このページは、月刊誌「さつき研究」の新連載企画「さつき栽培二人三脚」の本文と写真を、 当ホームページで紹介させていただくものです。
 企画の内容は、まだ会ったことのない二人の「さつき好き」同士が、月刊「さつき研究」の 誌上を借りて毎月1回仮想文通を行ない、さつき栽培に関する意見交換やアドバイスをし合うというも ので、平成12年1月から同12月まで1年間連載されました。
 当ホームページでの紹介に当たっては、出版社である栃の葉書房殿をはじめ、執筆された お二方の許諾をいただいた上、内容については一切変更を加えず原文のまま掲載させていただき ました。

平成13年1月


さつき盆栽ホームページ 編者



1月号

2月号

3月号

4月号

5月号

6月号





7月号



8月号



9月号



10月号



11月号



12月号






「さつき研究」 1月号 (118、119ページに掲載)

名古屋から金沢への手紙 1
金沢から名古屋への手紙 1

新年明けましておめでとうございます。
 私は、愛知県名古屋市に在住、41歳(妻、子2人)サラリ−マンです。 現在、日本皐月協会愛知天白支部(会員40名)の団体に加入しています。 天白さつき園々主、近藤弘さん(72歳)と2代目稔金さん(日本皐月協会理事)を中心に、 黒野将寛支部長さんはじめ、会員一同切磋琢磨しながらサツキに取り組んでいます。

 おやじ(園主)さんの人柄もあって、週末ともなると皆が集まります。 和気あいあいと楽しい皐月談義(酒もまじって)に1年中、人の和花を咲かせています。 季節によってはサツキを持ち寄り、本人の悩んでいる樹を皆で検討、 時には酒の勢いで完成樹がアッという間に裸樹になり、本人真っ青のこともあります。 その時は寂しい姿でも、将来的には樹格向上すること間違いありません。

 またある時、正面を皆で検討したことがありました。7対3でほぼ決まろうとしていた時、 おやじさんがやって来て「俺ならここで見る」と一言。これが逆転の発想というか、 しっかり急所を見据えたもので、一同納得。このようなことが度々あり、実に愉快な支部です。
 どこの会でも同じでしょうが、サツキという一つの趣味を通じて、そこから生まれる信頼関係、 そして人と人との和、この関係があるからこそ今でもサツキが好きなんでしょうね。

 現在、サツキ65鉢と草物20鉢程を所有しています。以前は、120鉢程所有していましたが、 平成9年8月にマンションへ越したので減らしました。しかし、現在でも少し多いかなと感じています。 棚は広さが12坪ほどのバルコニ−にあります。以前と環境が大きく変わったことで、樹作りにとても戸惑っています。
 というのは、バルコニ−が西向きで、南、西、北にはサツキを遮る障害物が何一つありません。 そのため、夏場の日の照り返しと西日、そして冬場の風には最も注意しなければなりません。 10月から2月頃まで鈴鹿山脈から吹き下ろされる伊勢湾をわたる風は、一旦吹き出すと1日中やみません。 防風対策、西日除け、陽の照り返しなど、それなりに対策を立ててはいるのですが、マンションの規制もあり、 あまり効果がありません。完成樹、持込みの古い樹、あるいは傷がある樹や力の弱い樹にとっては過酷な環境です。 いかに樹勢を落さずに維持していくことがサツキ作りの一番大切なことと思っている私にとって、非常に頭の痛いところです。
 11月には棚のサツキの葉色が全体的に悪くなり、数本程枯らしてしまいました。

 ちょうどそんな時に編集部から今回の企画の話がありました。その時はとてもお受けできないと思いましたが、 私より条件の悪い環境でも素晴らしい樹作りをされている方はたくさんいると考え、 この企画を機会にゆるんだ気持ちへもう一度鞭を入れようとお受けしました。 お相手の方の環境、管理、樹作り、サツキ感などを紙面で伺うとともに、 ご指導やご指摘いただきながら一層サツキに取り組んでいく所存です。

 どうかよろしくお願いいたします。

名古屋市・山下真司











拝啓、一面識もない貴方に唐突にお手紙を差し上げる失礼をお許しください。
 私はいま不思議な気持ちに浸りながらこの手紙を書いております。と言いますのは、平成11年の10月中旬、 私宛に1通の電子メールが到着しました。差出人は「栃の葉書房」。メールの内容は、 この「さつき研究」誌による新企画の執筆依頼でした。 企画書によれば私が執筆する手紙の受取人(あなた)の住所も名前も知らされないという、 何とも不可解でミステリアスなものでした。しかし、納得できた唯一の点は、 テーマが「さつき」であったこと。誌上を借りて「さつき好き」同士が手紙で意見を述べ合ったり、 アドバイスをし合うという企画であることがわかり、私が適任者であるかどうか自信のないまま、 受けて立とうと心に決めた次第です。
 前置きが長くなりました。まずは自己紹介から始めさせていただきます。

○名前は江梨久太郎(キュータローとでも呼んで下さい)もちろん男。64歳。

○石川県金沢市に住み、年甲斐もなくサラリーマン(第2の人生)を続けております。

○さつき歴は約40年。しかし途中何年かは抜けているため、実質は半分と言ったところでしょうか。
 実は私の親父(明治28年生まれ)が大のさつき好きで、私は3、4歳の頃から親父の脇で彼の行なう 「挿し芽」や「剪定」を見ていたという実績があります。それを加味すれば、60年ということにもなるのですが…。(笑)

○私の養成棚は、猫の額ほどの庭(すき間?)。ご多聞にもれずスペースは全て「さつき」で埋め尽くされ、 女房の洗濯物干し場も、ついに占領してしまいました。

○わたしの好きなのは「挿し芽」で、毎年梅雨どきに挿し芽を行ない、 2、3年過ぎて活着した苗をお好きな人に差し上げるという「クセ」があります。 金沢に住んで30年、一度引越しをしましたが、前に住んでいた所では、町内が「さつき横丁」 と呼ばれるほどになりました。

 ちょっと自慢たらしくなりましたが、私はさつきに関する知識の持ち主では決してありません。 先にも申しました通り、ただ「さつきが好き」というだけの理由で細く長く続けております。 従いまして「盆栽」と呼べるような名品は一本もありません。
 しかし、親父が挿し芽から育てて今や形見となった「大盃」。見ず知らずのお方のお庭からご好意で頂戴し育成中の 100年を超える荒木仕立て。自分のさつき歴とも言える挿し芽から40年を過ぎた品種不明の「さつき」など、 他人から見ればほとんど価値のないものに「こだわり」を持って育成しています。 趣味である限り自分の価値観を最も大切にすべきではないかと、うそぶきながら…。

 面積が許す限り鉢を増やしてきましたが、毎年成長する分を計算に入れなかったため、 最近では満員御礼の状態です。風通しが悪く、病気の発生にも気を配らなければなりません。 今年の夏は不覚にも水切れを起こし花芽にまで影響がありました。来年は挽回を図らねばなりません。 また、北陸は雪が多いため、12月に入ると養成棚全体に「雪覆い」をしなければなりません。 冬の間の約4ヵ月間は、さつきは全て「ムロ」の中ですので、この間の話題を何にしようかと、 今から頭を悩ませています。

それでは、今回はこれにて失礼します。

                          敬具
江利久太郎より



2月号 (104、105ページに掲載)

