シリーズ「IT革命と地域経済」(その2)
序論その2 IT革命産業論(基礎編)


はじめに
昨年から、様々な経済誌が特集などでIT革命を取り上げ、「一人勝ち論」や「収穫逓増論」などが成功事例とともに企業の危機感や不安感を刺激している。しかし、「収穫逓増」等については、現象の説明にとどまらず、IT革命下の経済活動の中でどのような場合に起こるかについて明快で単純な基準を示せない限りは、実用性を持つものとは言えない。同様に、IT革命の趨勢を表面的に追うだけでは、急激に変化する現象を後追いし、それに振り回されるのみであり、真に効果的な対応は困難である。
本稿では、地域産業のIT革命への対応方策について、この革命を支えるデジタル技術や情報通信ネットワークの特性と市場の関係にかえって検討を加え、対処の方向を明らかにする。その基本的な視点はIT革命を「コスト」を中心に理解するものである。


1 インターネットとは何か
(1) インターネットの概要



IT革命の中心にあるインターネットとは、「ネットワークのネットワーク」を意味する。それは既存のネットワークを相互に接続するものであり、接続に必要なコストは、元の各ネットワークを作るハード・ソフトのコストよりもはるかに安かった。この低コストであtった点は、後に述べるが本質的な重要性をもっている。

(2) インターネットの歴史

インターネットは、1969年に米国国防総省高等研究計画局(ARPA)が、核攻撃に耐えるコンピュータシステム研究のために資金を提供したARPANETから発展したものである。その後、長らく大学などの研究機関のネットワークとして発展してきたが、1990年頃に商業利用が認められ、同じ頃に現在のホームページ形式の文書規格(HTML)が設定されて、1993年には、それを参照するためのソフトウエアMOSAIC(現在のネットスケープ・コミュニケーターやインターネット・エクスプローラーなどの原型となった)が開発された。このHTMLMOSAICなどの開発は研究者や技術者が片手間で行い無償で提供された。このような低コスト性を背景に、その利用が爆発的に進んできたのである。



2 IT革命の基盤となるネットワークの特性

(1) ネットワークの特性比較

IT革命は、@インターネット、A専用ネットワーク、Bコンピュータ技術の発展等を基盤とする。したがって、IT革命への対応を考えるには、そのレベルまで降りて市場との関係を考える必要がある。特にインターネットと専用ネットワークは相互に密接な関係があるため明確に分離することは困難な面もあるが、IT革命の動向を考えるには、その特性を分けて把握する必要がある。

このうち専用ネットワークは、EDI(電子データ交換)など特定目的のために特定の相手方と結ぶために、専用機器と専用通信網を使うものである。この結果、表1のように、コストは高くなるが、相手方を限定していることもあって、セキュリティは高い。

一方、インターネットは、既に接続済みの「隣のネットワーク」に接続する回線使用料を負担するだけで世界中と接続される。この結果、通信のためのコストは非常に安く、誰とでも通信可能であるが、その結果としてセキュリティに問題を抱えている。

(2)コストが「安い」ネットワークへのシフト

専用ネットワークも、技術面ではIP(インターネットプロトコル)に集約の方向にあると考えられる。その理由は、インターネット上で開発された様々な汎用技術が低コストで開放されており、特定の専用システムのために開発されたソフトウエア等ではコスト的に太刀打ちできないからである。このことは、今後、ソフトウエア産業にも影響を及ぼしていくと考えられる。

(3)開放性は競争性の強い市場を作る

開放的なインターネットを使って商取引を行う場合には、多数の相手方の中から取引先を選択できるようになる。

これを「市場」として見ると、多数の参加者のいる市場ということになる。それは、価格協定や横並びあるいは談合の余地を小さくする。つまり、競争性の強い市場ができることになり、より完全競争的な市場に近づくことになる。

(4) 参加者の増加はブランドの価値を高める

インターネットでは、多数の人々や組織が容易に情報発信できる。このため、参加者の急速な拡大に伴って、個々の情報発信が注目される確率は日々小さくなっている。一方、参照する側は、必要とする情報を探すことが日々困難になりつつある。

このことは「ブランド」の価値を大きくするし、より「早い」時期に立ち上げて知名度を上げることも重要になる。また、利用者にとっては、検索エンジンやリンク集などが重要性を増し、それらのポータルサイト化がますます進んでいくことが理解できる。

