麻疹



 マスコミで
麻疹(はしか)流行が話題になっていますが、石川県では現在のところ小流行のようです。流行の主な原因は麻疹生ワクチンにより一旦獲得した麻疹に対する抗体の減衰による10代-20代の修飾麻疹と考えられます。
麻疹生ワクチンによる抗体陽転率は95-99%あるいはそれ以上ですが、ワクチン接種で獲得した抗体は一定期間以上麻疹ウイルスに曝されないと次第に減衰し,ある程度以下になれば麻疹ウイルス野生株の感染を受けた際に発症し、これを修飾麻疹と云います。
軽症例は臨床的に診断できずに通学・通勤し、ウイルスを散布しますので感染源となります。
また、麻疹ワクチン接種後の修飾麻疹といえども,重症例はワクチン未接種の患者とほぼ同様の症状を示します。麻疹は後に述べるように肺炎、脳炎、重症麻疹などの重症化しやすい重い感染症です。

これに対する対策はMRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)の2回接種で、昨年4月から日本でもようやく2回接種体勢となり、現在の小学校1年生以下は2回接種済みないしは接種予定ですが、それ以上の年齢には罹らないために2回接種を奨めます。


特徴:

 発熱、粘膜の炎症症状、呼吸器症状、発疹(右画像)を主徴とする感染力の強い全身性ウイルス感染症。おたふくかぜの様に不顕性感染はほとんどなく、一度罹ると終生免疫を獲得する(二度罹りなし)。

流行時期:不定。

原因:現在知られている病原体のなかで、最も感染力強い麻疹疹ウイルスの飛沫感染により起きる。

潜伏期間:10-12日

好発年齢:

 生後3ヵ月までは母体からの受動免疫(移行抗体)により感染しないが、移行抗体が低下する生後6か月以降の乳児を中心に、弱毒生ワクチン接種未接種の年長児に今日でもなお散発的な流行が認められている。また最近では、ワクチンにより獲得された免疫の低下により、ワクチン接種者が罹患する例が報告され問題になっている。

症状:
 
カタル期、発疹期、回復期3期に分けられる。

A. カタル期(3〜4日)
 
10-12日の潜伏期ののち、38〜39 ℃台の発熱、咳、鼻汁、くしゃみ、結膜充血、眼脂を認め、次第にこれらの症状が強くなる。発熱3〜4日目に頬粘膜にコプリック斑と呼ばれる赤みを伴った白い小斑点が出現する(写真)。コプリック斑は出現率90%以上であり、診断の決め手となる。伝染力はこの時期が最も強い。
B. 発疹期(4〜5日)
 
発症後3-4日目にいったん解熱した後、再度高熱が出現し(二峰性発熱)持続する。同時に境界鮮明な斑状丘疹が出現して全身に広がる。この時期は咳、鼻汁、くしゃみ、結膜充血、眼やになどのカタル症状が強い。
C. 回復期
 
熱は下降し、カタル症状は漸減する。落屑や色素沈着を残して発疹は出現順序に消退し、発熱から7〜9日で治癒する。

異常経過:

A. 修飾麻疹
 麻疹生ワクチン接種で獲得した抗体は次第に減衰し,ある程度以下になって麻疹ウイルス野生株の感染を受けた際に発症する軽症の麻疹。軽症のため学校伝染病の規定による登校停止処置を受けることなく登校し,学校ではもちろん通学途中でもウイルスを散布するので,
感染源として重大な働きをする。
B. 異型麻疹
 不活化ワクチン被接種者が後に麻疹ウィルスに感染したときに見られる。高熱、異常な発疹、強度の頭痛や腹痛、肺炎併発など非定型的病像を持った麻疹で、一種のアレルギーと考えられている。コプリック斑が認められることは稀。
1978に麻疹生ワクチンが定期接種化される以前には不活化ワクチンが用いられていた。
C. 重症麻疹

 麻疹の経過中に発疹が急に消退するか褐色に変わり、肺炎と心不全による循環障害が加わり、一般状態が悪化する重症型。古くから「麻疹の内攻」と呼ばれた。最近は稀。
D. 重症出血性麻疹
 急激に発症し、高熱、けいれん、昏睡状態へ進む。次いで強度の呼吸困難、皮膚や粘膜から広範に出血する重症型。「むらさきはしか」と呼ばれた。最近は稀。

合併症:

麻疹の合併症の頻度

合併症

頻度(発症数/患者数)