名古屋から金沢への手紙 2
金沢から名古屋への手紙 2


作業前


作業後


金沢のキュータロー様

 1月号の手紙を拝見させていただき、初めて相手方のサツキ感や環境などをわずかではありますが、知ることができました。 石川県金沢市に在住とのことで、観光地で有名な兼六園や香林坊へは1度行ってみたいものです。以前お住まいのところでは、 町内が「サツキ横町」と呼ばれるようになったり、さし芽を増やし、それをご近所へあげて喜んでいたそうで、キュータローさんの 人柄が分かってきそうです。サツキ歴は60年のキャリアとうかがいまして、人生にサツキに大先輩であり、改めてよろしくお願い します。
 ところで、そちらは雪が多いためにまもなく、サツキはムロの中で静かに春の訪れを待つことになるだろうとお察し致します。
 雪が少ない名古屋ではムロにこそ入れませんが、やはり真冬は似たようなものです。植え替えや整姿、荒木の切り込みなどを行な えるのは2月中旬になってからになります。2月上旬までは寒さが続き、中旬以降になれば、次第に寒さも緩んで来たかなあ? という感じです。この頃になると樹液の活動が始まり、やっと枝葉やツボミに生気が見られるようになります。私の場合はサツキ 棚の環境も考え、2月下旬から植え替えなどの手入れを再開しています。それまでは、サツキについてあれこれ考える毎日が続く ばかりです。
 ただうれしいことに、こちらではサツキの休眠期間中、各地で大きな展示会が開かれます。京都で先日行なわれた 日本盆栽大観展、正月開けの名古屋の銘風盆栽展を始め、地元の展示会もあります。大きな展示会ともなると、 主木もさることながら添え草ひとつとっても手入れが行き届いています。このような展示会を見ることは、バランス感覚や 空間美などを育む上で私にとって本当に良い勉強となります。少しでも感性を高められればと思い、この冬も時間の許す限り 見学に出かけようと考えています。
 という冬前の心構えを話したところで、今回は私の所有している樹の写真も送ります。それぞれ、秋に植え替えた樹の作業前と 後の写真を自宅で撮ったものです。
 私の場合、始めから中品と小品が好きで、写真のような樹を集めています。場所をとらず、持ち運びや植え替えも便利で、 マンションの6階に住む私にはベストサイズです。また、価格の面でも、素材のよいものを比較的手に入れやすいのも魅力です。
 展示会では大盆栽の迫力にこそ勝てませんが、遊び心をくすぐられるのがたまりません。形は小さくと大木のような 「形小相大」の樹で、風を感じるような演出を展示会で旨くできたらと思っています。
 また最近は、石付けの特小サイズなども作って遊んでいます。

追伸 私の場合も「名古屋のやまちゃん」とでも読んでください。






さつきのムロ(雪覆い)



 名古屋の山下真司様、

金沢の江梨久太郎です。始めまして。
 お手紙拝読いたしました。実は偶然なのですが、私の故郷は名古屋でして、先の便りでもお知らせしましたが、 私が子供のころ親父の趣味を通じて「さつき」と出会ったのも、まさしく名古屋でした。もう40年以上も前の ことですけど…。
 さて、今回は北陸の冬の話題をお届けしましょう。
 有名な兼六園では、毎年11月になると雪から樹木を守るための「雪つり」が行なわれます。新しい縄を使った 幾何学模様を目のあたりにする頃、我が家でも「さつきのムロづくり」をしなければなりません。拙宅では狭い庭一杯 に広がった養成場(?)の中でのクロスワードパズルにも似た作業が1日中続きます。今年も先週の日曜日1日をかけて、 どうやらムロの枠組みだけは完成させ、庭一面に広がっていたさつきの鉢を全てその中へ押し込みました(写真)。
 このあたりが、冬でも太陽サンサンの場所に住むお方との大きなハンデキャップではないでしょうか。しかも、ムロの中へ 一旦入れてしまうと、好きな鉢を自由に見ることも出来なくなってしまいます。
 私が所属している「日本皐月協会金沢支部」のメンバーも、大きい温室を持っているような人は皆無で、それぞれに工夫 しながら、雪との戦いや防御をしているようです。
 まあ、そんなわけで、「さつき協会」での会合も、冬の期間は仲間との雑談が多くなりますが、私は、そんな中から いろいろためになる知識を得ております。山下さんのお手紙にもありましたが、同じ趣味を持つ者同士の会合は実に楽 しいですね。
 ところで山下さんに一つ質問があります。冬場の殺虫や殺菌はどのようにされていますでしょうか。寒い間は虫や バイ菌もあまり活発に動かないので、一休みかもしれませんが、こちらでは、ムロの中へ入れる前に一度殺菌だけでも しておかないと何となく心配で、今年は花時期に使い残した「ロブラール」という粉剤の水溶液を噴霧しておきました。

 その他ムロに入れる前にしたこと。
 1、鉢全体の点検。清掃、落ち葉の除去など
  (2-3ヶ月、事実上のお別れですので…)
 2、ムロの棚板の清掃
 3、不要針金の除去、修正のための針金かけ
 4、よほどの不要枝は除去。
 5、途中水遣りのことを考えて鉢を並べる。
  (このことは、意外に重要です)

 あと半日をかけて、ムロの上に波板トタンを並べれば、さつき用シェルターの完成です。昨年までは、文字通りの トタン板(鉄製)を使っていましたが、今年からビニール製の波板に変えてやろうと思っています。シェルターの中が 真っ暗では、さつきが可愛そうですから。

 今回はこれにて失礼します。



3月号 (104、105ページに掲載)

名古屋から金沢への手紙 3
金沢から名古屋への手紙 3


斜幹の金采


小品U部サイズの日光

金沢のキュウータロー様ヘ

 年の瀬に入りあわただしい世間、今年を振り返ると多難、混迷の凶年でしたよね。1999年、 息も詰まるような出来事ばかり。最悪といえば、茨城県東海村の臨界事故を始め、神奈川県警の不祥事、大地震、 幼児や小学生の殺害など、暗いニュースというより異常としかいえず「これからの日本、日本人はどうなっていく のだろう」と考えてしまう。相変わらずの不況と高止まりのままの失業、すったもんだの介護保険制度にコンピューター の2000年問題(会社のコンピューター大丈夫かなあ)と取り上げるときりがないため、サツキに話題を変えましょう。

 今月は棚のサツキの紅葉も寒風の影響で落ちて樹姿も冬の姿になり、枝のほぐれななどの風情を楽しんでいます。 また先月でも話したとおり、各地で行われる盆栽展へ時間の許す限り足を運ぶようにしています。
 つい最近ですが、著名な方々が出品するということで知られている全国的にも有名な岡崎市で行われる盆栽展 「五万石展」がありました。今、誌面を賑わしているジャンボ尾崎も出品しているとのことで、見学に早速行って きました。国風展に入選した樹も多数展示されているだけあって、国風展の規模を小さくしたような素晴らしい展示会 でした。見学の最中、その会場にジャンボが偶然にも現れて驚かされました。もっと驚いたことは、即売品の黒松だった と思いますが、植え付け位置や枝の長短等について業者の方と彼が真剣に話し合っていたことです。その姿を見て、 本で紹介されている通りに本当に盆栽の好きな人なんだと感じました。

 さて、前回ご質問いただきましたことについてですが、名古屋と金沢ではまったく気候が違うためご参考にはならない かもしれませんが、お答えしておきます。私の場合、殺虫剤のオルトラン水和剤1000倍と殺菌剤のベンレート水和剤 1000倍の混合液を11月下旬に散布しています。この薬剤散布を最後に越冬中は予防につとめています。そして、 冬の間は 秋に与えた肥料や落ち葉、雑草、鉢や鉢回りや棚周辺などの清掃 定期的な鉢回し 芽透しや整姿、整形など の作業 防寒、防風、摘蕾などに注意します。この他にも、来年一年の作業計画をするなど、やることはたくさんある のですがなかなか手が回らない状態です。キュータローさんと異なるのは、冬の間でもサツキを手にとって眺めながら 一本一本の樹について樹形構想をあれこれと楽しめることでしょうか。ムロの中にサツキを入れて取り出すこともまま ならず、事実上2、3カ月サツキとお別れになるのはさぞかし寂しいこととお察し致します。

 今のところ、今年は暖冬が続いています。植え替えを私の場合は2月中旬頃から例年行なっていましたが、この分だと 少し早めに取りかかれそうかなと思っています。このまま続くようであれば、来月の下旬ともなると行なうことができ そうです。植え替えた場合は、次回に紹介する予定です。
 それでは失礼致します。

 名古屋市・やまちゃん



写真1
雪の被害を受けた大盃(樹高65cm幹回り60cm)


 名古屋のやまちゃんへ。金沢のキュータローより。

 2月号のお便り楽しく拝見しました。マンションというお住まいに応じた楽しみ方を工夫されている由、感心いたしました。 中品と小品がお好きとのこと、それに丹精された懸崖の「大盃」の写真も拝見しました。印刷がやや暗かった (編集部さん、ご免なさい)ため、詳細はわかりませんが、お上手にトリミングされていますよね。私など庭のスペース一杯まで 養成の場所を広げてしまい、収拾のつかない状態が続いています。

