数値にそれぞれ安全許容限度値を設定し、この値を大幅に超えたものを負傷危険度が高い、少し超えたものを中等度、以下のものを低いと判定した。
4. クラス1のチャイルドシートでは衝突の際に部品が変形、あるいは破損したものが3品目あった。
5. クラス2ではシートベルトに対するチャイルドシートの誘導設定(取付け)が悪いため、衝突の際にシートベルトが首や腹部を締めつける恐れのあるものが5品目あった。
6. 試験したチャイルドシートはヨーロッパ衝突安全規準(Crash-Norm ECE-R44.03)を満たしているにも拘わらず、負傷する危険度が低く「推奨できる」ものは5品目しかなく、6品目は「推奨できない」、9品目は「条件つき推奨」であった。
7. 衝突試験の前には全てのチャイルドシートは強固に見えた。しかし、装着ミスがなくとも、製品によっては衝突時に保護作用を期待できないものがかなり多い。
8. 日本で販売されているチャイルドシートのうち、このような厳正な試験で「推奨できる」評価を受けられるものは幾つあるだろうか?
9. 日本でも2000年1月にようやく国土交通省の国内安全基準が定められた。下の表に国土交通省とAuto Motor
und Sport誌
との制限値を比較した。頭部加速度と頭部突出度とは同等だが、国土交通省の胸部加速度は甘く、HICと首にかかる力は日本では測定していない。本誌が1998年にすでに「古い」ときめつけた欧州の基準(ECE
R44/03)が日本での最新の基準同等としてまかり通っているのが残念である。
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さらに、本誌は2002年20巻(10月16日号)で世界で初めて側面衝突試験の結果を報告した。「その2」で解説する。
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