富山県の地域活性化施策とその方向について


第一 行政投資の方向と地方

 現在、国土審議会において次期全総計画が策定されているが、過去の全総では、過密過疎の是正や東京一極集中是正の声を背景に、一貫して「地域の均衡ある発展」や「多極分散型国土の形成」等が重要な課題として位置づけられてきた。しかし、兆しは見えつつあるとされるものの、遅々として進まない整備新幹線にみられるように、その実現にはほど遠い状況である。

 ここで、国や地方公共団体による行政投資額構成比の変化の状況を、全総計画の時期に重ねながら俯瞰してみたい。
資料「行政投資実績」(自治省大臣官房地域政策室編):「都道府県別行政投資実績調査」(対象は、国、公団、都道府県、市町村等であり、新SNAでいう公的総固定資本形成とは、用地費等を含み一部の公団・事業団の事業を含まない点等で異なる。)

(1) 全総の計画期間との比較

 行政投資実績の構成比の変化を全総の計画期間と重ねると次のとおりである。

 計画期間             投資構成比の変化等

 全 総 昭和37年〜  相対的に大都市圏への投資が大きい。

 新全総 昭和44年〜  地方圏への投資割合がゆるやかに増大し
            つつも、相対的に大都市圏への投資が大き
            い。(昭和46年 ドルショック)

       メ     新全総計画期間の後半から、円高不況が
            叫ばれた昭和52年に策定された三全総時
            代の初めには、急速に地方圏への投資構成
            比が増大した。

 三全総 昭和52年〜  概ね、地方圏への投資が高止まりした。

    (昭和60年 プラザ合意)

 四全総 昭和62年〜  大都市圏への行政投資額構成比が急速に
            増大した。

    (平成2年 バブル崩壊)

 これを四全総の時代を中心に見ると、我が国は、昭和60年のプラザ合意などを契機に円高不況に苦しんだが、一方で、世界における日本の経済的存在感が増大した結果、わが国の将来については楽観的な見方が支配的となり、東京一極集中をはじめとする大都市圏への集中も、むしろ積極的に肯定する見方が力を得た。これにあわせて、行政投資の配分についても、大都市圏への重点投資が急速に進んでいった。

(2) 人口一人当たりの行政投資額

 現在、人口一人当たりの行政投資額は、大都市圏と地方圏では大差がない。特に、東京都の一人当たり行政投資の実績は、北陸3県のいずれよりも大きいし、新潟県と同レベルである。これを単位面積当たりにすれば、当然ながら人口比をはるかに上回る数十倍の水準の投資が行われていることになる。このような東京への投資の集中(これに民間投資が加わる)は、過密に伴う遠距離通勤、交通渋滞や交通事故の増大、高地価を通じてオフィスコスト・住宅取得コストを押し上げるとともに、東京への機能の集中を通じて、我が国の国土構造を災害等に脆弱なものとしている。

 なお、このような地方圏から大都市圏への行政投資の重点の変化は国の投資の変化によるところが大きい。このような行政投資の今後の方向については、現状では不透明であるが、我々は、次期全総の策定に当たっては、地方圏や、新国土軸地域における高速交通網や高度通信基盤等の社会基盤整備への投資の拡大を強く要望しているところである。

第二 地方圏における行政の役割

 このような行政投資の配分の問題に加えて、国の財政赤字の問題があり、一方で、21世紀に向けて、少子化・人口減少時代等に伴う投資余力の減少が予想されている。

 このような中で、近年、地方圏における行政の役割が変化している。これまでの政治行政の成果として、基礎的な行政ニーズは概ね満たされつつある。この結果、国民の行政ニーズが高次化、多様化するようになり、それを原因として、大都市と地方における行政の役割・守備範囲のずれが拡大しつつある。

 例えば、大都市では、民間の劇場が成立するが、地方では成立しない。この意味で、文化環境の整備が行政の課題として重要になってきた現在では、文化ホールは、地方ではより公共財に近いのである。

 昨年12月に国土審議会計画部会が発表した「21世紀の国土のグランドデザイン−新しい全国総合開発計画の基本的考え方−」では、「それぞれの地域において質の高い生活・就業の機会を確保し、創出していくとともに・・・」とされているが、まさに、国民に等しく「機会」を与えるという視点で見れば、地方圏では、民間の役割の一部を公共部門が代替せざるを得ないのである。