 さて、この拙文が掲載されるころには、名古屋はもうそろそろ春の息吹きが感じられることでしょう。春先の作業の計画は 如何でしょうか。こちらはまだまだ雪の中、春の手入れまでには少し時間があります。
 しかし、今シーズンの雪には泣かされました。…というのは、先月号でお知らせしたムロ(さつきシェルター)に入れたもの は良かったのですが、ムロに入らない「大物」(?)が、不意の雪によって被害を受けました。素焼の大鉢で10年来養成して いる新木仕立ての「大盃」(写真上)ですが、とても一人では動かせないため、玄関先の指定席(?)にそのままにしておいた ところ、重い雪の直撃を受け、ヤケの部分から出て来た大事な脇枝を1本折ってしまいました(写真下)。


折れた跡のアップ

 こんな時、完成木でしたら、悔やんでも悔やみ切れないのでしょうが、幸いにして養成木だったため、もうすっかり諦めて、 この被害を「災い転じて福となす」にはどうしたら良いかを考え始めています。
 この金沢では、過去にこんな経験を何度もしておりますが、被害から10年ほど経過すると、それがかえって良い結果に繋がる こともあるから面白いものですね。これも素材木が「さつき」だったからでしょうね。

 さつき盆栽の育成を通じてこんな経験を何度もすると、自分の仕事や人生の出来事に対しても、同じような意識を持って 対処しているのではないかなどと、ふと思ったりします。人生は、あまり早く諦めてはいけませんけれど、結果オーライに 繋がる「諦め」ならば結構じゃないんでしょうか。
 ついでに、金沢のさつき仲間との雑談で、私の心に響いた言葉を一つご紹介します。

 「盆栽はわしより長生きなんやからな……・。わしらこいつらの一時期を預かっているだけのもんや」。

 まさにその通り、誰かが種をまき、誰かが挿し芽をして育成してきたものを、今ご縁があって自分が育てている。 過去も未来も気にせずに、今、懸命に手入れをしている…・。達観したようなことを言うつもりはさらさらありませんが、 ここまで来ると、盆栽には何か「禅的」なものを感じずにはおられませんね。このあたりが、外国の人からも盆栽が好まれる 理由の一つなのかも知れませんね。

 今回は、話題がとんでもない方向へ発展してしまいました。それではまた。




4月号 (106、107ページに掲載)

名古屋から金沢への手紙 4
金沢から名古屋への手紙 4

金沢のキュウータローさんヘ


日光


新日光


 雪の被害を受けた大盃、大変でしたね。写真を拝見させていただきました。自然樹あふれる素晴らし い魅力ある素材な上に、一人では持てないとのことで、幹回りも太く、迫力が伝わってきました。サツキ の品種は何千とありますが、中でも大盃は1番と言ってよいほどの強健種です。傷口の処理を済ませ、 後は日頃の愛情こもった管理を続けられたら、きっといい答えを出してくれるでしょう。また、こんな経験 をしてきた愛樹であれば、なおさら完成した時の喜びもひとしおで感慨深いものになるんでしょうね。と は言うものの、やっぱり被害は無いにこしたことはありませんよね。
 まもなく2月に入ると、こちらでは植え替えなどを行なうことができます。今年は暖かいので1月末に作 業を始めました。まずはということで、日光と新日光の2鉢を手がけました。素焼き鉢で2、3年程持ちこ んだものです。どちらも小品 部、幹回り28〜30 です。
 日光はコケ順、枝付きと根張りの良さが魅力です。しかし、良い根張りが化粧鉢に収まらず、根の処 理にとても苦労しました。近年の展示会では、驚くような太幹のサツキがどの部門にも出品されている のを見かけられます。特に小品 部や 部で、幹回り30 もあるようなものが鉢映りも良くうまく鉢に納 められているのには、日頃どのような管理をしているのか気になります。私のようなサラリーマンがあの ような鉢で管理したら、ひと夏も維持できないだろうと思います。写真でもわかるように、植え替えた日 光はこれでもまだ鉢が大きく、次回の植え替えでは再度根を処理して、鉢合わせをしようと思っていま す。いったん化粧鉢に植え付けると、樹勢は必ず落ちてきます。数年たってからの荒療治は、環境と管 理が悪い私にとって注意が必要です。
 新日光は根張り、立上りの曲のよさが魅力です。苦労したことは正面の決定です。表と裏の両方に魅 力的な個性がありました。決まってからの作業はスムーズに行なえました。ただ、樹が若いためにもう 少し素焼きの鉢でつくり込もうと考えています。
 最後に、キュウタローさんからの前回のお手紙でサツキに取り組む姿勢や思考など、とても勉強にな りました。簡単ですが、今回はこの辺で筆を置きます。
名古屋市 山下真司


 名古屋のやまちゃんへ。金沢のキュータローより。

 ここ数年、暖冬が続きましたが、この冬はやっと平年並みに戻ったかな……、というの が私の今冬の感想です。雪にうずもれる生活は本当に大変ですが、冬が厳しければ厳しい だけ、春の訪れには一層の喜びが感じられます。静かなモノクロームの世界から、若葉が 一斉に萌え出し、日ごとに色を増して行く様を身近かにできるのは、雪国に住む者の特権 でしょうね。


写真1

 さあ、さつきの季節の到来です。何から手をつけましょうか。やりたいことばかりです が、今年は春先に大物を一つやっつけようと考えています。それは5年ほど前、名古屋の 生家の庭から拙宅へ運び、仮植えにしておいた種類不明の「さつき」(写真1。丸いのは 500円硬貨)を、根洗いの上素焼き鉢へ鉢上げすることです。
 この木は、今は亡き親父の手によって育成されたもので、私も子供のころから生家の庭 で毎春の花を見ていたという「イワク付き」の古木です。株立ちのボサ木ですが、低く切 り詰め、大きな株を生かした鉢物に仕立てることができたらと思っています。60代も半ば を過ぎようとしている私が大物の荒木仕立てに挑んでも、完成木を見ることは出来ないか も知れませんが、そこはそれ「プロセスを楽しむこと」と割り切ってトライしようと思っ ています。


写真2

 親父の形見盆栽としては、中品の「大盃」を1鉢持っており(写真2)、今も大 切に育成しているのですが、今度の大物は、「親父本人も知らない形見」にしてやろうと、 妙なファイト(?)を燃やしています。こんな心境でさつきの手入れができるのも、世代 を超えて同じ趣味を持つことが出来た者の幸せというものでしょうね。

 ところで、私の所属する「日本皐月協会金沢支部」でも、今春の展示会など一連の計画 が盛り上がって来ました。展示会の会場にチャリティコーナーを設け、若木の即売から上 がる利益を恵まれない人たちへ差し上げる例年の企画が今年も行なわれる予定です。挿し 芽が好きな私としては、毎年このコーナーへ2-3年木をご提供することが習慣になりました。  展示会の席上で、先輩諸氏と肩を並べて名品を出品できる日が1年でも早く来るよう、 手持ちの「鉢物」を「盆栽」のレベルにまで格上げすべく、引き続き精進して行きたいと 思っています。






5月号 (104、105ページに掲載)
名古屋から金沢への手紙 5
金沢から名古屋への手紙 5

金沢のキュウータローさんヘ

 2月に入り、一年を通じて寒さの一番厳しい時期です。相変わらず寒風の吹き付ける日々が続き、棚のサツキも 震っています。この時期は、根の活動が休眠状態なので思い切った作業を行なうことができ、強い切り込みや根の 処理を行なう予定のサツキには最適な季節といえましょう。 前回、ご紹介いただいた亡きお父様の形見のサツキ は手掛けられたでしょうか。前回のお手紙でキュータローさんは「60代半ばを過ぎようとしている私が大物の荒木 に取り組んでも完成を見ることはできないだろう。それでも作る過程を楽しめれば」と、言われていました。お手 紙を読んで、私が所属している日本皐月協会愛知天白支部の今は亡き初代会長加藤鶴夫氏80才を心に忍ばせました。 サツキが大変好きな方で、お亡くなりになる1週間前に入院先の病院から足を運んだ天白さつき園でバッタリ出会 いました。「会長、ここへ来ていいんですか。体は大丈夫なんですか」と言うと、「なあーに大丈夫、大丈夫。 それよりこのサツキどう思う」と私に問いかけてきました。手に取ったサツキは、完成などまだまだ先と感じるよ うな小品の裸木でした。「会長、これを作るんですか?」「そうだよ、この樹は良くなるぞ」と言って即購入。 病院に樹を持ち帰ることはできないため、サツキは置いて帰られました。これが会長との最後のお別れでした。
少し話が長くなりましたが、キュータローさんの言われる通り荒木であろうと完成樹であろうと、いかに楽しむ ことができるかが、一番大切なことかも知れませんね。