(注)ポータルサイトとは、インターネットへの玄関として多数の利用者が使用する入り口的なサイトのこと。


3 日米企業等の構造とITとの親和性

インターネットの世帯普及率は、米国が日本の3倍程度、インターネットホスト数では18倍程度(4月号)である。

この普及率格差の原因を考えることは、ITのビジネス利用に際して考慮すべき条件を明らかにすることにもなる。

その格差の原因としては、(情報通信技術やインターネットそのものが米国で生まれ発展していること。(米国企業が地理的に分散していること。(米国のオフィスの個室率が高いこと。 (米国民が広い地域に居住していること()規制が少なく通信料金が安いこと等が考えられる。しかし、ITが現在のような技術水準や普及水準に達すると、日米の条件の違いに関わらず、ITは日本においても価値のある存在となってきていると言える。

(1) 日米企業の調達構造の相違

さらなる原因として「日米企業の調達システム等の相違」があげられる。これはIT革命への対応を考える際にも示唆を与えることから、以下で若干詳しく検討する。

日本型産業組織の特質とされてきた「下請分業体制」は、「取引コスト論」によって、情報コストや取引コストの節約が可能なシステムとして、その合理性が明らかにされてきている。

情報の経済や取引コストとは、取引相手を探すコストや、信用、技術、生産能力、納期・品質管理能力などの把握や、契約、納入から決済に至るまでに必要な様々なコストを指す。

企業が市場から部品等を調達する場合は、自企業で内製する場合に比較して、より多くの取引コストが必要になる。取引コストを含む全体コストが内製コストよりも大きければ、企業はその部品等を内製することになると考えられている。しかし、常に密接な関係を保つ下請け企業があれば取引コストは安くなる。これを、内部組織に準ずるものとして中間組織とすると、日本の産業組織は、中間組織の比重の大きい産業システムであることが理解される(図1)。

自動車産業を例に取れば、日本では3分の1程度が内製され、その他は下請け企業に外注されるのに対して、米国では6割から3分の2が内製され、残りがスポット的に外注されているとされる。

(2) 日本型産業構造では専用ネットワーク
このような日本型の産業構造(産業組織)は、例えば、製品開発を活発に行う場合に柔軟な対応が可能である等の面で、市場調達を中心とする米国の産業構造よりも柔軟性があると言える。
そしてこのような企業間結合が優勢な日本では、通信ネットワークは、これら密接な関係のある企業間の専用ネットワーク(EDIなど)が発達しやすいことになる。
注)このことは、電子商取引市場の規模で、BtoB(企業間取引)では日米間の差がそれほどない点(4月号)に反映されていると考える。
(3) 米国型産業構造ではインターネット
一方、米国型の市場調達を中心とする産業構造(産業組織)では、「外注」とは市場から低価格を判断の中心に調達するシステムである。
この結果、米国では、外注するための標準化や規格に強い関心を持つことになるなど、いかに市場調達を効率的かつ円滑に行うかに関するシステムが発達することになる。
この結果、日本では専用ネットワークが(米国と同レベルまで)発展したのに対して、米国では、オープンなインターネットを活用した電子商取引が相対的に発展することになる。そして、このようなオープンな取引を前提とした様々なビジネスモデルが米国で誕生しているのである。
注1)たとえば、IBM−PC互換パソコンは運送会社も組み立てる時代になったが、これは、設計上、パソコンの内部が機能別にモジュール化(モジュール間の接続規格が決められている)され、各モジュールをコネクターに差し込むだけでよいからである。このモジュール化は、市場調達を容易にするための設計なのである。そして、このモジュールの一大生産基地となっているのが台湾である。
注2)なお、米国では、人材も、教育機関の専門教育や業務の詳細なマニュアル化によって、あたかもモジュールのように取り替え可能なシステムとなっているとも言える。

4 IT革命のキーワードは低コスト化

(1) コンピュータ等の急速なコスト低下

情報通信関連分野の変化を描写する際には、機器の処理速度や性能の向上があげられることが多い。しかし、経済への影響は、むしろ価格低下の方が大きいと考えられる。

シリコンチップの性能は1年半から2年で2倍に向上するというムーアの法則は、30年以上にわたって実証され続けてきている。

この結果例えば、現在のパソコンは、二十年余り前のスーパーコンピュータの性能に匹敵する。これをパソコンの性能が向上したととらえる(実際はそうである)よりも、スーパーコンピュータの価格が1万分の1ないしは数千分の1に低下したと考える方が経済に対する影響を理解しやすい。数億円〜数十億円の設備(投資)で採算のとれる業務は限られるが、同じ機能が数万円〜数十万円で利用できるとなれば、採算にのる業務は数千倍(あるいはその2乗)以上になると考えてよい。もちろんソフトウエアの価格などもあるが、価格の低下によって、経済や生活のあらゆる局面でコンピュータを利用することが可能になり、それがIT革命を引き起こしているのである。

このようなコストの低下は、通信の分野でも生じている。それがインターネットである。

(2) キャプテンとインターネットの比較

インターネットやフランスのミニテル(キャプテンと同じビデオテックスである)の普及と、日本のキャプテンの失敗を比較すると、その差は利用コストの差にあることが理解できる。

