動物と人間(人畜共通感染症)


 ペットには子供の感情を豊かにし、思いやりの心を育て、ストレスを除いたりする、ヒトにとってプラスの作用があると言われています。反面、動物であるペットにはヒトに感染する病気もあり、飼うときには注意しなければなりません。このぺージではヒトと動物の双方にうつり得る病気である「人畜共通感染症」について述べます。
 世界には112種の人畜共通感染症があり、日本には50種類があります。病原体としては細菌、真菌(カビ)、リケッチャ、ウィルス、寄生虫があり、ペットの種類が増えるにつれ病気の種類も多くなっています。感染経路としては噛み傷や掻き傷から体内に入るものや、排泄物で汚染された砂、あるいは水や食物と共に取り込まれるもの、ダニ、ノミ、蚊などが仲介するものなどがあります。
 人畜共通感染症のうち最も恐いのは「幼虫移行症」です。寄生虫はどんな種類の動物の体内ででも成長できるのではなく、感染して成虫になれる動物を終宿主、成虫になれず幼虫にまでしか成長できない宿主を中間宿主と云います。寄生虫は終宿主の体内では成虫にまで発育し卵を産んで増殖するが、終宿主には深刻な危害を加えません。終宿主が死んでしまうと自分も滅びるからです。中間宿主に感染した場合には幼虫の状態で体内に分散し、中間宿主の体内を動き回って重篤な障害をもたらします。このようにヒト以外の動物を終宿主とする寄生虫の幼虫が中間宿主であるヒトに感染して種々の症状を発することを幼虫移行症と呼びます。
 このページではまず
幼虫移行症から解説します。


A. イヌ回虫、ネコ回虫(イヌ回虫より少ない)

 イヌの腸に寄生するイヌ回虫は生後1才未満のイヌの体内で成虫にまで発育し、産卵した卵はイヌの糞便と共に排泄され、外界で10日前後かけて土壌中で成熟し、感染力を有する成熟卵となります。ヒトを含め他の動物に口から取り込まれた成熟卵は小腸で孵化して幼虫になり、腸管から血液中に入り全身の組織中に分散します。イヌ回虫はヒトの体内では成虫にまで発育できませんが、すぐ死ぬのではなく数年間は生存して組織中を動き回るため、ヒトの体組織を破壊します。すなわち幼虫移行症が発症します。
 ネコ回虫についてもイヌ回虫と同じことが言えますが、成猫の体内でも成虫に発育し、産卵することがイヌ回虫と異なります。
[幼虫移行症の症状]
1. 眼幼虫移行症

 
血管を通じて幼虫が眼球内に侵入すると眼痛、頭痛、視力低下、失明を来たしたり、眼球の腫瘍を疑われることもあります。ほとんどの場合一匹の幼虫の眼球内侵入が原因で、片側の眼に現れます。患者の平均年令は8才ですが、成人に現れることも多い。
2. 内臓幼虫移行症

 
肝臓、肺、心筋、中枢神経系、筋肉、皮膚などに幼虫が侵入することによる機械的障害、炎症、アレルギー反応などです。具体的には発熱、腹痛、肝腫大、肺炎、心筋炎、髄膜炎、けいれん、発疹、じんましん、皮膚結節など多彩な症状を呈し、好発年令は2〜7才です。ヒトの免疫力で自然治癒することが多いが、感染を繰り返すほど、また幼虫の数が多いほど治癒が難しくなります。
[感染経路]
1. イヌの糞便で汚染された砂場での砂遊び。
2. 指しゃぶり。
3. イヌとの緊密な接触などによる
成熟卵の経口摂取。
4. 
成熟卵の感染を受けた鶏または牛の肝臓や肉の生食による幼虫の経口摂取。
[診断法]
1. 患者の検便でイヌ回虫の虫卵を検出する方法は不適。成虫がいないため産卵しない。
2. 
イヌ回虫に対する抗体を検出する・・・現実的だが現在も感染があるかどうか確実でない。
3. イヌ回虫の抗原を検出する・・・確実だが難しい。
[治療法]
 
再感染を防ぎながら化学療法剤を続ける。眼幼虫移行症には眼科的治療。
[予防法]
1. 家庭で犬、特に幼犬を飼う場合、飼いはじめと3ヵ月ごとに駆虫剤を与えてイヌ回虫を完全に駆除する。
2. 子供の遊び場がイヌの糞で汚染されないよう、飼い主が注意する。
3. 畜肉の生食を避ける。