 また、地方圏においては、少子化・高齢化が大都市圏に比べて急速に進行しており、それがもたらすいろいろな問題は、地方において大きな課題として顕在化しつつある。また、過疎や中山間地域問題は、主として地方圏の課題である。

第三 手本のない時代

 また、これをさらに細かな地域単位で見ても、地域の行政ニーズには大きな多様性が生まれている。この結果、わが国の行政サービスの水準が低い段階では、海外の先進国をモデルに全国一律の施策を考えれば足りたが、一定の行政水準が確保された現在では、そのような施策の重要性は低下し、地域にある潜在的かつ多様な行政ニーズに応えることが重要になってきている。

 この結果、「現場」を抱える地方の情報の重要性が増してきており、国の事業も地方の企画が背景にあるケースが増えている。例えば、国に雪対策ダム事業という制度があるが、これは、富山県井波町の消流雪用水確保を目的とするダム参加の要望に対して、富山県が、当時建設していた境川ダムで、国、町と協議しながら考えた方法がモデルとなって創設された事業である。

 このような状況を、情報の流れを中心に見ると(将来への期待も含<めて)次のようになる。 

従来 [海外モデル+あるべき論]>国の企画>国の制度化>地方で実施
(手本のある時代)

現在〜将来 [地域の現場情報] >地方の企画>国の制度化>地方で実施
(手本のない時代)                v
                      地方で実施


 もちろん国の課題は数多いが、地域固有の問題に関する限り、今や 「中央が頭脳で地方は手足」という発想は変革されなければならない。 また、そのためには、地方集権いわゆる地方分権の推進が重要である。

第四 地方が活かすべき環境と課題

 以上のような環境の変化の中で、地方は、改めて原点に立ち返って各地域の強みをもう一度見直し、地域の活性化策を検討する必要に迫られている。その検討において地方が考慮していくべき点として次に3点ほどを上げたい。それにより、個性にあふれた多様な選択が可能な分散型社会が形成されると考える。

(1) 自然志向の高まりなど国民の価値観の変化

 価値観が多様化し、自然志向、文化志向が強まっている。生活にゆとりやうるおいを求めるようになっている、このような国民の価値観の変化は、自然に回帰する人々を生むとともに、利便性や都市的刺激などの都市的な魅力を提供する大都市と豊かな自然を持つ地方の双方の魅力を享受しようという人々を増加させている。また、活発な文化活動などが行われている大都市圏に対して、地方では、地域に根ざした伝統ある文化が息づいている。これに加え、地方における文化環境の整備の努力によって、豊かな文化活動の基盤が地方でも整いつつある。

 この結果、豊かな自然や民俗・文化を持つ地方の価値が高まりつつある。このことは一方で大都市と地方を結ぶ高速交通網のニーズを増大させるとともに、他方で地域の個性の強化など地域の魅力づくり、あるいは価値観の多様化に応じた余暇、レクリエーションなどへの対応など、地方の地域活性化施策に変革を迫っていると考える。

(2) 高度情報化と高速交通網の整備

 FAXのない時代に比べて、FAXのある現在の仕事のやり方やスピードは大きく変化している。それと同様に、インターネットやテレビ会議システムの普及やデジタル圧縮技術などの情報通信技術、あるいは光ファイバー網等の情報通信基盤の整備発達によって、遠隔地域間で従来は考えられなかったような密接なコミュニケーションが可能となりつつあり、この結果、距離を気にしない協働作業が可能になるだろう。そして、このことは、将来における産業構造に大きな影響をもたらすと考える。

 したがって、通信料金の遠近格差の是正等は、特に地方にとって極めて重要な課題である。

 また、新幹線や高速道路等の高速交通体系は、従来の交通体系に比較して、圧倒的に時間距離を短縮するものであり、遠隔地域間の密接な連携が可能となることにより、地方の生活・産業基盤に大きな影響がある。特に、このことが、地域と地域との、人、もの、情報の交流を活発にし、東京圏、大都市圏を離れた新しい文化、経済交流を可能とすることに注目したい。

 高度情報化や高速交通基盤の整備によって、従来に比較して、広域的な地域間連携が容易になりつつある。今後は、これらの手段を活用して地域間の連携を強めていく必要がある。

