Notscape: The CyberGumshoe


サイバーガムシュー


#23--ジェイムズ・ケインは固茹で作家だっけ?



   
ダシール・ハメットのメーリング・リストが開設されたので、さっそく参加してみた。購読したい人は、majordomo@cigarsmokers.com に電子メールを出してみよう。subject は空白にして、本文には subscribe hammett とだけ書くと、確認のメールがすぐに届く。もしくは、The Hammett-List WWW Page に行くと、購読用のページにリンクされているから、そこからでも購読できる。数がまとまってから送信してくるダイジェスト版もあるが、一週間に一度ぐらいしか送ってこないので、個々のメールが届くレギュラー版をおすすめする。  
このハメット・リストのページにはハメット関係のウェブ・サイトが並べられている。メンバーの中にはディック・ロクティや、The Maltese Falcon FAQ の管理者エド・ダガンもいる。それで、『マルタの鷹』に登場したレストラン、〈ジョンズ・グリル〉が文学史建造物に指定されたとか、ハメットがリリアン・ヘルマンの戯曲のいくらかを代作していたかもしれないとか、ヘルマンがハメットの未完の遺作 Tulip に手を加えていたかもしれないとかいう投稿が読めるわけだ。  
Hard-boiled Maryland では、メリーランド州にゆかりのある「ハードボイルド」作家を紹介している。その作家とは、ダシール・ハメット、ジェイムズ・M・ケイン、ウィリアム・リンゼイ・グレシャム、そして、ジョージ・P・ペレケーノスの四人である。ドメイン・ネームから判断できるかもしれないが、メリーランド大学カレッジ・パーク分校の図書館で97年の秋に展示していた資料をインターネット上で公開したものであり、初版のジャケット写真も鮮やかに見られる。  
ハメットは1894年にメリーランド州セント・メリーズ郡で生まれた。1915年にはピンカートン探偵社ボルティモア支社で働く。そのあとは皆さんもよくご存じだろうから省く。展示責任者ジェイムズ・スティーヴンスンによると、名作『ガラスの鍵』(ハヤカワ文庫)の舞台になっている町のモデルは、ボルティモアだという。  
ジェイムズ・M・ケインは1892年にメリーランド州ボルティモアで生まれ、同州チェスタータウンに育ち、父親が学長をしていたワシントン・カレッジを卒業する。《ボルティモア・アメリカン》と《ボルティモア・サン》で新聞記者をしたあとに、ニューヨークに移る。ハリウッドで作家としていちおう有名になってから、1948年にメリーランドに戻って、ハイアッツヴィルに住む。というわけで、ケインはメリーランドにかなりゆかりが深く、ケインの献辞付きのハードカヴァー初版が展示されている。ケインがジョージ・H・ウィリアムズに贈った『郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす』(ハヤカワ文庫)の献辞によると、このプロットはニューヨークで実際に起きた「(判読不明)=グレイ事件」を基にしたものらしい。  
ケインはエイヴォンからペイパーバック・オリジナルを発表しているが、金が必要だったという理由のほかにペイパーバックは新聞や雑誌のように広く売れると思ったからだという。誇れることではないが、「作家に本当の打撃を与えるのは、発表しない本だ」ということで、ケインは納得していたらしい。48年刊の Jealouos Woman は、もともと36年刊の『倍額保険』(新潮文庫)の続篇として、保険調査員キーズ(映画版『深夜の告白』ではエドワードG・ロビンソン)を主人公にしたのだが、雑誌連載権も映画化も売れず、書き直したという。  
ウィリアム・リンゼイ・グレシャムは1909年にボルティモアで生まれ、子供時代に家族と一緒にニューヨークに移った。グレシャムはノンフィクション作家だが、ノワール小説 Nightmare Alley を1946年に発表した。これは Crime Novels, Volume 1: American Noir of the 1930's and 40's (Library of America, 1997) にも収録されている。この作品より、彼の私生活のほうが本誌の読者に興味があるかもしれない。グレシャムはアルコール依存者で、妻虐待者だった。妻の名前はジョイ・デイヴィッドマン・グレシャムだったと聞けば、誰のことかわかるかな? 1993年に『永遠の愛に生きて』という映画が公開されたのを覚えているかな? アンソニー・ホプキンズが扮する童話作家C・S・ルイスのところにアメリカ人女性がやってくるよね。デブラ・ウィンガーが演じたその詩人がジョイ・グレシャムなのである。  
最後のジョージ・P・ペレケーノスは1957年にワシントンDCで生まれ、メリーランド大学カレッジ・パークを卒業し、現在はメリーランドシルヴァー・スプリングに住んでいる。ペレケーノスの『硝煙に消える』(ハヤカワ文庫)は私立探偵ニック・ステファノスもの1作目に当たる。そのあと、このシリーズは95年刊の3作目 Down by the River Where the Dead Men Go まで続いているらしい。いちおう、当大学の卒業生だということで、とくにベタ誉めしているような印象を受けるね。
 
最近は『LAコンフィデンシャル』(文藝春秋)の映画版が大成功を収め、イギリスやフランスでもジェイムズ・エルロイは人気を博している。Ellroy Confidential はフランスのウェブ・サイトであり、フランス語が多いが、英語でも作品や映画の説明をしている。『ホワイト・ジャズ』や『ハリウッド・ノクターン』(いずれも文藝春秋)はアメリカよりもフランスのほうが刊行が早かった。『ホワイト・ジャズ』はLA四部作の四作目だが、前三作の版元ミステリアス・プレスと問題を起こし、別の版元クノッフから出版された。『ハリウッド・ノクターン』のほうはイギリス版のほうが早かったような気がするが、アメリカの版元はここに書いてあるランダム・ハウスではなく、ペンズラー・ブックスだから、お間違えのないように。  
ちなみに、映画版『LAコンフィデンシャル』のウェブ・サイト を訪れると、映画で取り扱われる事件がタブロイド新聞風に多くの写真付きでけばけばしく紹介されているので、いちおう参考にしていただこう。 //


来月号に続く

日本語版ホームページに戻る

国際版ホームページに戻る