B. マンソン裂頭条虫

 イヌ科、ネコ科の動物(終宿主)の小腸に寄生する長さ60〜70cmの寄生虫で、ヒトに感染したときは成虫になれずに組織中を動き回る幼虫移行症が大部分であり、まれにヒトの消化管に成虫が寄生することもある。
[感染経路]
 終宿主の便と共に排泄された虫卵は水中に出て、第一中間宿主のミジンコ類に取り込まれ、次いで第二中間宿主の鳥類(ニワトリ、アヒルなど)、両生類(カエルなど)、爬虫類(ヘビなど)に摂取される。そして第二中間宿主の皮下や筋肉内でプレロセルコイド(幼虫)となって寄生し、終宿主に取り込まれるのを待っている。プレロセルコイドが寄生した鶏肉、アヒル、カエル、ヘビの生肉や不完全調理肉、ヘビの生血をヒトが摂取したり、プロセルコイドで汚染された生水を飲むと感染する。プレロセルコイドはヒトの腸管では成虫になれず、小腸壁から腹腔、腹壁へ侵入し皮下を移動する。ヒトも中間宿主である。
[症状]
 有痛性の移動性腫瘤が全身にできるが腹壁、胸部、下腹部、眼瞼の順に多く、数年から十数年寄生し続ける。乳房、脳内に寄生することもある。
[診断法]
 外科的に摘出され診断される。
[治療法]
 幼虫は摘出可能な部位で摘出する。成虫には化学療法剤で駆除する。
[予防法]
1 生水は煮沸してから飲む(アウトドア派は注意)。
2 ニワトリ、アヒル、カエル、ヘビの生肉や不完全調理肉、ヘビの生血を摂取しない。
3 飼い犬、猫には駆虫剤を与える。

C. イヌ糸状虫症(フィラリア)

 体長15〜25cmでイヌの心臓から肺動脈に寄生し、ミクロフィラリアと呼ばれる幼虫を血液中に多数放出する。イヌの年令が進むにしたがって感染率が高くなり、わが国の成犬は10〜30%の感染率を示す。アカイエカ、コガタアカイエカ、オオクロヤブカなどが媒介蚊となり、刺されたヒトにも幼虫は侵入するが、侵入した感染幼虫の多くはヒトの免疫機構の攻撃を受けて撲滅される。わずかに生き残った幼虫により感染が成立するが、これまで患者数は100人程である。ヒトでは肺の小動脈や皮下組織に寄生する。
[症状]
 肺の小動脈に寄生した場合はせき、血痰、胸痛。無症状のことも多く、健康診断の胸部レントゲン写真で異常陰影を指摘されることが多い。肺以外では眼瞼、上腕、大腿、腹壁、乳房の皮下組織に腫瘤を作る。稀に心臓内に寄生することもある。
[診断法]
 摘出標本中での虫体の断端で診断するが、ヒトに寄生する他の糸状虫と区別しなければならない。イヌ糸状虫抗原を用いた血清反応で診断されることもある。
[治療法]
 肺の小動脈に寄生した幼虫はやがて死滅するので駆虫剤は必要としない。皮下組織に寄生した幼虫は摘出する。

D. トキソプラズマ症

 子ネコに寄生するトキソプラズマ原虫が糞便中に排泄され、トキソプラズマ原虫を取り込んでで汚染されたブタ、ウシ、トリ肉を不完全調理の状態で食べた時に、あるいはハエやアブラムシに伝播されたトキソプラズマ原虫がヒトに経口感染する。成人の20〜60%の人が抗体陽性(すでにトキソプラズマに感染している)であるが、トキソプラズマ感染症の多くは感染してから時間が経つとヒトの免疫機構により増殖が抑えられ、不顕性となるためほとんど問題にならない。問題となるのは初感染妊婦からの胎児への感染 (先天性トキソプラズマ症)と免疫不全者の感染である。
 ネコの多いパリにトキソプラズマ症が多発すると言われたことがある。
[症状]
1) 先天性トキソプラズマ症:

・妊娠中にトキソプラズマ原虫に初感染すると、胎盤を通じて胎児に虫体が移行し胎内感染をおこす。母体が感染してから時間が経つとヒトの免疫機構により増殖が抑えられ、血中には虫体は出てこないため先天感染するのは初感染の時だけである。
・妊娠早期に初感染すると胎児は流産、死産することが多く、これを免れても網膜脈絡膜炎、水頭症、脳内石灰化、精神運動障害、けいれん、貧血、黄疸などの重い症状が新生児期から著明に現れる。
・妊娠後期に初感染した場合は出産時には軽症か無症状であっても徐々に上記症状が現れるが、妊娠早期の初感染より軽い場合が多い。網膜脈絡膜炎は成人になってようやく現れることがある。
・わが国での推定発生数は260人/年(1/5000分娩)とそれほど多くはない。
2)後天性トキソプラズマ症
 