(3) アジア・環日本海の時代と地理的環境

 日本海では、古くは、北前船による活発な交流があり、戦前も日本海対岸地域との交流が広く行われていた。ところが、戦後は、東西冷戦の影響があり、50年にわたり日本海が緊張と対立の海であった。しかし、近年、冷戦構造の崩壊という歴史的な事件が発生するなど、わが国をとりまく環境が大きく変化し、アジア各国の経済的実力高まりによって、21世紀は環日本海・アジアの時代になると考えられる。この環境の変化により、太平洋ベルト地帯に重心を置いた国土構造が西南日本や日本海沿岸へとシフトしつつあることを踏まえ、地方は、自らの地理的な環境を積極的に活かして行くべきである。

第五 富山県の現状と課題

 このような地方を取りまく環境とそれに対応する視点を踏まえて、本県の現状と課題を紹介する。

1 産業振興と雇用の問題

 富山県は、戦前、急流河川を活かして水力発電を進め、低廉な電力料金で企業の誘致を進めた。この結果、昭和17年には、工業生産額が全国9位に達するなど工業の集積が進んだ。また、戦後は、昭和36年に着工し同43年に開港した富山新港(現特定重要港湾伏木富山港新湊地区)を中心に、アルミや木材関連産業等を立地させるなど、日本海側屈指の工業県となっている。

 この結果、富山県は、高校卒業者の県内就職率が全国トップレベル(91.2% 全国4位)となるなど雇用の確保が進んでいる。しかし、富山県内の高校を卒業した者が大学卒業後県内に就職した率は、平成7年3月大学卒業者で、44.0%(大卒・短大卒の平均では50.9%)であり、約半分が県外に就職している状況である。少子化時代にあっては、県外への就職は、直ちに高齢者単独世帯の増加と直結することであり、今後は、県民の高学歴化に対応した雇用の確保を重要な課題の一つとして取り組んでいく必要があると考えている。

 現在、21世紀に向けて、テクノポリス計画、頭脳立地計画などにより、メカトロニクス、新素材、情報やバイオなどの新しい産業の振興に取り組んでいるが、今後、ベンチャー企業の育成を初めとする内発型産業の育成にも積極的に取り組んでいく必要があると考えている。

■富山・高岡地区新産業都市建設計画
 背  景  戦後復興から高度経済成長ヘ、所得倍増政策、重厚長大
       型産業の発展
 指定年月日 昭和39年4月4日
 コンセプト 重化学工業を中心とした大規摸な工業地帯の建設及び
      近代的な農業地帯の形成に加え、理想的な住宅地帯と緑
      地、完備した都市施設を配した「緑の中の新産業都布」
      を目指す。
 戦略産業 非鉄金属、金属製品、化学、鉄鋼等の重化学工業(指定
      当時)  主な事業 ・特定重要港湾伏木富山港の整備
      ・工業用水道の整備
      ・富山新港臨海工業用地の造成分譲
      ・富山空港の整備
      ・住宅団地の整備(太閤山、月岡)
      ・高速自動車道の整備

■富山地域テクノポリス開発計画
 背  景 石油危機以降安定成長期へ、定住構想、加工組立型・知識集
      約型産業の発展
 指定年月日 昭和59年3月24日
 コンセプト 先端技術産業「産」、学術研究機関「学」、住環境「住」
      を有機的に結合した新しい「まち」づくりであり、先端技
      術産業の導入と地元企業の技術高度化による内発的振興
      を同時に促進する。
 戦略産業 バイオテクノロジー、メカトロニクス、新素材
 主な事業 ・(財)富山技術開発財団の設立
      ・富山八尾中核工業団地の造成分譲
      ・富山県工業技術センター(中央研究所、機械電子研究所)の整備
      ・富山大学地域共同研究センターの設置
      ・小杉流通業務団地の造成分譲
      ・富山インダストリアルデザインセンターの設置

■富山頭脳立地計画(富山地域特定事業集積促進計画)
 背  景 国際協調型産業構造への転換、交流ネットワーク構想(多
      極分散型国土の形成)、経済のソフト化・サービス化の進
      展、技術革新・情報化の進展
 指定年月日 平成元年3月15日
 コンセプト 産業の頭脳部分の集積を促進し、ハイテクとハイタッチの
      調和のとれた本県産業の高度化を図る。(テクノポリスを
      側面から支援する役割)
 戦略産業 情報サービス業、デザイン業、自然科学研究所
 主な事業 ・富山県総合情報センターの整備
      ・富山イノベーションパークの造成分譲
      ・富山県産業創造センターの整備(民活法1号施設、リサーチコア)
      ・富山県立大学の開学(平成2年)
        ・マルチメディア情報センターの整備
      ・富山県人材確保対策本部及びUターン情報センターの設置

