やすら樹 No.69 2001 SEPT.

【 医療と内観 −心と内分泌系のつながり(体によい内観)−

  吉 本 博 昭  
富山市民病院精神科部長


 サイトウ・キネン・オーケストラの活動拠点として知られている長野県松本文化会館において第二四回日本内観学会大会が開催されました。その中で注目される発表がありました。北陸内観研修所からの演題で、集中内観体験者のアンケート調査分析による内観効果を報告したものでした。発表者の長島美稚子さんによれば「わだかまりがない、素直な気持ち、体の調子が良いという三項目が内観の有効性だ」と推察し、体の調子が良いという項目については、内観がメンタルヘルスのみならず、身体にも良い影響を及ぼすようであると述べています。

 前回と前々回に心が自律神経系や免疫系に影響することを書きましたが、最後に内分泌系が残りました。内分泌系にも心とネットワークを形成しているので、この点をお話ししましょう。

 人の体には、唾液、胃液、膵液などの分泌液が定まった分泌場所から排出されるものを外分泌、それに対して内分泌腺から血液の中に分泌されるものを内分泌、排出されたものをホルモンと言います。人の体は三つの系、神経系と内分泌系、免疫系によって恒常性が保たれています。神経系は神経繊維で連絡されているので、体や心の変化に対して迅速に反応します。それに対して内分泌系は内分泌腺から分泌されたホルモンが血液の中を通り効果器官に達して作用を発揮しますのでゆるやかな効果を認めます。このスローな時間差による命令も体にとって大事なのです。ホルモンは、副腎皮質より分泌されるストレスホルモンと呼ばれるコルチゾール、副腎髄質よりアドレナリンやノルアドレナリン、性腺よりのアンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロンなど良く知られていますが、その他にこれらの内分泌腺を調節する上位ホルモンもあり、それらはさらに脳により調整され、心とネットワークを作っています。


 さて、本題の内分泌系はどんな時に乱れるのでしょうか。ストレス、老化、栄養不良、自己免疫疾患や最近問題になっている環境ホルモン(外因性内分泌撹乱化学物質)などが考えられます。環境ホルモンは、環境中に放出された化学物質が、人の体の中に入りホルモンと同じような働きをしたり、ホルモンの働きを妨害したりするもので、内分泌の働きに大きな影響を及ぼす化学物質を言います。例えば、昔に使われたDDT、ダイオキシン、業務用合成洗剤など多数の環境ホルモンがあり、生物の雄において精巣萎縮、精子減少、性行動の異常などが報告されています。日々の生活の中でも内分泌系の障害を身近な体験として感じています。老化に伴う更年期障害、栄養不良状態、例えば摂食障害に起因して生理不順や生理が止まったりもします。ストレスが加わった時にも大きな影響があります。肌がかさかさしたり髪の毛が抜けたりに始まって、生理不順やインポテンツや、糖尿病や甲状腺疾患の発症や増悪にも影響します。


 環境ホルモン対策は大きな話題ですが、ストレス対処も大切です。ストレスを軽減する方法もいろいろ考えられ、例えばリフレッシュ感の高いシトラス(柑橘系)の香りは、難しい暗算を行った時のストレスを減らすとも言われ、各種のアロマセラピーも盛んです。しかし、冒頭で触れましたように、心という内的環境を整え変革を与える内観(療法)は、この方法として最適ではないでしょうか。内観は体の調子を良くするのです。内観の集いの女性の輝きはどうでしょうか。私はそうでないと思う方も、「普通の人はそれなりに?」輝くものと思います。