2017年用


 新型インフルエンザAH1N1流行の翌年、2010年(平成22年)に「小児感染免疫」という小児科医学雑誌に新型インフルエンザAH1N1についての分析を投稿しました。要旨は前シーズンにA型インフルエンザに罹った人は翌シーズンに新型インフルエンザAH1N1に罹りにくいというものです。PDF化した投稿内容をリンクしますので、下のPDFアイコンをクリックして下さい.




 インフルエンザは毎年流行を繰りかえし、軽い症状も含めると60%位の人が感染するといわれる。ウイルスにはA、B、およびCの3型があり、A型には表面の蛋白質の違いにより、さらにいくつかの亜型がある[例:A香港かぜ(AH3N2)、Aソ連かぜ(AH1N1)。Aアジアかぜ(AH2N2)]。A型は世界的な大流行を、B型は局地的な流行をおこしている。C型は散発的な発生のみで、流行しない。Aソ連型」として知られている.。

【普通の感冒とのちがい】
 インフルエンザは感冒、すなわちライノウィルス、RSウィルス、パラインフルエンザウィルスなどの他のウィルスが原因の感染症とはいくつかの点で異なる。
1. 流行が爆発的に始まり、短時間で急速に終息する
2. 低温乾燥を好むため、冬期に流行する
3. 増殖速度が速く、潜伏期判定部分の間が1〜3日と短い
4. 表面の蛋白質の構造を短期間に変え、変わり身(ウィルスの変異)が速く、体の免疫機構の攻撃から逃れ、感染防止のための予防接種が効きにくい
5. 同一時期に数種類のインフルエンザウィルスの型が流行することがある、すなわち2度インフルエンザに罹ることがある
6.風邪よりも症状が重い。

【症状】
 悪寒、咽頭痛、頭痛、筋肉痛などを伴って発熱し、嘔吐、下痢の消化器症状もしばしば見られる。体温は1 〜5日で正常にもどるが、その後数日間体のだるさや衰弱感が続いたり、一旦下がった熱がぶり返すことがある(二峰性発熱)。咳などの呼吸器症状は後半に悪化しやすい。

【診断】
1. インフルエンザウィルスの分離培養・・最も確実だが時間とコストがかかる。
2. 免疫血清検査法(赤血球凝集阻止反応)・・安価だが通常判定に5日程度を要す。
3. 直接免疫蛍光法・・コストがかかる。
4. インフルエンザ抗原迅速反応・・最も現実的。

・ エスプライン インフルエンザA&B
(右図)・・・20分 弱でインフルエンザがA 型かB型かを咽頭ぬぐい液または鼻腔ぬぐい液で診断できる。健康保険が適用され,判定部分のAに青色のバンドが出ればA型、Bに青色バンドが出ればB型インフルエンザである。手技は簡単で極めて便利である。
診断がつけば後に述べるアマンダシン、あるいはノイラミニダーゼ阻害薬を速やかに用いることにより、重症化を阻止し得る。


【合併症】
1. 肺炎
 最も多い合併症。インフルエンザウィルスによる一次性肺炎と細菌の二次感染による細菌性肺炎があるが、後者の頻度が高い。4〜5日過ぎても高熱が続いたり、一旦軽快しても再び発熱し、咳が続き呼吸困難を訴える。肺炎のページへ戻る。
2. 急性筋炎
 腓腹筋、ヒラメ筋(下腿の後方)の筋肉痛を突然おこし、歩くことを嫌がる。多くは自然に治癒するが、成人では横紋筋壊死と腎不全をきたすことがある。
3. 中耳炎副鼻腔炎
 小児に多い。
4. 循環器合併症
 心筋炎を起こしたり、既存の心肺疾患を増悪させる。
5. 熱性けいれん
 乳幼児にかなり多い。
6. 脳炎ライ症候群などの脳症
 まれだが一旦発症すると致命率が高い。インフルエンザワクチンを接種しない人に発症する。
7. インフルエンザ死や致命率な神経合併症は年間200人と推定されている。

 
【治療】
 
安静、室内の保温と換気、十分な水分や栄養の補給。咳、鼻水や熱には対症療法。細菌感染が考えられるときは抗生物質療法を用いる。しかし、これらはカゼの一般的注意法であって、特別に有効な手当てではない。
インフルエンザに特異的な治療を次に述べる。
A.
 
インフルエンザウィルスが感染した細胞内で増殖できないようにするアマンタジン(シンメトリル)は我が国では1998年から使用が認められるようになった。感染48時間に内服すれば非常に有効であるが、A型インフルエンザウィルスのみに有効であり、B型には無効である。また、ウィルスがアマンダシンに抵抗力を持ち効かなくなる耐性の問題もある。この場合、一旦解熱後に再度発熱する二峰性発熱の熱型を示すこともある。さらに神経症状などの副作用もあるが、健康保険が適用され安価である。

B.
 
昨冬からノイラミニダーゼ阻害薬という画期的な新薬が日本でも導入された。インフルエンザウィルスが感染したヒトの細胞から他の細胞に感染できなくすることによりウィルスの増殖を抑えて撲滅する作用が特徴で、これまでに人類が開発した最も有効な対抗手段ではないかと言われている。
 吸入、内服の二剤型があり、A型、B型いずれのインフルエンザにも有効でアマンダシンのような耐性や副作用が少なく、治療にはもちろん受験生やワクチン接種をできなかった人々が予防的に使用することも可能である。
 昨年認可され、健康保険が適用されるのは吸入タイプのザナミビル(リレンザ)で、一日2回の吸入を5日間行なう。より使いやすい内服タイプのオセルタミビル(タミフル)も同時に健康保険薬に収載された。タミフルにはカプセル、ドライシロップの両剤型があり、幼児から成人まで対応できる。
しかし、これらの抗インフルエンザ薬も発病48時間以内に飲み始めないと効果はない。


ザナミビル(リレンザ)
オセルタミビル(タミフル)



【予防】
1. インフルエンザワクチン
 ウィルスの変異のために流行株とワクチン株の抗原性(ウィルス表面の蛋白構造)にずれがあるとワクチン効果が減少する。このためワクチンは無効としてボイコットされた。しかしワクチンを接種した子供達の発熱期間は短く、熱性けいれんも少なく、逆に脳炎や死亡例では全員がワクチン接種を受けていなかったことが明らかになった。したがって、ワクチンはインフルエンザの発症は防げないが、少なくとも重症化は防ぐことができる。心疾患、呼吸器疾患、糖尿病、腎疾患、血液疾患などの基礎疾患を有する人や高齢者はワクチンを積極的に受けることを勧める。また15才以下は罹病率が高いので、体力に自信がなければワクチン接種を受けたほうがよい。
 
2. カテキン
 お茶、特に緑茶に多く含まれるカテキンには抗ウィルス、抗細菌作用があり、お茶の飲用、またはウガイが予防に有効であるといわれる。カテキンには更にコレステロール低下作用、抗糖尿病、抗ガン(消化器のガン)、降圧作用(一部の高血圧に対して)があることが明らかになり、さらに脳細胞を活性酸素から保護し、痴呆防止作用があると言われている。1回100ccの紅茶で一日2回ウガイをするだけで有意な効果があるといわれ、高価なものではないので、一度試してみてはいかが。
3. 加湿
 インフルエンザウィルスは乾燥を好み、湿潤に弱いので、室内を加湿するのも一つの方法です。ただし、条件のよい室内に24時間いることは実際には不可能なので、有効でしょうか?

現在のところ、予防接種が最良の選択肢です。予防にまさる治療なし