大部分が無症状だが、時にリンパ節炎、発熱、発疹、網膜脈絡膜炎、心筋炎などがみられる。乳幼児が発症しやすい。
3)免疫不全者での感染
 免疫抑制剤使用患者やエイズ患者では顕在化してリンパ節炎、網膜脈絡膜炎、肺炎、髄膜脳炎、脳膿瘍を発症することがある。
[診断]
 間接赤血球凝集反応(IHA)、IgG抗体、IgM抗体、色素試験などで急性期の感染か慢性期の感染かを判定する。トキソプラズマ原虫特異的遺伝子の同定(PCR法)。
[治療]
・トキソプラズマ抗体陰性の妊婦の初感染予防が第一。ネコ、特に子ネコとの接触を避ける。
・食肉は十分な加熱調理(56度、10分以上)か3日間以上-10度以下の凍結保存を行う。
・妊娠3〜4ヵ月以内のあいだの抗体陽転の場合は胎児診断を行うか、妊娠の継続を慎重に検討する。
・妊娠後半の初感染、先天性感染児、臨床症状のある後天性トキソプラズマ症には化学療法を行う。

E. エキノコックス症(包虫症)

 キツネ、イヌなどの肉食獣の小腸に寄生する包条虫(エキノコックス)の幼虫によりおこる病害をエキノコックス症(包虫症)と云います。包条虫は長さ1〜4mmのサナダムシの一種(条虫)で、終宿主であるキツネ、イヌには寄生するだけで害は与えないが、中間宿主であるヒトに虫卵が摂取されると孵化した幼虫が肝臓、肺、脳など重要な臓器に定着して包虫と称する直径1〜5mmの嚢腫(のうしゅ、袋のようなもの)を多数形成します。包虫は幼虫でありながら増殖、増大して身体の各部にガンのように転移し、定着した臓器や組織を破壊します(包虫症)。包条虫には単包条虫と多包条虫の2種類があり、日本では多包条虫が北海道に多く、これまで70年間に360例以上の多包虫症が報告され、毎年5〜20の新たな発生があります。単包虫症は多包虫症より少なく、115年間に70例が報告され、西日本とくに九州で報告されています。両者の症状は似ていますが、多包虫症の方が悪性度が高いため、多包虫症について説明します。


[感染]
 終宿主としては日本ではキツネ、それもキタキツネが圧倒的に多く、北海道のキタキツネの15%が感染していると云われています。次いで野犬、オオカミです。したがって北海道に多包虫症が多発しています。終宿主から排泄された虫卵で汚染された土、ホコリ、食物、水などを介して中間宿主に経口摂取された多包条虫卵は小腸で孵化して幼虫となり、小腸壁に侵入して血流を介して身体各所に運ばれ包虫(多包虫)を形成します。自然界での中間宿主の野ネズミの感染率は7%に達し、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタがこれに次ぎます。ヒトもまた中間宿主です。キタキツネや野犬包虫に感染した野ネズミを捕食すると小腸内で包虫が4〜5週間で成虫となり、虫卵を排出します。ヒトが中間宿主を食べても感染しません。イヌ、ネコもヒトと接触する機会が多い終宿主ですので北海道ではこれらの糞便からの感染に注意が必要です。
 
中間宿主であるヒトでは 包虫の好発部位は肝臓が多く66%、肺22%、腎臓3%、骨2%、脳1%、脾臓その他6%です。
[症状]
 小児期に感染することが多いが、診断されるのは主に青年期以降です。包虫は極めて緩慢に、しかし臓器や体の組織をガンのように侵しながら発育、無性増殖して嚢状の包虫を多数つくり、周囲の組織を圧迫します。また包虫は血流により各所に転移します。ふつう感染してから症状が出るまでの潜伏期間は10〜15年と長く、この間は無症状なので実際には患者数はもっと多いはずです。
肝臓に寄生・・・腹痛、肝腫大、黄疸、肝機能障害、腹水、浮腫、肝性昏睡など。
肺に寄生・・・・せき、血痰、呼吸困難、胸膜炎など。
腎臓に寄生・・・血尿、腎疝痛、細菌感染など。
骨に寄生・・・・骨折。
脳に寄生・・・・嘔吐、けいれん、てんかん様発作など。発症が早い。
[診断]
 包虫症が疑われる場合、まず問診によって流行地での居住歴、旅行歴を確かめる。感染初期で包虫が小さい場合は診断が困難であるが、抗体検査が有効。
[治療]
 包虫の外科的摘出が唯一の治療であるが、周囲に浸潤していると完全摘出が困難。内服療法もある。予防が最上の方法。
[予防]
・流行地でのキタキツネ、野犬との接触を避ける。流行地では未感染の犬も汚染された地面に寝転がり、虫卵が毛に付着するので注意が必要。
・飼い犬には定期的に駆虫薬を投与する。
・野菜、果物(コケモモ、イチゴも)、キノコなどはよく水洗いする。
・生水は飲まない。
・キツネの居そうな環境では手洗い、うがい、シャワー、風の強い日にはマスクをする。