2 観光・余暇開発の課題

 現在、立山は、立山黒部アルペンルートの開通によって、今日では、韓国、台湾や東南アジア方面からの観光客をはじめ年間100万人を超える人々が訪れる日本を代表する国際的な山岳観光地域となっている。このアルペンルートは、昭和39年に設立された第三セクター立山黒部貫光株式会社、関西電力、立山開発鉄道などの事業主体によって、巨額の費用と難工事の末、昭和46年6月に全線が開通したものである。

 このほかにも、昨年末に世界遺産として登録された「白川郷、五箇山の合掌造り集落」を持つ五箇山地域がある。この地域には、従来から、鈴木忠志氏が主宰する劇団SCOT・国際舞台芸術研究所を中心として世界演劇祭利賀フェスティバルが開催される利賀村があり、県としても、この活動の中心となっている利賀合掌文化村一帯を演劇、舞踊など舞台芸術振興の核となる県立「富山県利賀芸術公園」として整備している。これに加えて、この五箇山地域では、グリーン・ツーリズム事業や中山間地域総合整備事業広域連携型など多様な事業を進めており、本年には、地域伝統芸能活用法の承認に向けて城端及び五箇山地区において五箇山民謡を中心とする地域伝統芸能等基本計画を策定したところである。

 富山県では、昭和58年から「いい人 いい味 いきいき富山」をキャッチフレーズに、いきいき富山観光キャンペーンを実施してきており、観光客の入り込み数が、実施前に比べて約2倍に増加するなど大きな成果をあげている。しかし、その増加の多くはイベントに伴う県内の日帰り客である。この結果、県民の雇用に直結する県外客や宿泊客の増加が不足しているのが現状である。今後は、四季折々のイベントと観光ルートを組み合わせた魅力商品の開発、宣伝に力を入れるとともに、県外からの宿泊客の増加に焦点を合わせ、宿泊、温泉地の再開発について検討していく必要があると考えている。

3 生活・都市基盤の整備

 本県では、つぎのように全県一都市社会を形成する視点から、県内を結ぶ交通基盤の整備を図るとともに都市機能の集積を進め、都市から中山間地にいたる県土全域にわたって着実に地域整備を進めているが、この中で大きな課題は都市機能の集積の問題であると考えている。

(1) 全県一都市社会と30分交通圏

 富山県は、非常にまとまりのよい県であることから、「全県一都市社会」を目指し県土の均衡ある発展を目指してきた。このため、富山、高岡の両中核的都市を中心にその連担地域において高次都市機能の集積を進めるとともに、県内どこに住んでいても、県民が消費面や余暇活動等において豊かな生活が営めるよう、県内各市町村から広域圏の中心都市へ、さらに広域圏の中心都市から富山市へそれぞれ時間距離を30分以内とする「30分交通圏」の確立に向けて地域交通基盤の整備を進めているところである。

(2) とやま都市MIRAI計画などの都市開発

 県都富山市の都市機能の集積を進める視点から、21世紀に向けて情報化や国際化などの新たな社会経済の変化に対応した高度な業務環境、良質の就業環境の提供を目指す「とやま都市MIRAI事業(富山地区都市拠点総合整備事業)」を実施中である。これは、JR富山駅北地区において、古い運河を活用したカナルパークや「道広場とやまブールバール」を核にビジネス拠点ゾーン、出会いと活動拠点のゾーン、商業・住宅ゾーンを形成しようとするものである。

(3) 全県域公園化構想や全県域下水道化構想の推進

 県土全体については、平成6年に全県域公園化プランを策定し、富山県の自然に恵まれた美しい県土を生かして、全県域があたかも公園のようにすばらしい県土となるよう「全県域公園化構想」に取り組んでいる。