 さて、今月楽しんだ2鉢(小品2部)を紹介します。購入して3年ほどの晃山で、幹回り36cm、当初から正面を つくり込んで来ました。まだ半完成木で、後2〜3年もすれば地元の展示会への出品予定でした。しかし今回、 購入当初から抱いていた正面に思い切り替えてみました。頭を叩くことは大きなリスクを抱えることになりましたが、 思った以上に足元の迫力が増したことに自分では満足しています。これであと10年は楽しめます。もう一つは光の司 (幹回り32 )です。数年前に正面の位置を変えたため、当時抜いた一の枝の傷跡が残っていますが、お気に入りの サツキです。まだ弱い枝が一部にあるため、樹勢を落とさずにつくり込んでいこうと思います。  それでは、今回はこれで失礼します。

名古屋のやまちゃんへ。

 今回は、ここ金沢のさつき仲間のお話をしましょう。日本さつき協会金沢支部は、歴史も古く良い指導者にも 恵まれた立派な支部です。事務所(会員のたまり場)は、耕納晴耕園のさつき部内にあり、園主の耕納善紀さんを 中心にメンバーは31名、事務所にはいつ顔を出しても話し相手には事欠かないという、なごやかな雰囲気の中に 活気が溢れる楽しい支部です。園内には耕納プロの手による数多くの名品盆栽が陳列養成されており、それらを 自由に鑑賞できることは何よりも貴重なことなんですが、自分の「鉢」との落差が目立ち、いつもため息をつかねば なりません。
 先週支部の総会が開かれましたが、会場はひなびた温泉宿。午前中の会議もそこそこに、昼食をはさんで駄弁り会、 雪の見える露天風呂で鋭気を養うという幹事さんの「イキ」な計らいが感じられる会合でした。ことほど左様に打ち 解けた仲間なのですが、支部としての問題はやはり会員数の確保、魅力ある出し物など支部の活性化にあるようです。 行事面では、メインとなる「花季の展示会」をはじめ、各季節における「植え替え講習会」や「整姿講習会」、 また名品を鑑賞するするために京都大観展や国風盆栽展など有名な展示会への「見学旅行」など、数多くのイベントが 決定されました。
 今年の金沢は雪が多く、具体的な作業に取り掛かることができないため、今回の原稿もついこんな話題になって しまいましたが、オマケとして今到着したばかりの「さつき研究4月号」の中から私の創作意欲に最も訴えかける作品を、 やまちゃんにお知らせし、このことから私の好みを理解していただくのも一興かと存じます。それは92ページ右側 最下段の「大盃」や、117ページの「秋田錦」などです。もちろんさつき研究誌に掲載される作品は名品ぞろいで 全て好きなんですが、私としては自然現象である「風」や「雨」、時には「雪」と言った、植物が本来受けるべき 環境を「盆養」の中に感じられるものが大好きなんです。10年以上、独断と偏見で創ってきた「吹流し」や「懸崖」 も持っていはいるんですが、気持ちだけが先行し作品としてはまだまだ「体」をなしておりません。







 添付の写真は、 金澤城の外堀「百間堀」の斜面に生きる見事な懸崖のさつきです。私の理想とする「自然が作った盆栽」の見本として ご紹介する次第です。
 次号からは本来の「さつきの手入れ」の話題にしたいと思います。では、では。

 金沢の キュータローより。














6月号 (118、119ページに掲載)
名古屋から金沢への手紙 6
金沢から名古屋への手紙 6

金沢のキュウータローさんヘ


 3月の声を聞くと、日増しに暖かさが肌で感じられ、サツキシーズン到来!  様々な作業が適期を迎え、サツキを数多くお持ちの愛好者は嬉しくも忙しい 時期になりました。日照時間が長くなり、毎日の見回りがいっそ楽しくなってきましたね。 少し前までは仕事から帰ってくると真っ暗だったのに、少しずつ棚で遊ぶ時間も増えて来ました。 仕事で疲れて帰っても棚のサツキを眺めているだけでフラストレーションが解消されます。 ただし、健康状態の良いサツキを鑑賞する場合はいいのですが、健康不良のサツキだとかえって落ち込みますよね。

 さて、そちらでは冬囲いもとれて、愛樹と久し振りの再会で楽しい日々を送られていることでしょう。私は これからの時期、去年の失敗を繰り返さないために自分なりに立てた簡単な目標を実践して行く所存です。 植え替えは、樹作りを主として花を見ないものや、鉢に根が充満して水はけの悪いものなどは今月中 にすませます。潅水は1日1回を目安にたっぷり与え、水の管理を十分注意していくつもりです。 昨年は水不足の失敗から数本の樹を枯らしてしましましたが、何とか生きている樹もあります。樹勢 が弱く痩せ枯れた樹を、ここの限られた環境でもとに戻すにはどうすれば良いかと思案中です。何か いい名案があったら教えてください。
 今回は、現在の状況と展示会出品出品予定の樹を紹介します。

 化粧鉢に植えている樹は大盃(樹高40cm、幹回り42cm)です。

 丸鉢に植えられている樹は如峰山(樹高55cm、幹回り34cm)、まだ鉢 合わせをしてしていないので来年の展示会出品を予定しています。
 簡単ですが、今回はこの辺で筆を置きます。


名古屋のやまちゃんへ。




 春を迎え、日本皐月協会金沢支部の活動も活発になってきました。先週の日曜日には「春 の剪定と整姿」というテーマで講習会が開かれ大勢の会員がそれぞれ「鉢」を持ち寄り、「芽 すかし」や「摘蕾」など、花の時期をにらんだ手入れを行ないました。
 講習会もたけなわになって来ると、今日のテーマはテーマとして、根洗いをする人や、 針金かけをする人など、様々な作業が入り混じり、私のような初心者はあちらこちらと渡 り歩いて色々な作業を見聞きすることができ大変参考になりました。





 私の持参した「鉢」は、3年前京都の大観展の即売コーナーで手に入れた荒木の「光の司」 で、一旦「裸樹」にして芽吹きさせたボサ樹の「正面決め」と、1の枝、2の枝に軽く針金 かけをしました。「正面」は、自分としては1年前から決めていたつもりでしたが、なんと、 耕納プロの見方では私の決めていた場所から約90度回した場所がベストということになり、 その説得力に脱帽しました。昨年夏の暑さと若干の水切れにより樹勢が今一つなので、今 シーズンは摘蕾の上、このままソット養成することにします。

 4月号で紹介した品種不明古木の鉢上げも行ないましたが、これは何とも私の手には負え そうにない代物と解りました。しかし親父の形見には違いありませんので、何とか持ちこ たえ、時間をかけて手なずけようと思っています。ジャジャ馬ならし…と言ったところで しょうか。

 今年は雪が多く荒木の養成樹に被害が出た事は3月号でもお知らせしましたが、ここへ 来て兼六園の「雪つりはずし」も終わったので、我が家でも皐月のムロ出しを行なったと ころ、途端に遅い雪が降り始め、一晩中養成棚の鉢につもる重い雪を落とすため徹夜に近 い状態でした。この30年間を振り返ってみると、「桜吹雪」と本物の「吹雪」とが同時に やって来るという経験を2・3度したことがあり、春先の「ムロ出し」や「雪覆い外し」の 時期選定は非常に重要であることを改めて思い知らされました。

 こんな話題は6月号の記事としてちょっとタイミングが悪いですね。最近のインターネ ット時代には全てがリアルタイム化の方向にあり、このコーナーもできるだけ季節感を外 さないよう気をつけたいと思います。来月号はいよいよ花本番でしょうか。では。