 F. コひっかき病 (cat scratch disease : CSD) 

 ネコひっかき病は、ネコとの接触後にリンパ節の腫れをきたす良性の感染性疾患である。小児に多い疾患で、ネコによる掻傷だけでなく、接触でも感染することがある。特に子ネコからの感染が多いが、イヌから感染することもある。季節的には秋〜冬期に多い。Bartonella henselae という細菌が原因といわれている。

[症状]
1. 
ネコに引っ掻かれた部位に、3〜10日後に3〜5mmの紅斑や水疱が生ずるが掻痒感(カユミ)はない。この皮膚病変は数か月で治癒する。
2. 掻傷の2週間後(7〜60日)に掻傷部位より中心寄りのリンパ節(所属リンパ節)腫脹が見られる。1〜5cm大の圧痛を伴うリンパ節腫脹は、初期に発赤を伴うことがあり、通常2-4か月以内に軽快、縮小する。掻傷部位が上肢に多いため、腋下、頚部、鎖骨上部、肘関節部のリンパ節腫脹が多い。
3. 全身状態は良好で、約50%に発熱、倦怠感、頭痛、関節痛、食欲不振などの全身症状を認め、まれに脳症、多発神経炎、片側性麻痺、結膜炎などの神経症状を合併するが、2〜6ヵ月ほどで回復する。
4. 全身性CSD:約5%の患者に発熱が長引き、体重減少し、リンパ節腫脹が全身性となる。肝臓、脾臓の腫大、胸水貯留も認められるが、殆どが治癒する。エイズなど免疫能が低下した人では重症化する。

[診断]
1. 
リンパ節腫張
2.
 ネコとの接触歴、掻傷痕の存在
3. CSDの皮内反応陽性、あるいはBartonella henselaeの確認

[治療]
1. 
自然治癒が多いが、場合によっては抗生物質を使用する。
2. リンパ節の疼痛が強い場合には穿刺吸引にて疼痛が軽減される。通常、外科的排膿は不要である。

[予防]
 予防的処置は特になく、感染源と考えられるネコは健康で、処分は妥当ではない。ネコの爪切りが多少有効。ヒトからヒトへの直接的な感染はない。

G. オウム病クラミジア感染症の一つ

 鳥類からヒトにクラミジア属の細菌、オウム病クラミジアが感染し、呼吸器感染症を引き起こす。クラミジアにはこのほか、ヒトからヒトに伝染するクラミジア・トラコマティスと肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)とがあるが、オウム病が最も重症である。

[好発年令]
 成人が多く、小児期は少ない。小児では多くは軽症。

[感染源]
 オウム、インコ類の10〜30%が、野生のハト(ドバト)の20%がオウム病クラミジアに感染している。これらの排泄物中の菌を吸入したり、口移しで餌を与えることでも感染を受ける。
感染源の頻度はインコ39%、セキセイインコ21%、ジュウシマツ10%、ハト8.5%、オウム5%、ブンチョウ3%、カナリア2.5%である。

[症状]
 1〜2週間の潜伏期の後に発症する。軽度のインフルエンザ様症状から、肺炎症状の著しいもの、高熱が続くもの、徐脈を伴うものなど多彩な症状を呈する。これらの症状は加令とともに重症化する傾向がみられ、しばしば頭痛、関節痛障害を伴い、特に重症肺炎に至った場合、髄膜炎や多臓器障害を伴い致死的な経過をとることもある。家族内発生も時に認められる。

[診断]
1.
 血清抗オウム病クラミジア抗体を検出・・一般的だが2回の採血を要するため、判定が遅くなる。またトラコーマ病原体や肺炎クラミジアとの区別が困難なこともある。
2. トリとの接触歴の有無が重要。
3. オウム病クラミジアの分離培養・・・・・確実だが一般的でない。
4. オウム病クラミジアの菌体成分検出・・・オウム病クラミジアだけを検出できない。
5. 遺伝子増幅法(PCR)・・・・・・・・・実験室内で可能。

