地方公共団体の『分都型合併』の研究

地方公共団体の『分都型合併』の研究の概要（要約とコメント）

１　市町村合併が全国で進行しつつあるが、合併で周辺部となる地域の不安、つまり「中心－周辺問題」が合併の大きな障害になっている。最近の、香川県小豆郡３町や滋賀県守山市ほか２町の各法定協議会の解散の事実上の原因は、新市役所の所在地問題であると考えられるが、その背景もこの周辺にある。

現在の合併構想の多くは、行財政の効率化を主目的とするため、大都市とベッドタウンのような機能分担関係がない組み合わせが多く、複数の中心を持つ「多核型都市構造」になるケースが多い。このため、この問題は一層重要となっており、合併推進には、これにまつわる不安や不満を解消する方策が不可欠である。従来、そうした方策は、端的に言えば代償としてのハコモノづくりなど周辺地域振興策以外はないと考えられ、過去の合併でもそうした方策が実施されてきた。

２　合併の現実的な促進策を考えるため、この問題の背景として、従来注目されなかった行政の「ローカル機能」に着目する。図表のように、行政が住民に提供するサービスの多くは公平、均等にというユニバーサル性が求められる。合併により、こうしたサービスの多くは向上・効率化する。
　しかし、役所が立地する周辺に局所的に与える（事実上の）反射的な便益等（ローカル（局所）機能）がある。これは、役所所在地との距離によって便益に差が生じる。これが上記の中心－周辺問題等の原因になっている。これからすると、役所の存在は、単なる地域の「シンボル」という問題ではないことが理解できる。そして、このことは多核型都市構造を持つことになる合併で、特に重要な問題であると考えられる。

３　こうした点に着目して、合併後にも各地域振興のための企画機能や執行機能を各地域の分庁舎に残すと同時に、効率化をも同時に図る「分都型合併」の可能性を研究（し提案）する。ここで分都型合併とは、統合後の市役所等の機能を合併前の旧市町村の庁舎等に分散配置（単なる支所ではなく）する合併のあり方である。そして、分庁舎間の密接な情報連携を、対面型（対話型）の情報ネットワークシステムを導入すること等で確保し、事務の効率化、行財政の効率化を図りながら、同時に地域振興機能（≒ローカル機能）を地域に置くことをねらうものである。

４　分散庁舎の例としては北上市や西東京市等、構想では「あわじ市」>(仮称)のネットワーク型合併や富山県砺波地区のクラスター型合併論がある。こうした実態や構想に対する本研究の位置づけは次のとおりである。
�@　合併の交渉段階等で、周辺地区を納得させるために、ある意味でやむを得ず選択される分散庁舎方式や大きな支所方式に、理論的根拠を与える（注2）。
�A　テレビ会議システムなどを中心とした対面型情報ネットワークの（将来的な）利用によって、分散の非効率を低減する方法案を提示する。これは、国の電子政府構想、電子自治体化推進施策とも整合的である。

５　「分都型合併」は、周辺部となる地域の不安を低減させることで、代償措置としての周辺地区での過度なハコモノづくり等を抑制するとともに、地域の個性や文化を守りながら、同時に行財政の効率的な運営を可能とすることを目指すものである。もちろん、この方式は、すべての合併に適するものではなく、主に、合併でできる新市町村が、複数の中心のある多核型都市構造を持つことになる合併の場合に、選択肢の一つとなると考える。特に、従来の方式では困難と考えられがちだった、中心核がかなり離れている市町村間の合併を可能にすることもできると考える（注３）。

　なお、もちろんデメリットもある。特に、地域間競争を視野に置いて、合併で一極集中型の都市構造を早急に形成しようとする場合などには適しない。慎重な選択が重要である。

注1）地域振興機能の中でも、地域や産業の活性化を図り、地域の個性、文化を守る意味で、地域の企画機能の果たす役割は大きく、充足されつつある通常の住民サービスに比べて、重要性を増し続けている。
　一般に、合併すれば、まずは企画調整機能を集合・統一化し、執行機能は現場との関連があるため、（必要があれば）分散でもよいというような認識が一般的であるが、実際には、合併で規模の利益が得られるのは執行機能であり、企画機能ではない。執行機能は集約化しても、地域の企画機能は地域に残すという選択があるべきである。

　その町に企画機能があれば、その町に適した様々な情報が、外部からの情報も含め自然に集まる。例えば、風の盆の富山県八尾町のまちづくりに参考となる情報は、八尾町に役所があってこそ集まってくるのである。一方、合併により集合化された市のオフィスで、１時から４時までは近代的に発展している市内中心部のＡ町のことを考え、４時から５時までは伝統のある（かつて独立していた）旧Ｂ町のことを考えるというのでは、Ｂ町の歴史や文化にあった地域振興や施策の企画は難しい。

　地域の企画機能が地域から失われれば、中長期的に、その地域の文化が失われ、ひいてはわが国の多様な歴史と文化も失われていくだろう。品種改良に多様な遺伝子（品種）の存在が不可欠であるように、一国の文化の活力は、多様な文化が混淆する中から生まれる。文化の単一化は、中長期的にその国の文化の活力を失わせていくだろう。
　合併しても、地域（の分庁舎）に企画機能を残す選択があってもよいと考える。

注2）「理論的な根拠」とは、具体的には、行政の役割・機能に、反射的利益論、「ローカル機能」論を導入し、地域に役所を置く理論的な意義を明らかにしたことである。

　既に分散庁舎方式をとっている北上市等や、構想段階のネットワーク型合併論やクラスター型合併論などの分散庁舎方式や権限の大きい支所方式は、こうした明確な理論的な裏付けなしに行われ、あるいは提唱されてきている。しかし、過去のほとんどのケースで、こうした支所機能等は、合併後ある程度の時間の経過を待って（合併当時の合意にかかわらず）、>縮小されてきたのが現実である。そして、こうした既存の合併事例の現状が、こうした提案の価値を低めている。

　たしかに合併する直前までは、周辺部となる旧市町村の交渉力は強い。周辺側には、合併しないという選択がありうるのであるから、これは当然である。したがって、（理論的な裏付けはなくても）分散庁舎や権限の大きい支所の設置などの合意がその交渉力を背景に行われることが多い。しかし、合併してしまえば、事務の効率性という正当な理論の前には、合併時点の力関係だけを背景にした（分散庁舎の）合意は、それがいかにバラ色のものであったにしろ、説得力を持たない。縮小されるのは当然だろう。

　もちろん、分庁舎や権限の大きい支所方式の具体論は重要である。しかし、その必要性を納得させる「理論」がなければ、その具体論は合併後の短期間しか維持できないだろう。

注3）例えば徳島県小豆郡３町の合併協議会に、もし「分都型合併」方式が可能性のある選択肢として認識されていれば、この協議会は解散しなくてもよかった可能性がある。逆に言えば、こうした選択肢に可能性があるという認識が各地に広まれば、現在、具体化には遠いレベルの地域の合併協議が促進される可能性がある。

全体注）「分都型合併」、行政の「ユニバーサル機能」や「ローカル機能」等は一般的な用語ではなく、この研究で定義しているものです。

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