ミニテルは、数百万台の端末が無償で配布されたことが成功の要因である。これに対してキャプテンの端末は有償だった。この端末を売らんがために、パソコン通信利用者を取り込む対策(ソフトを提供するだけでよかった)は、手遅れになるまでは取られなかった。その結果利用者は増えず、それがコンテンツ充実への意欲を低下させ、さらに普及の遅れを招いた。

これに対して、インターネットは、パソコン通信利用者にとって、新たなコスト負担はプロバイダーに使用料を支払うだけである。これは現在月間1500円程度の料金からある。パソコンだけを所有している者は、このほかに新たにモデムが必要になるが、その価格は1、2万円である。また、大学や企業の既存ネットワークは、すぐ近くの既にインターネットに接続しているコンピュータに接続する回線料を負担するだけでよかった。

コンテンツの作成も容易であり、多くの個人が趣味でホームページを開き、インターネットのコンテンツを日々無償で充実させている。そしてこれがさらに利用者を急増させている。

(3) IT革命の世界の判断基準は低コスト

すなわち、IT革命の急速な進行の要因は、世界にアクセスできるとか技術的な進歩がどうであるかなどということよりも、それが「低コスト」で行えることにある。

利用者にとってコストが安ければ安いほど急速に普及することは経済の一般常識である。一方、ネットワークの価値は、そのユーザー数の二乗に比例して増加するというメトカーフの法則によれば、ネットワークが普及すればするほど価値は高くなるから、さらに普及のスピードは上昇することになる。

このような変化の激しい現在のIT革命の中で、ハード・ソフトにせよサービスにせよ、高い粗利益を稼ごうという試みは、基本的に失敗すると考えてよい。

注)これ以外のIT革命の要因としては、@各種業務の情報化がすすみ、普及が加速する水準(閾値)を超えつつあることも重要である。Aもう一つの要因は、やはりコンピュータやネットワークの情報を処理する能力自体であろう。

5 ビジネスモデルは新たなルールへの対応

(1) 低コスト実現手段と「ビジネスモデル」

低コスト(利用者から見て)を実現する方法としては、次の手法等が考えられる。実は、これらは最近喧しい各種の「ビジネスモデル」の重要な構成要素である。つまり、「低コスト」をベースに考えるだけで、様々なビジネス上の具体的なアイディアを得ることができるのである。(これらの項目については次回に整理する。)

ア 原材料調達、物流などのコスト削減の新たな枠組みづくりや研究開発あるいは過剰品質・サービスの見直し等

イ 利用者が作業の一部を分担

例えば、電話番号案内は、従来は受付、検索、回答をNTT職員が行っていたが、パソコンを使った検索サービス=エンジェルラインでは、それを利用者が行う。

また、オンラインモール「楽天」の成功要因の一つは、当時、モールへの出店料が月間数十万〜百万円が普通であったのに対して、月5万円という低料金を打ち出したことにある。それは、各出展者のページのメンテナンスを出店者自身が行うシステムにし、それを容易にする支援ソフトや支援体制を提供することによって実現している。

ウ 複合サービスの一部として実施して各サービスあたりのコストを低減、あるいは他のサービスに寄生

例えば、自動車のカーナビゲーションシステムは、米国の軍事衛星システムに寄生しているとも言える。

エ 既存のシステムや機器を利用して利用者の新たな負担を低減

パソコンやパソコン通信のユーザーあるいは既存ネットワークのユーザーにとって、インターネットはそのような存在だった。

オ 片手間仕事を集めて製品やサービスを提供

例えばウィンドウズの対抗馬として注目を浴びているLINUXは、多数のボランティアの片手間の仕事の集成によって、常に改善が加えられ、無償で提供されている。

カ ハード価格の一部をサービスの価格に含めて分割負担

例えば、携帯電話では電話料金の中に電話機価格の一部が実質的に含まれている。

キ 「広告」の導入その他

(2) 企業間競争のルールと「ビジネスモデル」

急速な低価格化は、様々な人間活動へのIT機器等の利用をコスト的に可能にし、その範囲は急速に拡大している。そして、それは、製品の製造能力、販売組織力、原材料や部品の調達力、開発力、マーケティング力、間接部門の処理能力あるいは生産性や組織力といった企業の競争力の源泉に大きな影響を及ぼし、そのことが企業間競争のルールを変えつつある。

もちろん、各活動に適合した機器やソフトは最初は存在しない。現在は、そのための機器・ソフトウエアの開発や利用方法の開発などが試行錯誤しながら進んでいる過程にあると言える。つまり、それ(新しいルールに対応した新しい事業システム)が「ビジネスモデル」なのである。