[治療]
 最低2週間の抗生物質療法が必要。

[予防]
1. トリを飼う場合にはなるべく屋外で飼育する。
2. 乾燥した糞は空中を漂い、ヒトに吸入されるため、速やかに処理する。
3. 餌を口移しで与えない。
4. トリが死亡した場合は焼却する。


(肺炎のページにリンク)があります

クラミジア感染症の種類

オウム病
クラミジア・トラコマティス感染症

肺炎クラミジア感染症

原因菌
オーム病クラミジア クラミジア・トラコマティス 肺炎クラミジア

感染源
トリヒト
病鳥の排泄物の菌体を吸入 
ヒトヒト
性行為感染症、母子垂直感染
ヒトヒト

好発年令
成人 成人、新生児 5〜14才、ときに集団発生

症状
気管支炎、肺炎、全身倦怠、筋肉痛、髄膜炎、意識障害、呼吸不全、徐脈、肝機能障害、多臓器不全 成人女性では尿道炎、子宮頚管炎、卵管性不妊症。
感染妊婦からの新生児結膜炎1/2、無熱性肺炎1/5
上気道炎、気管支炎、肺炎(市中肺炎の8〜10%)、多呼吸、長期に遷延するセキが特徴的

重症度
重症 軽症だが後遺症あり オウム病より軽症、発熱軽度

診断
トリとの接触歴、抗体検査のみ健康保健適用 抗原検査、抗体検査とも健康保健適用 菌体の分離、抗原検査。抗体検査のみ健康保健適用

治療
有効な抗生物質を2週間以上 同左 同左

H. Q熱

 多種の哺乳動物、鳥類、およびダニなどに広く不顕性感染を起こしているリケッチア(細菌よりわずかに小さい微生物)の一種であるCoxiella burnetiiの感染によって起こる人畜共通感染症である。典型的な場合はインフルエンザに類似した症状の急性型で、経過は良好であるが、慢性型の場合は治療が困難なことが多い。本疾患は本邦には存在しないとされていたが、10年前からわが国でも本疾患の報告が増加し、注目すべき感染症となっている。

[感染源]
 ヒトへの感染源として重要なものはウシ、ヒツジ、ヤギなどの家畜であり、それらの生乳、糞、尿、胎盤などに大量の病原体が含まれている。したがってこれらの家畜と接触の機会が多い獣医師や酪農、畜産、食肉関係者に感染の機会が多いといわれている。クマ、エゾシカ、ニホンシカ、ノウサギなどの野生動物にも感染している。ヒトからヒトへの感染はほとんどない。

[病原体]
 Coxiella burnetiiは細菌ではなく、生きた動物細胞の中でのみ増殖するリケッチアであり、不顕性感染を起こしている動物の排泄物や出産のさいの胎盤、羊水に多数含まれる。外界での抵抗力が極めて強いため、ダニなど節足動物(ベクター)の介在がなくとも(ダニに刺されなくとも)汚染されたホコリを吸入することにより、気道から感染する。

[症状]
 急性と慢性に大別される。潜伏期は14-26日である。感染した人の半数は不顕性感染に終わる。

急性型(急性Q熱)の症状は発熱、頭痛、セキ、筋肉痛、眼球後部の疼痛、食欲不振、関節痛等きわめて多彩である。時に気管支炎、肺炎、肝炎、髄膜炎などを起こし、まれに脳炎、眼神経炎、甲状腺炎をきたす。多くは12日前後で解熱し改善するが、治療が不適切な場合致命的となることもある。

急性感染後2-20%が慢性型(慢性Q熱)となり、ほとんどが心内膜炎となる。ほかに慢性肝炎、心筋炎、慢性骨髄炎なども慢性型として知られている。

[診断]
 C. burnetiiの分離が最も確実な検査法であるが、実験室内感染をきたす危険性がきわめて高いため、診断は血清学的に行う。凝集反応、蛍光抗体法、補体結合反応などがある。最近ではELISA法やPCR法などが開発されつつある。

[治療]
 急性Q熱に対して化学療法が有効である。通常テトラサイクリン系の抗生物質が用いられるが、殺菌作用ではなく、静菌作用なので解熱後もかなりの期間の継続使用が必要である。

[予防]
1. 
未殺菌の生乳を飲まないように注意する。
2. アメリカでは感染機会の多い未感染者にワクチンの接種が奨められているが、わが国では許可されていない。

I. サルモネラ腸炎    

  (説明は感染性胃腸炎のページにリンク)

J. カンピロバクター・ジェジュニ腸炎  

  (説明は感染性胃腸炎のページにリンク)