 金沢のキュータローより。




















7月号 (104、105ページに掲載)
名古屋から金沢への手紙 7
金沢から名古屋への手紙 7


金沢のキュータローさんへ
 花期展を目前にして、忙しい日々を過ごされていることと思います。 あと1カ月もしないうちに、新緑に覆われている棚のさつきが待望の花を 咲かせる、と思うと何だかうれしくなってきますね。
 ところで、サツキとは、四季折々その時々の姿を楽しませてくれ、樹でよし、 花でよしと言われています。私もキュータローさんも、そんな魅力に取り憑かれて いる愛好者の一人なわけですが、私には心配ごとが一つあります。私は30歳で サツキ栽培を始め、現在は日本皐月協会愛知天白支部に所属している会員38名中 の一人です。会の中では一番年齢が若く、若いといっても42歳ですが、振り返って みるといつになっても私が一番若いままです。言い替えれば、この12年間、新しい 会員がひとりも入会していないということです。口で言ってしまえばそれだけなのですが、 この事実はなんとも寂しい限りです。
 このような問題は、どこの会も抱えていることのようです。サツキ会全体も深刻な問題と して取り上げているようで、愛好者の底辺拡大をめざす事を打ち出していますね。私たちの支部でも、 会員募集については今後の課題として取り上げて行くつもりです。
 私としては、サツキ盆栽を始めるのに今ほど絶好の時期はないと考えているのですが…。なぜなら、 素材の良い新木や完成樹が、10数年前の半値以下で購入可能だからです。こんな状況をもっとPRして いくべきだと思います。また、協会本部にもアッと驚くような企画などを期待しています。
さて、蕾が目に見えて充実した開花直前のサツキに、一斉に花が咲くようにと、鉢回し、通風、葉水などを 私は行なっています。数が多くついた蕾は、形の良いものを残してバランスよく摘み取ります。 単色咲きについて個人的な好みを敢えて言わせてもらえば、花がやや少ない方が味わい深くて好きです。 他にしていることは、無駄枝の切除、十分な潅水、薬剤散布です。4月の薬剤散布は2回、使用薬剤は スミチオン乳剤、オルトラン水和剤を予定しています。当たり前の管理なのですが、去年はそれを できずに辛い思いをしました。2度と同じ失敗を繰り返すことの無いように今年は頑張っています。




 最後に、去年と今年の春先に手がけたものが新芽を吹き出してきました。写真を撮りましたので お送りします。4月号用に送った日光と5月用の光の司です。来月は展示会の様子などを予定しています。
 それではこの辺で筆を置きます。

名古屋のやまちゃんへ。
 この原稿が掲載される頃は、まさに皐月の真っ盛り、各地で花期展示会が開かれ同好の諸氏も 多忙を極めていることでしょう。金沢支部の今年の展示会場は「金沢市民芸術村」。かつて 紡績工場だった跡地を金沢市が購入し「赤レンガ」の建物を生かした多目的な空間です。


金沢市民芸術村

 普段は「音楽」や「演劇」ほもちろん、「絵画」「彫刻」「華道」「工芸」その他芸術を志向する ものならばなんでも「自薦」「他薦」を問わず自由な発想と行動が許されるユニークな場所です。 そのようなモダーンな場所でクラシックな「皐月盆栽展」が行なわれるということで、 「新しい布袋に古い酒を注いだ(?)」面白さが期待されています。
 私の感覚では、皐月盆栽展もこのような場所で開催され続けると、きっと何年か先には、 小品、中品、大席などのジャンルのほかに、「アブストラクト」などというジャンルが増設され、 ユニークな盆栽が登場するのではないか、などとつい考えてしまいます。皐月盆栽の 「形にはまった美しさ」を否定するものでは決してありませんが、日本古来の「華道」がたどって 来た状況を見るとき、皐月盆栽の形も少しづつ変わっていくのではないか?などと考えるのは邪道 なのでしょうか…・。
 盆栽と呼べる「鉢」も持たぬ私などに「皐月芸術論」を展開する資格はありませんが、むしろ 野次馬的な発想として、花期展示会の席上、居並ぶ名品盆栽の奥の方に、もしも型破りな鉢が一鉢だけ 置いてあったら…?、などと考えると、妙な好奇心をくすぐられる気持ちになってきます。
 やはり型破りは単に型破りであってはならず、古来の皐月盆栽が持つ「美しさ」をマスターした後に 出てくる「型破り」こそ本物の「型破り」なのでしょうか。いづれにしても、皐月盆栽の基本すら出来て いない者が言及する世界ではありませんね。こんな話題になったのは今年の展示会場が「金沢市民芸術村」 に決まったことによる連鎖反応とお聞き流し下さい。




 さて、本題に戻りますが、今年の展示会への私の出品(?)として、挿し芽3年生の苗約50本を チャリティコーナーへエントリーします。過去にも「地雷除去キャンペーン」へのご協力、 「地域のお困りの方へのご援助」などに微力ながらご協力してきましたが、今年もキャンペーンの目的は何であれ、 私と自然との共有物である挿し芽苗が、少しでもお役に立てることが、何かの必然と思えるようになってきました。 それではまた。
 金沢のキュータローより。



8月号 (132、133ページに掲載)
名古屋から金沢への手紙 8
金沢から名古屋への手紙 8


金沢のキュータローさんへ
 さて、いよいよ待望の花期展到来。愛好者の1年の労が報われて、 全国各地で揚揚の展示会が開催せれています。
 愛知県だけでも十数の愛好団体があります。この時ばかりは少し でも多くの展示会に足を運び、たくさんのサツキを見学したいと 常々考えています。しかし、残念なことに多くの展示会の開催日 が重なるため、できないでいるのが実情です。
 ここで、私たちの今年の展示会を紹介します。会場は名古屋 市営の荒子川ガーデンプラザで、名古屋市後援のもとに開催し ています。市職員の方も大変協力的で、展示会を支える大きな 力となっていただいております。開催が3日間というには少し短い 気もしますが、樹のことを考えた上でのことです。


愛知天白支部の展示会場

 開催中のイベントとして、講習会を1日行ないました。3年生 苗木を使用して、植え替えや針金かけなどを会員の指導のもとに 体験していただきました。出来上がったサツキは、各自で1年間 管理して、来年の展示会に講習会の部門に出品していただきます。 講習を受けられた方がいかにサツキに取り組んだか、1年間の成 績発表の場として、この部門は設けられました。少ない講習者では ありますが、1人でも多くの方にサツキの良さをわかってもらえれ ばと、毎年続けられています。
 後は即売。キュータローさんのように無料配布とまではいきませんが、 サツキ、山野草などを手頃な値段で販売しています。最近、私は、 山野草にも興味が出て来たこともあり、普段見かけない種類が出ると どうしてもほしくなります。私に限らず、会員が即売品を購入すること はしばしばあります。



会員も狙っている即売品


 ここで私どもの展示会で、残念に思っていることを2つ。まず、場所 が公園内ということで、雨が降りでもしたら客足がさっぱりとなくなる ことです。こればかりは、展示会を企画しているものにとって何とも 寂しい限りです。もう1つは、写真では中々わかりづらいと思いますが、 25〜28席出品されるそれぞれの席の広さが狭いことです。主木と添えの バランスをうまくできず、のびのびと飾れないのが残念です。
 そうそう、もう1つありました。どこの展示会でも言えることなの ですが、最近は古花や旧花の展示がめっぽう少なくなりましたよね。 これらは品種的に弱く、作りにくいといった理由も考えられますが、 晃山系ばかりが目立った会場も寂しいものです。
 なんだかんだ申しあげましたが、短所は徐々に改善し、長所はより一層 伸ばしつつ、お客様に喜んで頂けるように来年に向けて頑張っていく所存です。
 簡単ですが、今回はこの辺で。


名古屋のやまちゃんへ。
 今回は、待ちに待った花期展示会に関する話題です。
 先月号にも書きましたが、金沢地区の展示会は6月9日から11日までの3日間、 「金沢市民芸術村」で開催されました。


金沢支部の展示会場

 私の今年の計画では、「3年生の挿し芽苗約50本」をチャリティコーナーへ ご提供することとしておりましたところ、オープンが近づいたある日、実行委員会 本部から「あなたも是非1鉢出品するように」との強い要請です。 本部からの「要請」だからと言って、まさか「養成?」中の鉢を提出する訳にも行かず、 お世話になっている耕納プロに相談したところ、「盆栽としての価値よりも、 その鉢が持つ”付加価値”を前面に出して出展してみたら・・」、とのアドバイスを いただき、その言葉に悪乗りしま した。
それは、本誌4月号で「親父の形見」として皆さんにご紹介したあの「大盃」のことです。 こんなボサ木を誰も見向いてはくれないでしょうが、私としては、我が子の展示会 デビューに、舞台の袖から肩をたたいて送り出す親心をもって晴れの舞台へ上がら せてやりました。一言、添え書きをつけて・・。


