百日咳


好発年令:2歳以下に多い。

原因:

 百日咳菌の飛沫感染で特徴的な咳きこみ発作をおこす。DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)ワクチン未接種者を中心に幼児期以下の低年齢層で散発している.

潜伏期間:約1週間

症状:

1)カタル期:
 
はじめの1-2週間は鼻汁、軽い咳など感冒と区別がつかないが、次第に咳が強くなる。
2)痙咳期:
 
短い連続した咳が「コンコンコン」と5〜10回発作的に続き(スタカット)、その後「ヒィー」と息を吸い込む発作(ウープ)を繰り返す。この繰り返しをレプリーゼと云い、百日咳に特有とされている。最後に粘調な痰を出して発作は止むが、この間、顔面は紅潮し、眼瞼はむくみ、首から上部に出血斑が出ることが多い。レプリーゼは夜間に増悪することが特徴である。新生児期から乳児期早期にかけては特有の咳が見られず、突然無呼吸発作やチアノーゼ発作で現われることが多い。合併症を伴わない限り発熱はなく、約4〜6週間痙咳期が続いて回復期に入る。
3)回復期:
 
咳の程度も回数も次第に軽くなり、軽快していくが、1年以内は感冒などに罹ると発作性の咳が認められる。全経過3か月程度で治癒する。

合併症:年少ほど出やすい

1)百日咳脳症
 
新生児期から乳児期早期かけてまれに脳症を合併することがある。脳症では脳内うっ血や浮腫により脳内出血を生じ死亡することがある。脳症の後遺症として、てんかん、知能障害、性格の変化、痙性麻痺、視力障害などがあげられる。脳症による死亡例は10万対0.2とされている。
2)肺炎:
 
最も多い合併症。百日咳菌自体によるものと、細菌の二次感染によるものとがある。
3)その他:
 
2歳以下に多い中耳炎、無気肺、気胸、脱肛、鼠径ヘルニアなど。

診断:

1)リンパ球増加を伴う白血球数の増加
2)
培養による
百日咳菌の証明
3)百日咳菌に対する抗体価の測定

治療:

1)抗生物質。早期投与ほど有効であるため、初期のカタル期での診断が大切である。
2)
乳幼児や発熱を認める小児は入院加療を要する。

保育所と学校の管理:

 治療開始後4週まで感染の可能性があるため、隔離を要する。

予防:

 DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)ワクチンの接種が有効であり、乳幼児の重症化や脳炎、脳症を予防するためにも生後3か月以降からの接種をなるべく早く行う。現在のDPTワクチンは以前のものと比べ発熱の頻度は著しく減少したが、ワクチン接種部位の発赤、腫張、硬結が増加している。これについては心配はない。


百日咳症候群:

 百日咳は百日咳菌によって引き起こされるが、臨床的に類似の症状を呈する疾患を百日咳症候群とよび、パラ百日咳菌、クラミジアやアデノウイルスなどにより発症する。症状は一般に百日咳より軽い。治療は対症療法が主であり、百日咳に準じることが多い。


[参考のために]

検査の詳細:

1)白血球数増多、リンパ球増多は増殖した百日咳菌より放出されたLPF(lymphocytosis promoting factor)による現象である。

2)百日咳菌の同定:鼻咽頭からの検体をBordet‐Gengou培地で培養する。平板培地へのふきつけ法では菌検出率は悪いため、鼻腔奥の粘膜からの培養のほうが菌検出率は高い。

3)血清百日咳抗体価:急性期と回復期とのペア血清で診断。
 agglutinin凝集価を測定し40倍以上であれば有意。現在の流行株は血清型1型、3型であるので山口株、小林株に対する血清百日咳菌凝集素価を測定するが、現在一般的には山口株で代表される。
抗FHA抗体(anti filamentous hemagglutinin antibody:抗線維状赤血球凝集素抗体)
  ELISA法、ラテックス粒子凝集法、ゼラチン粒子測定法などで測定される。
抗PT抗体(anti pertussis toxin antibody:抗百日咳毒素抗体)
  ELISA法、CHO cell assayなどで測定される。

治療の詳細:

 本菌に感受性の強いマクロライド系が第一選択薬で、カタル期に開始すれば痙咳期に進ませず、軽快させることが可能である。痙咳期には咳嗽を抑制する効果は乏しいが、除菌作用には優れている。したがって、カタル期を早期に診断することが大事である。14員環のマクロライド系抗生物質の内でエリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、ロキシスロマイシン(RXM、ルリッド)が卓効を示す。エリスロマイシンを50mg/kg2週間連続投与する。途中で休薬するとbacterial relapseを引き起こす。なおエリスロマイシン投与で約2日間で除菌される。RXM は小児用製剤の治験中である。その他、15員環のアジスロマイシン(AZM)も同等の抗菌力をもち、現在治験中である。
 乳幼児で入院を要する例においては、静注用の抗生物質を選択する。ピペラシリン(PIPC)、セフォペラゾン(CPZ)が非常に優れた MIC 値を示し、ラタモキセフ(LMOX)、セフォタキシム(CTX)がそれに続き、選択薬となりうる。
 乳児および咳嗽のために内服薬が飲めなくなり入院を要する患児においては、静注用抗生物質を投与するとともに、抗百日咳毒素抗体(抗PT抗体)を有する静注用ガンマグロブリン 200〜400mg/kg/日(最大 2.5g/日)の3日間の併用を行い、良好な治療成績を得ている報告も多い。また、ステロイド、アレビアチン、交感神経刺激薬が治療薬として使用されるが、評価は一定していない。さらに、鎮咳薬では、リン酸コデインなどで咳嗽反射を抑制するのは危険であり、一般的な鎮咳、去痰痙薬を使用する。
 百日咳による脳症は咳嗽発作による無酸素状態で乳児期にみられることがある。年齢が低いほど無呼吸発作が出現することがあり、呼吸管理の可能な施設に入院させる。百日咳経過中、肺炎の合併例は入院させる。