 また、現在、本県の下水道普及率は44%であるが、これを2000年には、72%まで向上させることを目標に、全県域下水道化構想を進めている。

(4) 中山間地域対策の推進

 本県の中山間地域について、農林業等の振興、観光・レクリエーションの振興、生活環境の整備、地域文化の振興など総合的な観点に立った中山間地域活性化プランを、地域の実情に応じて策定するための指針となる、中山間地域活性化指針を平成8年度に策定しており、今後、これに基づいて市町村の中山間地域活性化プランの策定を推進し、活性化施策の展開を図っていく予定である。

4 広域的連携の推進

 21世紀の国土のグランドデザインでは、来るべき人口減少・高齢化時代や地球時代の到来を展望して、地域連携の重要性がうたわれているが、本県では、日本海国土軸構想や日本中央横断軸構想の推進、岐阜県飛騨地域と富山県の隣接地域が連携する日本のふるさとを守り育てる飛越協議会の活動などの広域的な連携を行っている。今後、一層、地域間の連携を強化していく必要があるが、その推進には、ハード面では、高速交通基盤や情報通信基盤の整備が重要であると考えている。

(1) 日本海国土軸構想

 日本海沿岸地域は、政治、経済構造が大きく変貌しつつある対岸諸国との交流の窓口として発展し、新しい国土軸を形成することが期待される。また、自然志向や生活にゆとりやうるおいを求める国民の多様な価値観に対応した新しいライフスタイルを実現する空間として、災害等に対するリダンダンシーを備えた国土を形成するために重要な役割を果たしうる地域である。

 このような視点で、富山県知事が世話人代表を務める日本海沿岸地帯振興連盟が中心となって日本海沿岸の各県が一丸となって、次のような意義を持つ日本海国土軸構想を推進している。
ア 環日本海交流圏の骨格として環日本海交流圏構想に対応する。
イ 我が国全体のリスクマネジメント、経済の低コスト化、バランスの
 とれた健全な発展の確保という国土 構造上の課題に対応する。
ウ 地域の環境を活かして、「文化」や「生活の質」、「環境との共生」
 といった新しい価値観を体現する 国土空間を形成する。

 これらの役割を果たすためには、日本海沿岸地域等の整備を図る一層の強力な国土政策が必要である。

(2) 日本中央横断軸構想

 石川県能登地域から富山、高山、岐阜を抜けて名古屋にいたる地域は、
   ア 日本の中央にあって東西日本を結節する位置にあり、
   イ 日本海と太平洋側に国際交流拠点を持ち、環日本海交流圏と
     太平洋経済圏を結び、その集積を十分に活用できるともに中京
     大都市圏を含むという
特色を持つ地域である。このため、関係4県が、日本中央横断軸構想推進協議会を作り連携の推進に努めている。

 この日本中央横断軸構想が目指す機能は次の3点である。
 ア 中部圏域全体の活性化を促進し、新しい文化圏の創造及び内陸地
  域の活性化を通じて住民の豊かな生  活を実現する地域連携軸機能
 イ 日本の中央−重心地域−にあって、日本海国土軸と太平洋側の国
  土の軸をわが国の中央において結び  つけ国土全体に発展ポテンシ
  ャルを広げることにより、国土構造の再編に資する国土再編軸機能
 ウ 日本海側と太平洋側それぞれに国際交流拠点を持ち、それを連結
  することによって環日本海交流圏と  太平洋経済圏を結びつけ、新
  たな国際経済圏を形成する国際軸機能

5 イメージアップ事業

 富山県には、いろいろ良さがあるが、全国の方々や県民自身になかなかそれが認識されなかった。そこで、近年は、情報発信の意味を含め、いろいろな全国的なイベントやキャンペーンをやっている。

 平成4年には第1回ジャパンエキスポ富山’92、平成6年に高校総体などを開催してきた。本年は、「第13回全国都市緑化とやまフェア」、「第11回国民文化祭とやま’96」のほか、「国際トイレシンポジウム’96」、「全国ニューメディア祭’96 inとやま」を開催することとしている。また、平成12年には本県で「2000年国体」を開催する。

第六 富山県のビジョンと目標
 −住みよい県から住みたい県へ−

 現在は、経済のグローバル化に伴う地域経済の空洞化の問題、人口減少、少子化・高齢化や高度情報化など、まさに激動と混迷の時代である。このような時代には、明確なビジョンを持って、これを着実に実行していく必要がある。本県では、今年春に、新富山県民総合計画の西暦2000年までの後期事業計画を策定し、前記のような課題や視点を踏まえて、次の3つの立県構想に基づいて、住みよい県から住みたい県へ、地域づくりを進めていきたいと考えている。

