平成9年度前期アルコール・セミナーたより(No.2) 

(平成9年5月23日)



 木々の緑が次第に濃くなってきて、新緑の季節にふさわしい日々になりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
 さて、5月23日に平成9年度第2回アルコール・セミナ−が行われました。
 講師は富山市民病院 臨床心理士 山野先生で、「飲酒中の心理について−依存症者と家族−」をテーマに講演していただきました。ではその内容についてご紹介します。

飲酒中の心理
 酒→それ自体が、いやなことを忘れさせてくれ、自分を大きく感じさせてくれる。
 飲酒→陶酔感、幸福感、動悸、吐き気→酔いの記憶

  ▼  コントロールして、問題が起これば行動を修正していく。

 酒での苦痛<酔いがもたらす効果が大きいと強く求めるようになる(嗜癖行動)

  ▼  シラを切ったり、平静を装ったり、否認や理由を付けたりする。
     内心は恥ずかしさや、不安がある。
 普通の状態になるために酒が必要となる。
     飲んでも、以前のような心地よさは無い。飲んでもおいしくない。
     かえって、罪悪感、恥ずかしさ、自責の念、自己嫌悪が生じてくる。

感情を操作する仕組み
 自分の失敗や無力感、劣等感などによる恥などの否定的感情のために、自分の価値、自己評価が損なわれ傷つくことを避けて、自分自身を守ろうとする。
 自分に対しても他人に対しても恥や劣等感を隠し、秘密にする。(自我の防衛)
 恥や失敗したことなどの秘密について他人に知られることは強い恐怖、苦痛、不安、恐れを感じる。小さい頃から隠してきたものはなおさらそれが強い。
 特に小さい頃からアルコール依存の家庭で育った子は、自分の心を隠そうとする。
 自分の心を隠す
    防衛(仮面)が必要になる。
     (否認、合理化、非難、正当化、責任転嫁、退行)
      例:妻に対し、「お前がうるさいから飲むんだ…」
      治療は防衛し、否認していることをくずすこと
 酒を飲んだ結果起こる「失敗」「恥」は隠され、積み重なっていく。
   恥…自分の存在自体、間違っていると思う。
   罪…行動したことについて感じる。
 回復した人 → 自分の気持ちを認めることができた人

アルコール依存症者を取り巻く人々
 家族の中に何か問題が起きた時、他の家族が役割を分担して助け合う。健康な家族 は愛情(相手に対する思いやり)を持って助け合おうとする。
 依存症者を抱えた家族では依存症者や家族に対する思いやり(愛情)から世話焼き が始まるので、飲酒問題から手を引くことは罪悪感や、後ろめたさを感じて心が痛む。

世話焼きのパターン
 ・酒を飲むことをコントロールする(酒を隠したり、量を加減したり、捨てたり)
 ・酒を飲む理由をコントロールする(仕事、家族、ストレス等)
 ・酒を飲んだ結果をコントロールする(物を壊したり、自動車の事故、欠勤の言い訳)
       ↓
 家族のバランスを保とうとして依存症者の役割、責任を肩代わりしていく
 ・飲酒行動を助けることになる。
 ・お酒にかかわること         依存症者を刺激して飲ませてしまう。
 ・責任の肩代わりをすること
 ・忠告や説教や叱責をすること
 世話焼きやお節介行動に伴う問題として依存症者が問題の結末に直面せずに済んでしまい、飲酒していることとその結果との関連がわからなくなる。
 家族にも、酒害者と同じような、心の痛みがあり、否認という防衛が働いている。
 家族にとって見守ることは辛いこと
 飲酒とその結果のつながりが見えてくるほど、治療にゆだねる気持ちが強くなる。
 秘密を吐きだすことで、問題が明確化し、恥ずかしさも縮まっていく。


 お酒を飲んでいるときには、飲んでいる本人も、それをみている家族も非常に混乱しています。どうすればいいのか分からなくなってしまいます。その時に、このセミナ−がお役にたてれば幸いです。
(文責:杉本留美)