「厚生福祉」平成13年7月11日(水)

インタビュー・ルーム(463)

【アルコール依存症を治療、研究】

吉本博昭さん(54)

富山市民病院精神科部長


 「心の病気」の多くは、育った家庭環境や周辺の人間関係に起因するといわれ、対人関係の疎ましさからアルコールに出ロを求める人も後を絶たない。アルコール依存症患者は全国で約二百五十万人との推計もある中、外来診療やインターネットを使って幅広く相談業務を行う吉本博昭精神科部長に、依存症治療の問題点と克服の難しさを聞いた。

アルコール依存症に取り組むことになつたきっかけは。
 「精神科には分裂症やうつ病、神経症などさまざまな分野があるが、薬物やアルコールの依存症もその一つ。前部長が依存症治療を一生懸命やったのでそれを引き継いだ。アルコール依存症患者の社会復帰プログラムを持つなど、県内でこの問題に取り組む施設は少ない。看護婦や臨床心理士など多くの人力を要するため、手間がかかるのが原因だろう」


依存症はどのような面が問題なのか。
 「考え方は、家族全体を巻き込む『家族病』。依存症患者の家族は、患者本人に酒を一滴も飲ませないよう努めるが、それがかえって患者の甘えを生み、飲ませることになる。家族は酒を隠したり、酒店に働き掛けたりと患者をコントロールしていないと不安になるものだが、そうした″世話焼き役″をやめさせる治療を先に家族に施すことが重要。患者が飲み続けられるこうした『イネーブラー』と呼ばれる支え手を教育し、本人がいやでも受診せざるを得ない状況をつくることが必要だ」

患者本人にはどんな治療を。
 「まず体からアルコールを抜く解毒をし、断酒教育を行う。入院が原則だが、症状が軽ければ外来治療でも十分。酒を飲むと激しい吐き気を催す抗酒剤を毎朝服用させることで、外来でも酒を飲まない習慣づけを患者に行うことは可能だ。しかし、依存症の治療・回復のためには、アルコール以前の問題に取り組まねばならない」

アルコール以前の問題とは。
 「依存症は必ずしも酒が好きでなるわけではなく、アダルトチルドレンと呼ばれる人がなりやすい病気だ。共通するのは、父親が暴力を振るうなどの機能不全家庭に育ったため感情の表し方が分からず、苦手な対人関係をごまかすため酒に頼ってしまうこと。家族の側も、患者が酒を飲まないと、感情を出さないため飲酒を認めてしまい、それが長年続いて依存症になる。(発症の要因は長期的なもので)問題克服の難しさはこの点だ」

一度患っても完全に治ることは可能か。
 「退院者十人中七人は社会復帰後も飲酒をまた始め、再受診する。依存症患者の平均寿命は約五十二歳で、失敗を重ねるうちに命尽きてしまうことも----。寿命を蚊取り練香に例えると、飲み続ける間は燃え続け断酒の時点で火が消えた状態。再び飲み始めると燃え始めいつか燃え尽きる、と考えれば分かりやすいのでは。決して元通りにはならない」

 同部長はホームページ上でアルコール依存症の相談を受け付けている。アドレスはhttp://www.nsknet.or.jp/~hy-comp/

       (聞き手 鈴木克彦=富山支局)