「読売新聞」平成13年6月2日(土)

【ひともよう:つらい過去、仲間と共に】

氷見ありそ断酒会会長
清水 惣一郎さん60(氷見市)

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 アルコール依存症の克服を目指す人たちの自助グループ組織「全日本断酒連盟」富山県連に昨年三月、氷見ありそ断酒会を立ち上げた。メンバーは、氷見市内の六十歳代の男性依存者四人とその家族たち。週に一度ほどの定例会のほか、県内外の他のグループも参加する研修会を企画し、酒に依存した過去の体験などを語り合い、断酒の誓いを新たにする。電話口で弱音を吐く依存者などの元に駆けつけ、相談にも応じている。
 自らも酒害に苦しんだ。酒の席では、陽気になった自分が主役になれる気がした。四十五歳を超え、酒の量や頻度が増した。家中に酒瓶を隠し、家族に隠れて飲んだ。タンスや押し入れ、犬小屋の中にまで。体が酒を欲しがった。
 建築現場の監督や営業の仕事など、職を転々とした。前の晩の酒が体に残り、無断欠勤を繰り返した。仕事中も、車内で飲んだ。営業先の相手に、酒臭いのを隠そうと、必ず風下に立った。何度も解雇された。「そんな自分が情けなくなって、自殺を二度試みた」
 妻の美恵子さん(56)は、そんな酒浸りの日々を「地獄だった」と振り返る。九年前、結婚を控えた長女の恭代さん(34)が泣きながら言った。「お父さんが酒を飲み続けるのなら、私、結婚しない」。断酒を決意した。
 富山市民病院で入院治療を受けながら、自助グループに参加した。「自分の哀れな過去を語るのはつらかった。だが、仲間の語る姿を見て、過去の生活には二度と戻りたくないと強く思うようになった」と静かに話す。「つらい過去を引きずりながら生きている多くの仲間と一緒に歩もう」。″未来の仲間″にそう呼び掛けている。
文・写真野口 博文