一言、添え書きを付けた私の出品、大盃

 さて、今年の展示会場となった前述の「金沢市民芸術村」、村内にはいくつかのホールがあり、 今回の会場となったのはPIT-5と呼ばれるユニークな場所です。会場へ1歩入ると、 まずは3階吹き抜けの広さに圧倒されます。床は平坦な部分が少なく、あちらこちらに アップダウン(階段やスロープ)があるいという、入れ物そのものが芸術的(?) なのであります。そのような会場に展示される盆栽はといえば、正面だけでなく、 後からも上からも、時には下からも見られるという、ファッションショー的な感じさえ 抱かせる雰囲気でした。参考までに、今回の展示場所についての意見を観客に聞いてみたところ、 今までにない雰囲気の中で鑑賞できたと評価する声が多く、マイナスの意見は全くありませんでした。
 今回、このような場所を選んでいただいたことに対して、実行委員の皆さんにまず感謝 しなければなりません。それに加えて展示の方法など皆さんの感覚の鋭さにも敬意を表さねばなりません。 先月号でやまちゃんも言っておられましたが「若年層へ、もっとさつき盆栽をアッピール」するためにも、 まずはこんな場所を選び、新しい感覚をもって展示を行なうことが必要になるのではないでしょうか。
 そしてもう一つ言わせていただくならば、盆栽そのものの「フォルム」も、少しづつ自由な発想を 取り入れ、現代感覚を表現するような手法にトライすべきではないか? さつきのような成長の早い樹こそ、 そんな冒険が出来る絶好の素材ではないか? こんな想いが私の脳裏をかすめました。
 そんな時が来たら、私の棚の「駄鉢」たちにも、ひょっとしたらフットライトが当たるかも知れませんね?
 金沢のキュータローより。




9月号 (104、105ページに掲載)
名古屋から金沢への手紙 9
金沢から名古屋への手紙 9


金沢のキュータローさんへ
 あれほど待ち望んでいた花季展示会でしたが、始まったと思ったら、アッという間に終わってしまいました。 花季展終了後の支部表彰式、および反省会も、会員一同来期のさらなる飛躍を誓い無事終了。花後の手入れも ひと段落し、張り詰めた心の高ぶりもさめて、エアーポケットに落ちたように棚のサツキを眺めながらぼんやり…。 でも、ひと月も過ぎれば夏本番です。去年の二の舞を踏まないためにも、感傷に浸ってばかり入られません。 年々樹勢が衰えているのがわかるだけに、この夏をどのように乗り切ることができるか、これが花季展を終了 した今の最大課題と言えます。  課題といえば、花季展でひとつ気になることがありました。それは、会場に来てくれた他の支部に所属され ている方からご指導いただいた事です。言われてみて初めて気付いたのですが、出品にあたっては草物にも 季節感やバランスなどを考える必要があるんですよね。会場でズバリ指摘された時はショックでした。 展示会ではサツキのことばかりが気になり、草物は見栄えさえしていればいいだろうという安易な気持ちで これまでは選んでいました。見る人はそんなところまで見て下さってるんですね。反省会ではとてもよい材料に なりました。


 さて、今回は毎月行われている支部交換会を紹介します。紹介と言ってもどこにでもある交換会となんら 変わりはありません。あんこは天白さつき園々主のおやじさん。小気味良い掛け声で始まり、次から次へと セリ落としていきます。これ、簡単なようで、誰にもまねができないひとつの芸術に近いものがあります。  なぜ、このようなことを申し上げるかというと、会の発足以来ずっと、おやじさんにあんこをお願いして きたわけですが、一時体調を崩されてできない事がありました。その時、「私にはできない」と一度はお断り したのですが、あんこを引き受けるはめになってしまいました。


 支部長を始め皆さんの応援も受けたのですが、 体験を通して初めてその苦労がわかりました。長時間立ったままのうえ、喋りっぱなし。お金が絡んでいるだけに、 たとえ1000円のものでも売り手と買い手の気持ちになって取り組まなければなりません。本当に大変なんです。 おやじさんのように冗談を交えて楽しくセリ落としていく、そんな芸当はまだまだ先です。そこには確かな知識 と経験が必要、と感じました。今回はこの辺で失礼します。




名古屋のやまちゃんへ。
 1年1回の華やかな花の饗宴もアッと言う間に終わり、今はもう緑一色になった鉢に囲まれる毎日です。 一生懸命に咲いてくれた鉢たちに感謝の気持ちを込めて花ガラを取り、無駄枝を外し、お礼肥えを与えながら、 私の気持ちはもはや来年の「姿」に飛んでいます。梅雨が明けるまでのこの時期、私は全ての鉢から新芽の伸びる「音」が 聞こえて来るような気がします。日に日に生長する樹と、なかなか取れない時間、私の気持ちが最も落ち着かない時期でも あります。そんな中、久しぶりの休日に一日中養成棚の中で過すことが出来る日は、私にとって「至福の時」以外の何物でも ありません。  この時期の手入れは、まずラフな「バリカン刈り」。梅雨明けまでに全ての鉢に大雑把にハサミを入れ、あとは時間をかけて 新芽の整理をします。鉢の数が多いので、優先順位を付けてお気に入りのものから済ませるのですが、近年、この鉢の数は 私の力の限界を超えるのではないかと感じるようになりました。しかし、先月号に生意気にもサツキの「形破りフォルム論」(?) を展開した手前もあり、今年は手持ちの鉢の中から形の変わったものをえらんで、5カ年計画で、ある挑戦をすることを決めました。  いわゆる「形破りフォルム」への挑戦です。もともと形破りな素材を使って、自分が抱いている将来のイメージと、自然が作る 造形との一致点を無理なく求めてみたい、と言うのが私の理想なんですが、はたしてどうなりますか…。  もちろん形破りだけが目的ではありません。こんなに素晴らしい花が咲くサツキ盆栽になぜ若い人が関心を示してくれないのか?  世の中のフラワーブーム、ガーデニングブームに、何故サツキが乗れないのか?「いまの若い人にはね……」と片付けないで、 サツキ盆栽の方から積極的に若い人たちへアプローチして行くことも大切なことではないだろうか?。これが素直な私の気持ちです。


 「晃山錦」は今までどのように創ったらよいか悩んでいましたが、何本かの徒長枝を利用してユニークな形を目指そうと 思います。


 もうひとつは数年前に養成棚から落して芯を折ってしまった「品種不明樹」で、偶然ですが扇のような形になった所を 利用して、鉢植えの「扇」を目指します。5年後の花季展示会までにはもっと仲間を増やし、会場の一角に「オブジェ風」の 鉢が並んで、その前には大勢の若者も集っている…、こんな風景を想像しながら5年間頑張ってみたいと思います。  もちろん日本皐月協会金沢支部の皆さんとの論議を重ねながら…。



10月号 (104、105ページに掲載)
名古屋から金沢への手紙 10
金沢から名古屋への手紙 10


金沢のキュータローさんへ
 夏、海、山…夏休み、待望の夏、誰もが待ち望んでいた季節、ちょっと前までビールが最高にうまい季節だと 思っていたのに、今では夏など来てほしくない最悪の季節です。日中のバルコニーの温度は40度、体温よりも高くグッタリ。 一部に日除けをして大切な愛樹を守っているつもりでも、夕方たっぷりと灌水、それから2〜3時間おきに葉水を与え、 それこそ深夜になることもしばしばです。大丈夫か? 明日も暑くなりそうだ…。頑張ってくれよと一鉢々を見て回っています。 不思議なもので、調子のよい愛樹を観賞して飲むビールは格別にうまいが、棚の中に樹勢が衰えているものが数本あるだけで ビールの味も変わってしまう。今年のビールも苦い味にまたなりそうです。  話は変わりますが、最近、念願のパソコンを購入することができ、毎夜、四苦八苦しながら遊んでいます。 この栽培二人三脚の手紙を、キュータローさんがインターネットのホームページで紹介されているとのことで、 早速拝見させていただきました。自分の写真や手紙が画面でいきなり紹介されていまして、家族でビックリ、



