平成11年度前期アルコール・セミナーたより(No.1) 

(平成11年4月16日)



 大変満開だった桜の花から今度はチューリップ、ツツジへと花の季節も移り変わって いますが、いかがお過ごしでしょうか。
 平成11年度第1回アルコール・セミナーが4月16日(金)に行われました。  第一回目は富山市民病院の吉本先生に『アルコール・依存とは』をテーマに講演を していただきましたので、その内容についてご紹介します。

アルコール依存症という最終駅への旅

1.出発前繰り返しアルコールを飲み、旅への準備
2.依存症切符の購入アルコールに強くなる(酔わなくなる)、飲む量が多くなる
3.はくたか号(特急)車中アルコールへの強い欲求
自分も周囲も酒を止めた方がいいと思っても飲酒
4.新幹線で最終駅へアルコールが切れると禁断症状
(手のふるえ、発汗、幻視、妄想が生じる)

*最近は1.2.3.の段階でアルコール依存症と診断
*精神依存の段階で受診すると早く酒を断ちやすい、禁断症状が出ると、酒を止めにくくなる。

アルコール依存症の発見ポイント

 次のような飲み方の異常や、お酒が切れたときの症状(離脱症状)が役に立ちます。しかし、飲んでいる当人はそんなことがないと否認することがあります。

 飲み方の異常 身体依存(離脱症状)
1.ブラックアウト
(お酒を飲んだ時の記憶がない)
1.手や体のふるえ
2.朝酒、日中の飲酒
(晩酌だけで終わらない)
2.発汗(脂汗、寝汗)
3.隠れ飲み3.不眠
(お酒が切れると眠れなくなる)
4.一気飲み
(お酒に強くなる、水のように飲む)
4.動悸(頻脈)
5.連続飲酒発作
(1週間〜10日間でも続けて飲酒する) 
5.こむら返り 筋肉のケイレン
6.山型飲酒発作
(飲む時期と飲まない時期を繰り返す)
6.微熱
 7.吐き気、腹部不快感
 8.高血圧
 9.ケイレン発作(アルコールてんかん)
 10.振戦せん妄
(手の振えや幻覚の出現)

アルコ−ルによる臓器障害について

 アルコールは体の多くの臓器を障害します。人にはいろんな個性があるようにアルコールによる臓器の障害のされ方にも個性があります。脳の障害、末梢神経の障害、肝臓の障害、消化器系の障害、その他の障害があり、いろんな障害の組み合わせで出現します。
脳の障害
1.アルコール性健忘症状群
 物忘れが激しくなる。
 アルコールによるビタミンB1(サイアミン)の欠乏による。空酒のため。
 @コルサコフ精神病
 
【症状】記憶力障害(新しいことが覚えられない)、失見当識(場所や時間がわからない)、作話(記憶がないので適当に自分の記憶がないところを埋める)
 Aウエルニッケ脳症
【症状】精神症状(軽度から昏睡にいたる意識障害)、運動失調(歩行障害など)、眼球運動障害
2.アルコール性痴呆
3.アルコール性小脳変性
【症状】歩行障害、構音障害
末梢神経の障害
アルコール性多発神経炎
 アルコールが原因の栄養障害(ビタミンB群とニコチン酸の欠乏)
【症状】足先の異常感覚や痛み、感覚鈍麻や疼痛、手足の筋肉の脱力、転びやすい、走りにくい
肝臓の障害
1.アルコール性脂肪肝
【症状】自覚症状がないことが多い。軽度の全身倦怠感、疲労感。
2.アルコール性肝繊維症
【症状】食欲不振、全身倦怠感、疲労感。
3.アルコール性肝炎
【症状】自覚的症状 食欲不振、嘔気、嘔吐、全身倦怠感、発熱、下痢、体重減少、疼痛(右上腹部〜心臓の下部)、おなかが張る
 他覚的症状 肝腫大、疼痛、黄疸、腹水
4.アルコール性肝硬変症
【症状】初期は無症状である。その後食欲不振、全身倦怠感、おなかが張る
 他覚的症状 肝腫大、クモ状血管腫、手掌紅斑、女性化乳房、食道静脈瘤、黄疸、腹水、浮腫
◎肝機能の検査値GPT,GOTの正常化は、肝臓が元に戻ったことを表すわけではない(ア症の場合)
消化器系の障害
1.アルコール性急性膵炎
【症状】おなかが張る、腰や背部への疼痛、発熱(ショック、急性腎不全、急性呼吸不全などあり)
2.アルコール性慢性膵炎(糖尿病になる人が多い)
【症状】腹痛、高アミラーゼ血症
  末期:体重減少、下痢、糖尿病
3.食道静脈瘤
その他の障害
1.アルコール性心筋炎
 心臓が大きくなる。酒をやめると元に戻るが、繰り返すと元に戻らなくなる。
2.骨に対する障害(大腿骨骨頭壊死症)
3.血液に対する障害(貧血)

ア症のおちいりやすい思考パターンについて
■白黒思考(極端なものの見方をして、中間の灰色を認めることができない)
■マイナス思考(物事をプラスよりマイナスに見てしまう)
■たてまえ思考(こうあるべきだという建て前)
■全体化思考(失敗したことが全てその人の人格としてみてしまう)
■レッテル貼り思考
■自己中心的思考

アルコール依存症についての一般知識
■アルコール依存症者の人数----全国で約230万人(正確な数は不明)
■アルコール依存症者の平均死亡年齢 断酒しなければ約51〜52歳
■断酒の成績は2年で8割が再飲酒する
■自助組織(断酒会やAAなど)に参加していると断酒率が高い(約2倍)
(文責:杉本留美)