中耳炎

8.5〜15/100

肺炎

3.8〜7.3/100

けいれん

0.5〜1.0/100

麻疹脳炎

1/1,000〜2,000
亜急性硬化性全脳炎

1/100,000(十万)

死亡 1/10,000〜10/100 (開発途上国)

[1]細菌の二次感染
 気管支肺炎、中耳炎、クループ症候(急性喉頭炎)がみられる。

[2]麻疹脳炎
 
年長児や成人に起こりやすく、症状の軽重と無関係である。発疹出現後3〜7日ごろに発症することが多い。

[3]亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
 麻疹罹患平均5〜6年後に発症する。まれな疾患で、麻疹ウイルスの変異株の持続感染で起こる。患児の80%は0〜1才で麻疹に罹患し、当時は一般に軽症である。80%以上は6〜7歳にSSPEが発症する。行動異常、性格変化、知能低下、てんかん発作、昏睡、除脳強直状態となり数年で死亡する。髄液蛋白の増加、髄液IgG上昇と患者の血清・髄液中の麻疹抗体の上昇がみられる。

[4]麻疹アネルギー
 麻疹ウィルスはT細胞機能を抑制し、ツベルクリン反応を陰性化する。したがってツベルクリン反応自然陽転児の結核を発病したり。静止状態の結核を増悪させる恐れがあるため、慎重な管理が必要である。


保育所と学校の管理:

 感染可能時期は発熱カタル症状出現時から発疹開始5日間であり、この期間は隔離する。登校は全身症状にもよるが、発疹消失から3日以降(色素沈着ではない)とする。すなわち、登園・登校が約10-14日間禁止となる。

治療:

 麻疹ウイルスに対する特異的治療法はなく、自然治癒するのが普通なので対症療法が中心となる。

[1]一般療法

 有熱期間中は安静臥床させ、解熱後少なくとも3日間は安静にする。適度の室温と湿度を保つようにし、昔のような過度の保温は避ける。口腔内や皮膚の清潔に留意する。有熱期間が長く、食欲不振を伴って体力を消耗しやすいので、十分な水分と栄養を補給できるように注意を払う。重症例や肺炎、脳炎などの合併症のある例では入院治療を行う。

[2]薬物療法

a.鎮痛・解熱薬、鎮咳・去痰薬
c.抗菌薬
d.輸液療法
e.ビタミンA療法:
 近年、麻疹罹患時にビタミンAの欠乏をきたし、疾病が重症化、遷延化することが知られてきた。ビタミンAの投与により下痢,肺炎などの合併症の頻度が低下することが報告され、WHO は麻疹による死亡率が1%以上の国々では、麻疹と診断した時点ですべての小児に40万 IU のビタミンAを投与すべきであると提唱している。これは発展途上国の児を対象に行われるが、近年わが国でもその使用が検討されている。1回投与量は20万単位(1歳以上)、10万単位(6か月-1歳未満)で、経口投与(1日1回、2日間)を行う。また角膜潰瘍は失明に通じるので必要に応じてビタミンAを与える。

予防:

a.能動免疫: 
 
麻疹・風疹混合生ワクチンの接種を行う。麻疹に対する免疫をワクチンで受けた現代の母親からもらった乳児の免疫は弱いことが多く、生後6ヵ月から生後12ヵ月が最も危険な年齢層である。麻疹接種券は1才過ぎでないと発行されないため、該当乳児は任意接種ででも受けることを奨める。この場合は乳児期に麻疹接種券を使って追加接種を受けることができる。
平成18年4月より風疹生ワクチンとの混合ワクチンとなり、1才と小学校入学前の2回接種となった。
しかし、欧米では
緊急接種:
 
全ての年齢で接触72時間以内に麻疹生ワクチンを接種すれば罹らないか、軽症化を期待できる。
白血病、免疫抑制薬投与中の症例では禁忌。以前に使われていた
不活化ワクチンは免疫不全者に使われることもある。
 
麻疹生ワクチンの抗体陽転率は97-98%で、副反応は接種1週間後頃からみられ、各社のワクチンで差はあるが発熱38 ℃以上8-15%、発疹は約20%程度でともに通常1-2日で消失する。重篤な合併症としては脳炎が報告されているが、100-150万接種に1例と報告されている。

b.受動免疫: 
 接触後72時間以内に
ガンマグロブリン製剤の投与により発症を予防できる。乳児、基礎疾患のある患者、入院中の患者、乳児院などの施設に入所中の小児が対象となる。但しこれはクラシックな方法で、生ワクチンの方が良い。