誌面で見るのとはまた違った楽しさがあり、今はパソコンにはまっています。  さて今回は、花についての感想をを簡単ですが、述べようと思っています。キュータローさんの場合は、 幼少時代から花や草がお好きな上、お父さまの影響もあって、サツキ盆栽を始めたと聞いています。私の場合は、 サツキの花の魅力に惹かれて始めました。良かったことは、始めてまもなくにプロの業者と知り合えたことです。 おかげで遠まわりをしないで、サツキ盆栽に短期間で取り組めました。今にして思えば、非常に幸運でした。  ただ残念に思うことが一つあります。樹づくりばかりに熱中になり、本来持ち合わせている花についての知識が 浅いことです。1000を超える品種があるにもかかわらず、サツキ事典を見ても数10の品種しか知らないということです。 展示会や本誌を見ても晃山系や大盃、金采、華宝、栄冠などの限られた品種が主になっています。このような品種は 強健種のため人気が高く、花や樹づくりの面においても優れています。私個人としても大好きな花であり、 棚の半分以上をこれらの品種が占めています。20年、30年とサツキを続けてこられている先輩達は 「昔は山川の月・琳浪・博多白など、数多くの古花や旧花が展示会に出品されていたが、最近はほとんど見なくなった」 と、語ります。古花や旧花には、素晴らしい花芸を持っているサツキが確かに多数ありました。作りにくかったり 極めて弱い品種であれば数が減り、銘木と呼ばれる樹も少ないのは当然のことかも知れません。毎年多くの新品種が 登録されていることを考えれば、展示会で翠扇や煌陽などの超人気品種が見られるぐらいというのは、とても残念です。 品種がこれだけ多いサツキだけに、これから先は、少しでも多くのサツキを見学できればと思いつつ筆を置きます。  まだまだ、残暑厳しい折、お体に気をつけて下さい。













名古屋のやまちゃんへ。
 9月号のやまちゃんの記事によれば、即売会の「あんこ」をおやりになったとのこと、大変でしたね。 いままでのやまちゃんの記事から私が想像していたイメージとは全く違った一面を拝見致しました。 私は「あんこ」はしたことがありませんが、セリ市でサツキ盆栽をセリ落とした経験はあります。 もう何年も前のことですが、金沢百万石まつりの夜店に植木市が立ち、ある露天商の店主から紹介されて小松市で 行なわれたサツキのセリ市へ行きました。私が、さし芽苗を持っていると話したところ、その店主は 「トロ箱ごともってきまっし、売ってやるけん」(金沢弁)とのこと。つまりはその日、私のさし芽5年生約30本が、 盆栽1鉢に姿を変えたという次第です。当時はまだサツキの花の人気が高く、セリ市も大勢の人で混雑していました。 しかし、近頃ではサツキのセリ市の話など、とんと聞かなくなってしまいましたね。


さし芽から20年経過した貴公子。
まだまだ盆栽などと言えるものではありません。


 それは、良いとか悪いとかの問題ではなく、時代の流れなんでしょうね…。「花」一般にしてみても、 外国との時間距離が縮まったことにより、本来日本にはある筈のない華やかなトロピカルフラワーズが洪水のごとく押し寄せ、 私たちも、つい短い時間の中でお花を消費してしまう。そしてまた次なる切り花を購入する…。こう見てくると、 花の世界こそ、「大量生産、大量消費」がまかり通るバブルの真っ最中なのではないかと思えてきます。 だからといって、このバブルは決してはじけることはできないでしょう。たとえ一時にせよ綺麗なものに感動し、 心に潤いを得ているとしたら、これもまた結構と言わざるを得ません。


同20年経過した品種不明樹


 この先は、私の独断と偏見なんですが…。本来、花を愛でるという精神構造は、実生の花に代表されるように、 自然と共生する彼らの生長過程をも含めて醸し出されるものではないかと思っています。生長の帰結として花が咲き、 咲いた「花」に途中経過というプロセスを重ね合わせて眺める…。このことが、花を一層深く愛することに繋がるのでは ないでしょうか。購入した花も綺麗であることに変わりはありませんが、この両者の間には、花を愛でるというスタンスに 大きな隔たりがあるように思えてなりません。  日本古来の華道も、自然との共生から人間との共生にウエイトを移し、最近では、フラワーアレンジメントなどと言う 新しいジャンルが展開し始めています。いずれも素材として「花」を使い、花を飾ることによって「何か」を追求して いるのでしょうが、温室の中で育った大量生産の「花」を惜しげもなく乱用し、生長過程すら知ろうともせず、 自分が作った作品に「自然の○○○」などというネーミングを付けているとしたら、また何をか言わんや、ですね…。    暴言多謝。



11月号 (104、105ページに掲載)
名古屋から金沢への手紙 11
金沢から名古屋への手紙 11


金沢のキュータローさんへ
 今年は、例年になく猛暑が続きいかがお過ごしでしょうか。ここ名古屋は全国的にも熱さが厳しい上に湿度も高く、 人にも、サツキにも決して良い地域ではありません。住めば都といいますが、夏の名古屋だけはお勧めできませんね。
 うだるような真夏日が毎日続き、考えて見ればひと月ばかり雨も降っていません。交換会で仲間同士が集ると 「今年はサツキの調子がいま1つ良くない。栄冠、華宝…を数本枯らしてしまった」などと耳にします。聞いている私も 他人ごとではありません。最善を尽くしているつもりでも、数本が調子悪く頭を抱えています。
 話は少し変わりますが、ここ1月の間に3回ほど、即席の日帰りプランを立てて、隣県でもある長野県へ温泉を求めて 車を走らせています。売木村のこまどりの湯、下条村のかじかの湯、上高地と乗鞍の間に位置する白骨温泉など。 白骨温泉の日帰りにはさすが疲れました。他人から見ると、温泉に出かけても疲れるだけだ、と思われるかもしれません。 確かに名古屋から車を走らせると往復300km以上、1時間ほど湯に浸かって6時間運転、どう見ても疲れますよね。 ここで大事なことは考え方の問題です。湯に浸かりながら森林の香りを体いっぱいに浴び、澄みきった旨い空気を思いっきり吸う。 笑われるかも知れませんが、自然から大きなエネルギーを貰っているんだ、そんな思いに浸っています。
 ゴミ処理や産業廃棄物投棄などの問題を抱えている名古屋では、わずかに残っている自然に大きなプロジェクトとして 人間の手が入ろうとしています。善し悪しは別として、身近に感じる自然も少なく寂しい限りです。 これからは近隣の温泉巡りでも始めようかな、と考えています。



 さて今回は、この数年の交換会で手に入れたサツキを紹介します。共通点として半懸崖風で作り込めば、楽しく飾れそうな 自然樹形です。3年目になる好月は、差し枝の効いた中品サイズで仕上げようと思っています。



もうひと鉢は品種不明です。 葉性を見ると神鏡か明鏡だと思います。頭が弱く差し枝ばかりが間延びしているため、来年は徹底的に追いこんで小品1部、 もしくは2部のサイズに作りこむつもりです。今回は写真と将来の構想図としてイラストを書いてみました。多少のギャップはありますが、 将来は誌面でご紹介できるように頑張りたいと思います。


名古屋のやまちゃんへ。
 「涼しくなりましたね。」とご挨拶すべきでしょうが、この原稿を書いている「今」は、まだ8月。 立秋は過ぎたものの残暑の真っ最中です。さつき盆栽たちにとっても、この夏の暑さはこたえたのでは ないでしょうか。植木鉢の表面が手で触れないくらい熱くなっているのに、皐月たちの根は果たして 大丈夫なんでしょうか?こんな疑問を、皐月協会の耕納プロに投げかけてみました。プロ曰く、 「彼らはそんなにヤワじゃないね!」の一言。葉っぱや枝・幹だったら、とてもあの温度には 耐えられないのに、なぜ根っこは大丈夫なんでしょうか。これは私の1つの疑問です。
 以前、夏の間だけ養成棚に「よしず」を掛けてやったこともあったのですが、 冬越しのためには夏の太陽に十分当てておいたほうが安全、との記事をどこかで読んでから 「よしず」は止めました。そのかわり、水切れには十分注意しております。…と言いながら今年も 失敗がありました。ほんの3-4時間の問題なのでしょうが、樹芯に当たる部分の葉っぱが萎れて回復せず、 葉の先端が一部茶色に変色したものが2-3鉢出ました。今ではある程度回復してはいますが、 本来の姿に戻るには、最低1シーズンは待たねばなりません。
   一説に水遣り3年とか10年とか言われますが、言葉を話せない樹の気持ちが本当に解るようになるには、 何年という時間だけでなく、樹にたいする深い愛情が必要であることがこの頃やっと解ってきました。 …とは言うものの、相変わらず「夏場の水遣りは1日2回たっぷりと…、」を守る程度の実践しかできて いませんが…。
 さて夏場の暑いうち活動を停止していた虫たちが一斉に動き出しました。住宅密集地のど真中、 しかも隣の家とはブロック塀一枚という悪条件のもとで、匂いの強い殺虫剤や殺菌剤を撒くことは 大変に問題があります。食事の時間を避けることはもちろん、お留守の間を見はからうとか、 できるだけ迷惑にならないよう注意をしています。私の庭では、おそらく皆さんの5分の1くらいの 回数しか殺虫も殺菌もしていないと思います。したがいまして、グンバイ虫も、芯くい虫も相当活躍 していますが、自然の芽すかし、自然の剪定の助けを借りているとでも思って、最低限の回数を守っています。 その代わり水遣り最中に見つけた小さい「蛾」などは、徹底的に後を追っかけ、やっつけることにしています。 グンバイ虫の1つ1つまでとはいきませんが…(笑)