6 IT革命はどのように競争条件を変えるか

デジタル技術の発展と低価格化によって、例えば写真の世界では、近い将来に、現在の化学的な現像システムがなくなる可能性がある。同じように、情報通信ネットワークの発展も産業に大きな影響を与えていくと考えられる。

以下では、特に通信ネットワークに関して、まず専用ネットワーク等が企業経営に及ぼす影響を考え、ついでインターネットが企業経営に及ぼす影響を検討する。

(1) 情報通信システムの普及は効率性を高め、付加価値の高いサービスを可能にする

企業内ないしはサプライチェーン等関連企業間を結ぶ専用ネットワーク等は企業活動を効率化し、付加価値の高いサービスを可能にする。

すなわち、第一に、従来は時間やコストがかかりすぎて見ることのできなかった情報を収集加工して共有することができるようにする。

例えば、製品に対する苦情、製品の採算や生産状況、売れ行き情報、顧客情報などの情報の共有である。これは、企業の製品開発力や柔軟な生産システムの構築など企業の競争力に重要な影響を与える (・・・情報の「濃度」の変化

第二に、情報の連鎖を短くする。

従来、組織内の中間階層や代理店などを経由していた情報は、中間段階を必ずしも経由する必要がなくなる。トップ階層と現場、企業と顧客が直結することも可能になる。いわゆるディスインターミディエート(中抜き)である。これにより、ITの進化は、企業組織にピラミッド型から文鎮型への変化の方向の力を与える。また販売組織では営業所網や代理店網の販売機能の役割を低下させ、物流関連機能やサービス、コンサルティング機能等への特化への圧力を与えることになると考えられる (・・・情報の「到達範囲」の変化

また、以上の点により、様々な活動のスピード化、効率化などが進むとともに、より付加価値の高いサービス等を多数に提供できることになる。例えば、地域密着型で顧客数の限定された小規模な店などでのみ可能だった密度の高い顧客対応が、顧客情報の分析と活用によって、膨大な数の顧客に対しても可能になる。

(2) インターネットの普及で市場の競争が激化

インターネットの特質は「開放」されていることである。したがって、インターネット上で商取引を行う場合には、多数の中から取引相手を選ぶことができる。取引の相手方の数が増えることは、それらの取引がより完全競争市場に近づくことを意味する。したがって、インターネット商取引では競争がより激しくなる。

この結果、第一に価格等の客観的な競争力で圧倒的な優位を持つ企業の存在感が増すと考えられる。競争の激化によってこの市場で勝てる企業の数は、少なくなるだろう。

注)「一人勝ち」論については、それが生ずるのは、@標準化が困難、A互換性が重要な商品に限られる。例えば、パッケージソフトは、生産能力の限界が小さく、輸送も簡単で、複雑で改良の速度が速いために標準化が難しく、互換性が重要である。しかし、IT関連の他の分野では必ずしも「一人勝ち」が生ずるとは言えない。ただし、競争の激化によって勝てる者の数は減るだろう。

 
第二にtoCやBtoBの電子商取引において、メーカーと最終ユーザーの直接の取引が可能になり、中抜きが起きるだろう。
第三に競争が激化する中で利潤を確保するには、競争者の出現前に利益を上げることが重要になる。すなわち開発者利益・先行者利益の重視である。
新しい機能等を持った商品は、時間がたつとともに競合する生産者が現れ、競争の激化にともなって、利潤は低下していく。しかし、開発者として常に利益が確保できるように、不断の開発を行う企業は常に優位に立つことになる。これに必要なのは、意志決定、製品開発、生産など様々な場面でのスピードである。
この結果、大企業よりも相対的に小さな企業が、総合型企業よりも専門型企業が、従来よりも相対的に競争上の優位を高める可能性がある。大企業や総合型企業は、分社化や意志決定の権限を従来よりさらに下におろしていく必要に迫られるだろう。
また、特殊な技術を持った企業よりも、汎用品を製造、販売する企業は、より強くインターネットを利用した電子商取引で強い競争にさらされることになろう。
第四にインターネットを利用した電子商取引が活発化するためには、取引候補者の信頼性や能力などを保証するシステムの必要性が増大する。前述のように、米国はもともとそのようなシステムの発達した社会であったと言える。
また、これを個別企業の対応レベルで言えば、自らの信頼性を保証するための努力が必要である。ブランドの価値はこの点にもある。

おわりに



さて、「環境の変化」で競争が激化したことは、過去にも例がある(表2)。問題はそのスピードである。例えば自動車は高価であるし道路整備は膨大な費用と時間がかかる。しかし、情報機器やインターネットははるかに低額である。その結果変化のスピードは速い。
次回は、以上を踏まえて、地方の企業にはどのような対応が考えられるかについて検討する。
(向井文雄)