平成10年度後期アルコール・セミナーたより(No.1) 

(平成10年10月16日)



 11月に入ると街路樹の葉も赤色に黄色にと色を変え、まさしく紅葉の頃となりました。秋風も本格的に冷たくなってきており肌寒く感じることもありますが、いかがお過ごしでしょうか。
 平成10年後期第1回アルコール・セミナ−が10月16日に行われました。  今回は富山市民病院吉本先生による「アルコール依存とは」をテーマに講義が行われました。その内容についてご紹介します。

人類とアルコールの関わり
人類の発生とともにアルコールとの関わりがあったらしい。
アルコールが宗教的儀式、医療などに使われ、次第に嗜好品となる。
アルコール関連問題の発生
 最初は一部の特権階級の問題→大衆の問題として広まる
アルコール問題の医療化……(抗酒剤)の発見が契機
アメリカと日本でアルコ−ル問題に対する違い
 アメリカ→すぐに医療につながるようなシステムがある。
 日  本→アルコ−ル問題の末期的な段階でやっと周囲が動く状況。

依 存 と は
 習慣性になりやすい薬物を繰り返し使用することによって
@〈耐性の獲得〉 次第に増量(飲酒量の増大)しないと効かなくなる(酔わなくなる)
A〈身体的依存〉薬(アルコール)が切れると激烈な身体症状(禁断症状:手が震える、汗をかく等)が生じる
B〈精神的依存〉薬(アルコール)を得るためには犯罪もじさぬという強烈な欲求を生じる
 最近は身体依存の症状がなくても、依存とみなすようになってきており、お酒を探したり、手に入れようという探索行動を中心に依存を考えるようになってきている。

アルコール依存症の発見とポイント
 飲み方の異常 身体依存(離脱症状)
1.ブラックアウト1.手や体のふるえ
2.朝酒、日中の飲酒2.発汗(脂汗、寝汗)
3.隠れ飲み3.不眠−お酒が切れると眠れなくなる 
4.一気飲み 4.動悸(頻脈)
5.連続飲酒発作 5.こむら返り 筋肉のケイレン
6.山型飲酒発作6.吐き気、腹部不快感
 7.高血圧
 8.ケイレン発作(アルコールてんかん)
 9.振戦せん妄(手の振えや幻覚)

 上記のような飲み方の異常や、離脱症状を認めた場合、アルコ−ル依存症の可能性が高く、専門医に相談されるとよいでしょう。

アルコ−ルによる臓器障害について
 アルコールは、次のような体の多くの臓器を障害します。
脳の障害
1.アルコール性健忘症状群
 物忘れが激しくなる。
 アルコールによるビタミンB1(サイアミン)の欠乏による。空酒のため。
 @コルサコフ精神病
 
【症状】記憶力障害(新しいことが覚えられない)、失見当識(場所や時間がわからない)、作話(記憶がないので適当に自分の記憶がないところを埋める)
 Aウエルニッケ脳症
【症状】精神症状(軽度から昏睡にいたる意識障害)、運動失調(歩行障害など)、眼球運動障害
2.アルコール性痴呆
3.アルコール性小脳変性
【症状】歩行障害、構音障害
末梢神経の障害
アルコール性多発神経炎
 アルコールが原因の栄養障害(ビタミンB群とニコチン酸の欠乏)
【症状】足先の異常感覚や痛み、感覚鈍麻や疼痛、手足の筋肉の脱力、転びやすい、走りにくい
肝臓の障害
1.アルコール性脂肪肝
【症状】自覚症状がないことが多い。軽度の全身倦怠感、疲労感。
2.アルコール性肝繊維症
【症状】食欲不振、全身倦怠感、疲労感。
3.アルコール性肝炎
【症状】自覚的症状 食欲不振、嘔気、嘔吐、全身倦怠感、発熱、下痢、体重減少、疼痛(右上腹部〜心臓の下部)、おなかが張る
 他覚的症状 肝腫大、疼痛、黄疸、腹水
4.アルコール性肝硬変症
【症状】初期は無症状である。その後食欲不振、全身倦怠感、おなかが張る
 他覚的症状 肝腫大、クモ状血管腫、手掌紅斑、女性化乳房、食道静脈瘤、黄疸、腹水、浮腫
◎肝機能の検査値GPT,GOTの正常化は、肝臓が元に戻ったことを表すわけではない(ア症の場合)
消化器系の障害
1.アルコール性急性膵炎
【症状】おなかが張る、腰や背部への疼痛、発熱(ショック、急性腎不全、急性呼吸不全などあり)
2.アルコール性慢性膵炎(糖尿病になる人が多い)
【症状】腹痛、高アミラーゼ血症
  末期:体重減少、下痢、糖尿病
3.食道静脈瘤
その他の障害
1.アルコール性心筋炎
 心臓が大きくなる。酒をやめると元に戻るが、繰り返すと元に戻らなくなる。
2.骨に対する障害(大腿骨骨頭壊死症)
3.血液に対する障害(貧血)

ア症のおちいりやすい思考パターンについて
■白黒思考(極端なものの見方をして、中間の灰色を認めることができない)
■マイナス思考(物事をプラスよりマイナスに見てしまう)
■たてまえ思考(こうあるべきだという建て前)
■全体化思考(失敗したことが全てその人の人格としてみてしまう)
■レッテル貼り思考
■自己中心的思考

 アルコール依存症はつい、飲んでいる人の問題行動だけに目がいってしまい「飲んでしまうのは本人の意思が弱いからだ、酒に飲まれるからだ」と言われがちです。また、本人も「好きな酒を飲むのは自分の自由だ、何が悪い」と居直ってしまうことがよくあるようです。しかし、今回の講演から分かる様に、多量の飲酒は大きな身体的な病気を引き起こしてしまいます。アルコール依存症は明らかに病気です。治療をすれば回復する病気です。どのような治療がなされるのか、次回のアルコール・セミナ−で理解を深めましょう。
(文責:杉本留美)