生活立県  21世紀の新しいライフスタイルを実現する地域づくりの         モデルへ
国際立県  環日本海交流の中核拠点へ
人材立県  人材育成のモデル地域、人づくりのパイオニア県へ

 この目標を21世紀に向けて実現していくための視点や課題等を、以下に私見も交えて紹介したい。

1 21世紀の新しいライフスタイルを実現する地域づくりのモデルに
  向けて

 本県は、水や緑など豊かな自然や優れた教育・文化があり、全国トップレベルの住み良い地域であることを活かして、自然と文化に囲まれた21世紀の新しいライフスタイルを実現するモデル地域となることを目指している。このためには、既存の地域活性化施策を進めるとともに、次のような視点から、新たな施策に取り組んでいく必要があると考えている。

(1) 価値観の多様化と自然志向の強まりを活かす

 国民の価値観の多様化、自然志向の強まりは、北アルプス立山連峰や日本一のV字峡谷である黒部峡谷、環境庁の全国名水百選に全国一の4箇所が選ばれた清らかな水、雪、また、本州一の植生自然度など豊かな自然を持つ富山県にとって大きな意義があると考えている。

 富山県は、21世紀に向けて、この自然と都市の関係等を活かした新しいライフスタイルと産業開発の方向を研究するとともに、自然を活かした長期滞在型の余暇生活を提供できる地域にしていく必要があると考えている。

(2) 高度情報化時代の到来を活かす

 情報通信技術の発達によって、密度の高いコミュニケーションが容易に低廉な費用で実現できるようになりつつある。これに自然志向の強まりを併せて、自然と共存する新しいワークスタイルやオフィスのあり方が出現する可能性がある。富山県が属する北陸は、中規模の都市が適切な間隔で連たんし、都市と田園地域の連携が容易である。本県は、このような条件を活かして、21世紀に向けて新しいワークスタイルの研究を進めて行くべきであると考えている。

(3) 地域間の連携を進める

 富山県では、既に日本海沿岸地域、日本中央横断軸構想対象地域、飛越地域をはじめ北陸、中部圏などにおいて積極的に地域間の連携を図りつつあり、今年4月には、産業面においても、北陸3県でスーパー・テクノ・ゾーンの整備方針を策定したところである。今後、さらに、地域間の連携を強化していく必要があると考えている。 

(4) 地域の特色を活かす

 ア 3大都市圏と等距離にある地理的位置

 富山県は、3大都市圏から等距離にあるが、このことは、裏返して言えば、3大都市圏から等しく遠いということである。これを本当のメリットに転換するには、高速交通基盤の整備が不可欠である。特に、北陸新幹線の整備、北陸自動車道の4車線化や東海北陸自動車道の早期整備が極めて重要であると考えている。そのうえで、この地理的な優位性を、環日本海交流をはじめ産業、物流の拠点の形成に活かしていく必要があると考えている。

 イ 住みよい生活環境

 富山県は、新国民生活指標の「住む」分野が、持ち家率や家の広さなどから全国第1位の評価を受けているなど、総合でも全国で2位の住み良さがある。これからは、都市機能の集積、充実に一層努めるとともに、都市と農村、都市環境と自然志向の調和を目指していくべきであると考えている。

 ウ 日本海側屈指の産業集積

 富山県には、日本一の「アルミ王国」であるとともに、機械、製薬、化学工業等多様な産業集積を持つ日本海側屈指の工業県である。今後は、このような集積を活かして、新たな産業の創造、発展に取り組んでいく必要がある。特に、バイオテクノロジーやメカトロニクス、新素材産業等、新技術分野への展開を図るとともに、都市機能集積と密接に関連する情報サービス業、医療・福祉サービス等の都市型産業の振興にも意を用いていかなければならない。

2 環日本海交流の中核拠点に向けて

 東西冷戦構造の終結に伴って、日本海が「緊張と対立の海」から「平和と発展の海」へと変貌を遂げつつある。この結果、短期的にはいろいろな障害があるとしても、長期的に見れば、21世紀には日本海が文化的にも経済的にも、相互に活発に交流し合う海となると考える。現在は、環日本海交流の中で、経済交流は必ずしも重要なウエイトを占めているとは言えないが、対岸諸国の政治的、経済的安定が進めば、21世紀に向けて本県の経済的な活性化、文化的な活性化に重要な意義を持つと考えている。

