Notscape: The CyberGumshoe


サイバーガムシュー


  

#7---- 何分茹でたらハードボイルド?



 
どうせこの連載コラムを集めても単行本にならないことは初めから承知していたので、先に書き下ろしでインターネット関係の本を書いてしまった。おれと同じようにコンピューター音痴のインターネット初心者のために書いたインターネット英語の本で、例としてミステリー関係の話題が大半を占めている。こういう常識外れのハウツー本は最初で、たぶん最後だろう。いずれ、刊行されてから詳しく宣伝しよう。
Hard Boiled というウェブ・サイトがあると知ったのは、その本を執筆しているときだった。どっかのサイトのリンクにあったからだろう。それで、早速そのサイトに行ってみた。サブタイトルは A reference page for all things noir(ノワールなものすべての参照ページ)という。  
ここのウェブマスター(管理者)はビル・マレイという29歳のコンピューター・コンサルタントで、サウス・フィラデルフィアに住んでいる。子供の頃はハンフリー・ボガートやジェイムズ・キャグニーの映画を観たり、ふとんのなかで懐中電灯の明かりでミステリを読んだりしながら育ったという。とにかく、「ハードボイルド派」のミステリが好きだから、このサイトを開設したらしい。「ハードボイルド」と「ノワール」を同一視しているところは賛同できないが、いずれの用語もちゃんと定義できる人間がいないので、大目に見よう。それに、「ハードボイルド」が二つの単語になったいることも少々気に入らないが(少なくとも、ハイフンを入れてほしかったね)、ついでに大目に見よう。  
Hard Boiled vs. Traditional のページでは、マレイの考えるハードボイルド小説論を唱えている。彼によると、ハードボイルド小説は探偵小説に限らず、ジェイムズ・M・ケインやジム・トンプスンの犯罪小説やエルモア・レナードのウェスタン小説にも当てはまるという。というわけで、ジェイムズ・M・ケインのページでは、まず略歴を書いている。おれはロイ・フープスのケイン伝も読まなかった不勉強者だが、ケインが1931年に《ニューヨーカー》誌の編集者を10か月務めたことは初めて知った。  
このサイトの目玉はエディー・ダガンの監修した The Maltese Falcon FAQ だろう。FAQ というのは frequently asked questions(よく尋ねられる質問)のことで、ここでは『マルタの鷹』のQ&Aが列挙されている。ダガンはイギリスのイプスウィッチのサフォーク・カレッジで文学を教えている。『マルタの鷹』の原作とジョン・ヒューストンの脚本の違いとか、ヒューストン版の映画を嫌った人間(ジョン・ウェイン)とかのこまごまとした情報が読める。
この Hard Boiled のサイトでは、どちらかというと、関連リンクが役に立った。まず、 Twist, Slugs and Roscoes: A Glossary of Hardboiled Slang はその名のとおり、ハードボイルド小説に使われるスラングを解読してくれる。 ダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラーの作品はもちろんのこと、ミッキー・スピレインの『復讐は俺の手に』とか、デイヴィッド・グーディスの『ピアニストを撃て』、そして、うれしいことにロバート・レズリー・ベレムの素晴しいほどにひどい(読めば矛盾していないことがわかる)ダン・ターナーものからのスラングが収集されている。ちなみに、twist はナオンちゃん、slug は銃弾、roscoe は飛び道具のこと。
 
Hard Boiled サイトの Pulp Fiction ページは Under Major Construction(大工事中)だが、これから、アンドリュー・バーグマン、ローレンス・ブロック、ポール・ケイン、エヴァン・ハンターなどのページも「建設」するらしい。そのなかの関連サイトに、 Classic Mystery Guide: Dashiell Hammett Pageというのがあったので、ためらわずに訪れた。  
ウェブマスターのマイクル・グロストはデトロイト付近のコンピューター会社に勤めるシュステム・エンジニアで、1953年生まれ。ミシガン大学から数学博士号を獲得している。いろいろなサブジャンルのミステリを読んでいるようだ。グロストはとくにハメットのコンティネンタル・オプものを好んでいて、ハメットをフリーマン・ウィルズ・クロフツと比較しているところが面白い。ハメットの傑作と見なされている『マルタの鷹』や『ガラスの鍵』を高く評価していないのは、好みのせいだろう。登場人物の考えや感情が直接に表現されていないので、薄っぺらく感じるというわけだ。うーん、あれが本当のハードボイルド文体だということがわかっていないのだろうか。賛成できないところも多いが、理科系だと思われるグロストがパルプ・フィクションも含めて、幅広いミステリを読んでいることには感心する。
 
さて、Hard Boiled サイトのリンクでの一番の収穫は W. R. Burnettのサイトである。今どき、W・R・バーネットの小説を読む人がいるのだろうかと思っていたが、クラーク・ハワード以外にもバーネットの熱烈なファンはいるのだ。  
ウィリアム・ライリー・バーネットは1899年オハイオ州で生まれて、28歳のときにシカゴへ行き作家になった。1929年には処女小説『リトル・シーザー』(エドワード・G・ロビンスンの主演映画『犯罪王リコ』の原作)や短篇「晴れ着」(小鷹信光編『アメリカン・ハードボイルド』双葉社収録、エレノア・サリヴァン編『世界ベスト・ミステリー50選』光文社文庫収録)を発表した。そのあとはハリウッドに移り、60本以上の映画脚本を書いた。残念ながら、バーネットの短篇は多いのに、作品集は刊行されていないという過小評価されている作家なのだ。 というふうに、このサイトはバーネットの作品を詳しく解説しているわけである。。  
さて、このサイトのウェブマスターは、キャスリン・ハーパー(通称、キャシー)といって、ボウリング・グリーン州立大学の大学院生である。とにかく、バーネットに興味がある若い(?)学生がいるということは、ハードボイルド小説研究の将来はまだまだ暗くないことを証明していると思いたい。その学生が女性なので、なおさら素晴しい。きっと男性とは違った新鮮な観点から研究してくれるだろうから。//

来月号に続く

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