平成10年度後期アルコール・セミナーたより(No.2) 

(平成10年11月20日)



 12月に入ると、なんとなく慌ただしく、気忙しい雰囲気があり、いかにも年末を迎えるという感慨がありますが、皆さんはいかがでしょうか。
 さて、平成10年後期第2回アルコール・セミナ−が11月20日に行われました。今回は富山市民病院吉本先生による「アルコール依存症の治療」をテーマに講義が行われました。その内容についてご紹介します。

アルコール依存症の対象
飲酒者本人の個人の問題として考えると治療は進まない
 家族の機能がうまく働かなくなった結果、病気となったと考える。
治療対象者依存症者、家族、会社関係者、地域の関係者などに広がる。

治療を妨げる因子
個人レベル
家族レベル
社会レベル
病気についての知識が不十分(例:意志が弱いから、酒をやめられないという誤解) 病気についての知識が不十分(例:毎日飲んでいた人が一週間ほど飲まない日があるから病気が良くなってきた)病気についての知識が不十分(例:依存症とは駅のベンチで寝ている人達だ)
病気に対する否認(例:いつでもやめられる)病気に対する否認(例:大酒飲みだが病気ではない)アルコール飲酒に対する寛容さ
治療への恐怖(無理やり入院させられて一生病院から出されないのではないか)家族が果たしている依存症者悪化への役割の否認(過度の世話焼き行動)事なかれ主義
ボーッとして状況理解が不十分(認知障害、意識障害、コルサコフ、痴呆)家族も治療の対象であることに対する抵抗社会が果たしている依存症悪化への役割の認識のなさ

治療を行うに際しての基本事項
1.節酒ではだめで断酒継続が必要
2.治療への動機づけ
  自らが主体的に治療に取り組むという力が必要
  治療の動機づけは一定でなく、強まったり弱まったりする。
  いつも動機づけを再確認する機会を持つ必要性
3.治療の継続

外来・入院治療
1.外来治療が可能な場合とは
 身体依存をまだ認めていない
 身体疾患が重篤でない
 家庭や職場を持っており、支える人が存在する
 スリップしても心身・社会面でまだ現状維持が可能
 家族が病気に対する理解や対処方法をマスターしている
2.身体治療の重要性(予防が最大の治療)
 飲 酒
  ↓
 前頭葉や側頭葉の障害、痴呆化
 (※アルコール依存症が全精神病の中で一番早く痴呆化する)
 認知障害
 (※アルコールにより、広範な認知活動を行うために必要とされる情報を
  一時的に保持し、処理する能力の障害)

治療目標
 治療は、断酒することを目標に取り上げながら、考え方や生き方などを家族とともに修正しながら健康で幸せな生活ができるようにすることを最終目標としている。
 断酒だけを治療目標にした場合、飲酒問題が消失しても、次の別な問題や病気が出現するからである。

一 口 メ モ
★回復には自分がつらい気持ちであることをありのままに出すこと。
★性格は変わらなくても行動は変わる。
★家族が自分自身のことに目を向るようになると、飲酒者自身も自分のことに目を向けるようになる。(家族の対応でア症者が変わることもある)
★家族病とは、家族のメンバーが悪いということではなく、お互いの関係性や役割がうまく機能していないことを言う。

 アルコール依存症は、本人の否認、家族の否認等がありなかなか治療に結び付かなかったり、症状が重くなってからでないと受診できなかったりということがあります。しかし初期の段階であれば、外来通院だけでも可能ですし、また、入院したとしても、退院後、通院、断酒を続けることで、回復していく病気だということを理解していただければと思います。
(文責:杉本留美)