「北日本新聞」平成12年2月7日(月)

【あなたは大丈夫? 県内アルコール依存症事情】

実態:増える女性の”予備軍”

若年層に広まる恐れも


  慢性疾患の上位を占め、全国に二百二十万人いるといわれるアルコール依存症患者。中高年だけでなく、近年は若い世代にも広まりつつある。県内のアルコール依存症の実態や原因、治療への取り組みを探った。

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 「今思えば、五十歳前後の時が一番ひどく、地獄絵図のような毎日を送っていました」。富山市内の六十代の男性がつらい胸の内を明かし始めた。朝起きると、まず五合の酒を口にする。その後、寝るかふらふらと過ごし、夜になるとまた酒を飲む。酒屋は顔見知りのため、洒は気兼ねのいらないコンビニエンスストアで購入。酒を買うお金がなくなると、重い腰を上げてアルバイトに励む。
 家庭は崩壊寸前で、妻は離婚届を常に携帯するようになり、子供はそばに寄りつこうともしない。まともに食事を取らないため体は衰弱し、六十二`だった体重は四十七`にまで減った。男性は「酒が抜けきらないうちに飲むため、酔っている感覚がないんです。最後は昼か夜かも分からなくなりました」と、限度を超えた飲酒の恐ろしさを語る。
 仕事の失敗やリストラ、失恋、家庭不和・・・・。ストレス社会ともいわれる現代で、アルコール依存症に陥る原因は多い。初期のころは飲んでいた時の記憶がなくなったり、他人に迷惑をかけるなどの行動が目立ち、中期になると手のふるえが出たり、臓器に障害が起きる。ついには飲んでない状況下でも幻覚や痴ほう、記憶障害が現れる。
 「中高年の男性の病気と思われがちだが、決してそうではない。むしろ若い女性に広まる恐れがある」と警鐘を鳴らすのは、富山市民病院の吉本博昭精神科部長。吉本医師は九年一月にホームページ「グッパイアルコール依存症」を開設、メール相談を受け付けている。
 「依存症ではないか」と相談してきたケースでは、男女比がほぼ半々。「女性は男性以上に病院に来づらく、周囲に相談しにくい。インターネットによるメール相談は匿名のため、相談できたと考えられ、女性の″予備軍″がかなり多いことが分かった」と話す。  特に女性は女性ホルモンの影響で、男性と同じ飲酒量でも男性の約半分の期間で依存症になるといわれる。さらに、妊娠期間中の大量の飲酒は、胎児性アルコール症候群といわれ、知恵遅れや発育障害の子供を出産する危険性もある。
 酒を取り巻く社会環境はひと昔前に比べ大きく変わった。酒の値段は安くなり、コンビニエンスストアでは四六時中購入することができる。テレビでは連日酒のCMが流れへ女性に夕ーゲットを絞った販売戦略も少なくない。
 吉本医師は「高校生を対象にした調査で、初飲の時期や飲む量に男女差がないという結果も報告されている。もはや中高年や男性だけの病気でなく、酒を飲む人ならだれでもなりうる病気だという認識を持つことが大切だ」と話している。