 富山県は、環日本海時代の到来の中で、地理的な環境や国際交流・協力の蓄積といった特性を十分に活かしながら、対岸諸国との交流を深め、「環日本海交流の中核拠点」、「環日本海時代のチャンピオン」を目指していきたいと考えている。

 このような環日本海交流の高まりを本県の活性化に活かしていくためには、本県の
  ア 3大都市圏と等距離にあり日本の中央にあって日本海に面する
   という地理的環境、
  イ 国際交流・協力の蓄積、そして
  ウ 日本海沿岸地帯振興連盟など日本海側各県との連携、また
  エ 中京圏との人流・物流面での結びつきを強化する、日本中央
    横断軸構想の推進、東海北陸自動車道の整備促進が重要である。

 また、富山空港は、都心部から20分程度と利便性にも恵まれ、地方の第3種空港としては、国内6路線、国際2路線(ソウル便とウラジオストック便)を擁し、年間利用者数が100万人を超える全国有数の空港に成長したが、引き続き、大連便などの国際線の強化を進めていく必要がある。

 また、海では本州の日本海側に2つしかない特定重要港湾伏木富山港の整備を進めている。特に、テクノスーパーライナーが実用化されれば、中京圏からの貨物が東海北陸自動車道を通って伏木富山港へ運ばれ、それを航路でウラジオストクまで約10時間で運ぶ高速物流ネットワークの形成が可能になる。

3 人材育成のモデル地域に向けて

 富山県民は、売薬の先用後利という独特の商法を編み出し、また、本県の数多くの暴れ川を「禍を転じて福となす」という逆転の発想によって水力発電を行い、今日の豊かな富山県の基礎を築くなど、勤勉で積極進取の県民性を持っている。そして、安田善二郎、浅野総一郎、正力松太郎、大谷米太郎、河合良成など多くの人材を輩出している。また、高校進学率は昭和50年代半ばから全国第1位であり、大学進学率、大学院への進学率も全国トップクラスであるなど教育に対する関心も高い。

 このように、人づくりに熱心な地域であり、文化、産業などの各分野で優れた人材を輩出していることや、経済企画庁の新国民生活指標で全国2位であるなど富山県が高質の居住環境を持っていること等を活かして、人材育成のモデル地域、「人づくりのパイオニア県」を目指していきたいと考えている。

 また、21世紀に向けた地域の活性化には、なによりも人々の力と協力が重要であると考えている。そこで、現在進められている新しい試みを次にいくつか紹介したい。

(1) 県民参加の実現と「200X年 県民が燃えるプログラム」

 21世紀の富山県を築き上げていくのは県民一人ひとりであり、こうした取り組み等を通じ、県民一丸となって、活力にあふれた富山県を作っていきたいと考えている。

 このため、平成6年12月に「200X年 県民が燃えるプログラム推進会議」が発足し、各界の27人の若手の方々によるプログラム委員会が中心となって、来たるべき21世紀に向けて県民が一丸となって取り組めるプログラムを今から考えようとしている。昨年は、県民からの提案募集を実施し、現在は、それを基に検討が進められている。

(2) 「とやまファンクラブ」

 富山県をこよなく愛し、本県のイメージアップなどに協力いただいている方が発起人となって、「とやまファン倶楽部」が本年7月末に発足した。富山県を応援していただく会員のネットワークが全国に広がるよう期待している。

(3) 政策形成能力向上のための政策情報誌「でるくい」

 地方分権を確実なものとするためには、職員の能力を高め、「良い仕事」をして県行政への信頼を獲得していかなければならない。このためのキーワードが県職員の政策形成能力の向上である。本県では、計画県政に向けて、県職員全員参加・県民参加型の各種の計画づくりを行ってきた。これからの県政も、自分で考え、問題を解決することのできる県職員によって支えられると考えているところである。

 このような視点から、平成8年度に、県職員の政策形成能力を高めるため、職員の投稿で構成する政策情報誌「でるくい」を創刊した。

 以上、本県を取りまく様々な環境を活かして地域活性化施策を進め、富山県を住みよい県から、実際に「住みたい県」となるよう努めていきたいと考えている。

 これは、雑誌「運輸と経済」平成8年12月号に掲載されたものです。

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