シンクイムシの食害跡


 今朝も、多くの鉢で芯くい虫の食害跡をみつけました。明日はどうしても殺虫剤を散布しなければなりません。 でも、そのタイミングが得られるかどうか今から心配しています。 やまちゃんの「お棚」は、マンションのベランダということで、温度管理、水管理には人一倍ご苦労 されたようですが、殺虫、殺菌の際、隣家への問題はどのようにしていらっしゃいますか。 なにか良い方法があったら教えてください。
それでは…。




12月号 (110、111ページに掲載)
名古屋から金沢への手紙 12
金沢から名古屋への手紙 12


金沢のキュータローさんへ

 近年、自然樹形が見直され、誌面でも自然をテーマとした題材や各地の展示会でも数多く見ることが出来ます。  自然・・・作為の伴わないさま、人間の力ではどうにもならない状態とあります。

 自然樹形の良さは作為の伴わない姿に人それぞれの思いをはせ楽しめる、そんなところが魅力のひとつでもあると思います。 もうひとつ、自然とは人間の力ではどうにもならない状態とも訳されます。
 今回、東海地方を襲った豪雨こそ自然の猛威、まさしく人間の力ではどうにもならない状態でした。東海地方の年間降雨量の 1/3が1日で降り、河川の増水、崖崩れ、交通・通信機関の不通、竜巻まで発生、避難勧告も出され、翌朝街の中心部は完全に マヒし、各地に大きな被害をもたらしました。
 この豪雨での体験を踏まえ詳細なことも書きたいのですが、今なお、被災されている方もおられるため、 これ以上書きつずることはやめようと思います。夏の猛暑を乗り切り、台風も少ない年になりそうだと思った矢先の豪雨、 火山の噴火、地震等、異常気象ともとれる気候、日本の情緒溢れる四季は何処へいったのか、この先とんでもないことが 待っていそうで怖くなりそうです。



私の自慢の大盃(右)、
今は亡き菅原先生とのスナップ



 さて、話題をサツキに戻しましょう。サツキづくりにおいて、自然樹形は確かにブームの先端でもあり人気もあります。 よく三角形に作られた八方根張りで完璧な枝順の優等生サツキは飽きがくるなどと聞きますが、私はそうは思いません。
 完璧な樹であればこそ、そこに見せる姿は比類なきものがあり、確かな技術の裏付けがないと出来ないことです。今は 亡き菅原先生は、その第一人者だと思います。サツキづくりに技術とセンスが必要だとすれば、三角形に作られた完成樹 は技術、創作、文人樹形はセンスが含む割合が多いような気がします。
 どちらにしても、サツキづくりには環境、技術、センス等すべて必要かもしれませんが、何より必要なものはサツキに かける愛情、情熱だと思います。どんな安物のサツキであっても丹精込めたものには個人の思いが注がれた宝物でも あるのです。
 サツキを始めて12年、今なお棚のサツキたちに心を癒されています。最後はサツキたちに感謝「ありがとうサツキ たちよ」。

 この1年間、見知らぬ2人が、ひとつの趣味を通じてお互いのサツキ栽培に」かける喜怒哀楽を文章でしたためあった、 サツキ2人3脚も早いもので、今回が最後となりました。  キュータローさんにはサツキ栽培に取り組む姿勢、愛情、会員同志の親睦、和等いろいろ教えていただき、サツキ盆栽を 以前より広い視野で見ることが出来そうです。  また、「さつき研究」編集部にはこのような企画を与えていただきましたこと、心より御礼申しあげます。 一年間、ありがとうございました。











この1年を顧みて。
 丁度1年前、この2人3脚の原稿依頼を頂戴した時、私はこの先12回の執筆を無事乗り切ることができるだろうかと、 不安を抱えたままお受けしたことを思い出します。それが、今書いている原稿はもう12回目、あっと言う間に最終回に なってしまいました。大変感慨深いものがあります。私の場合、夕食後のひとときを腹ごなし半分にパソコンに向って 思いつくまま書き込み、それを後日見直しながら添削するという、まさにルーズな方法を決め込みました。


 今、考えて見ますと、毎月〆切り日が近づいても、ほとんどプレッシャーを感じずに過ごせたのは、 テーマが自分の好きなさつき盆栽であったことに尽きますが、その他にもう1つ大きなサポートがありました。 それは名古屋のやまちゃん!、あなたの話題の多彩さ、研究熱心な態度、さつき盆栽に対する熱い思い入れなどが、 行間からひしひしとこちらに伝わって来て私の心を鼓舞してくれたことです。やまちゃんには心からお礼を申し上げ ねばなりません。まだ一度もお会いしていないのに、これほどまでに理解し会った気持ちになれるのは一体どうして なのか、今、私は不思議な気持ちに浸っています。
 それから編集部の皆さん、この企画に私をご指名いただき、誠にありがとうございました。私にとって、 またとない良い経験になりましたが、原稿内容はと言えば、どれもこれも初歩的なものや筋違いのものなど 全くお恥かしい次第です。御社の企画から外れたものも多々あったかと思いますが、どうぞお許しいただきたく存じます。 でも、これだけは申し上げることができます。知識も技術も全くの初心者ですが、理屈抜きで、 「やっぱ!サツキが好き!」ということ。


 ちょっとここで社会的な主張をお許しいただくならば、これからの「盆栽」には、ますます増加する老人たち (私もその1人)への「生きがい」の提供、また、壮年層、若年層へは、環境保全に対する「経験的意識改革」の 効果的手段の可能性など、単に「盆」の上だけでは済まされぬ重要な役割が期待されるのではないかと思っています。 青白い観念論より、鮮やかなグリーンの盆栽1鉢を育てることの方が、どれだけ環境保全の意識高揚に役立つことか。 みんなが実践できるよう、国民的運動にまで発展させたいものです。幸い日本の盆栽は、もはや世界のBONSAIとして 十分認知されています。日本の伝統である盆栽が、世界の人々の心を豊かにし、併せて環境保全への意識高揚にまで 役立つとしたら、願ってもないことではありませんか。
 これから先も私はずっと、サツキ(盆栽)にチャレンジして行こうと思っています。そして、自分も楽しみながら、 回りの人達にも「さし芽」を差し上げ、私と同じ楽しみを味わっていただくようお奨めして行きます。 そして、ひょっとしたら、これが私の老後にできる唯一のボランタリー・ライフワークになるのかも知れないと 最近思い始めています。
 最後に読者の皆さん、長い間拙文にお目を通していただき、誠にありがとうごさいました。今後の益々のご精進を お祈りいたしております。 では。

 石川県金沢市在住 江梨久太郎
 (通称:キュータロー、日本皐月協会金沢支部員)。

 さつき盆栽ホームページ
 http://www.nsknet.or.jp/~ja2br/index.html
 e-mail : ja2br@nsknet.or.jp







こうして、誌上サツキ文通「栽培二人三脚」は終了いたしました。
一年間お読みいただき、誠にありがとうございました。

誌上への掲載は終わりましたが、ホームページ上での公開は、
今しばらく続けたいと思います。

なお、誌上の「キュータロー」こと江梨久太郎とは、
さつき盆栽ホームページ主宰者のペンネームでした。


平成12年12月1日







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