Notscape: The CyberGumshoe


サイバーガムシュー


#39--アーチャー物語はロス・マクドナルドの人生である



   
1999年4月からちょうど50年前の1949年4月、ロス・マクドナルドのリュウ・アーチャーものの第1作『動く標的』(創元推理文庫)が刊行された(実際はジョン・マクドナルド名義)。それで、文芸サイトの January Magazine がロス・マクドナルド特集 Ross Macdonald Tribute を組み、3回に分けて1週間ごとに新しいコラムを加えている。  
ちょうど、トム・ノーランによる初めての本格的な伝記 Ross Macdonald: A Biography (Scribner, 1999) が3月に刊行されていて、1回目では、このサイトの犯罪小説担当編集者J・キングストン・ピアースがノーラン(《ウォール・ストリート・ジャーナル紙》のミステリ書評子)にインタヴューをしている。おれもこの400頁に及ぶ長い伝記を読んだが、今まで公にされなかったロス・マクドナルドとその妻マーガレット・ミラーの珍しいエピソードがふんだんに紹介されていて、非常に興味深かった。たとえば、マクドナルドがもう少しで児童施設に収容されそうになったとか、若いときに同性愛の傾向があったとか、マーガレットの処女作品 The Invisible Worm のプロットを提供したとか、一人娘のリンダが交通事故で一人の少年を轢き殺したとか、リンダの失踪事件が新聞を賑わしたとか、リンダが自殺に近い薬物多量摂取で死んだとか、マーガレットとの夫婦仲はそれほど円満ではなかったとか……などなど、ねっ、興味深いだろ? それに、マクドナルドがMWAからグランド・マスター功労賞を受賞したのはエドワード・D・ホックの推薦のおかげだとか、ロジャー・L・サイモンがハリウッド映画界の事情をマクドナルドに教えたとか、現在活躍中の作家の名前が続々と言及される。  
さて、ノーランとのインタヴュー記事によれば、マクドナルドがなんとか完成させた自伝的小説 Winter Solstice は何稿か残っているらしいが、結局は刊行されず、ストーリーのほとんどをアーチャーものの『ギャルトン事件』(ハヤカワ・ミステリ文庫)に転用したらしい。そして、完成できなかった19作目は1章ぐらい書かれていて、アーチャーが幼年時代を過ごしたカナダのウィニペグに行く。つまり、ロング・ビーチで育ったアーチャーはカナダ生まれだということが推測できるというわけだ。  
2回目では、ハードボイルド専門のウェブサイト The Thrilling Detective Web Site のカナダ人管理者ケヴィン・スミスがマクドナルド伝を要約してくれている。とくに、ロック・シンガーのウォレン・ジヴォンにアルコール依存症の治療を受けるように、マクドナルドが説得したエピソードが紹介されている。  
3回目には、フレッド・ザッケルが1975年にサンタ・バーバラの作家大会でマクドナルドに会ったときの面白いエピソードを紹介している。ザッケルはホテルのバーでマクドナルドに会い、飛行機出発時間まで、家に来ないかとマクドナルドにすすめられたという。自宅まで乱暴に車を運転したのはマーガレット・ミラーで、後部席でザッケルと一緒に恐怖を味わっていたのはあのユードラ・ウェルティーだったという。それで、ザッケルはミステリを書くように忠告を受けたのだ。ザッケルが78年に発表した私立探偵小説 Cocaine and Blue Eyes はO・J・シンプソン製作・主演でTV映画化されている。  
そのほか、毎週有名な作家(マイクル・コナリー、スー・グラフトン、ローレンス・ブロック、ローラ・リップマン、S・J・ローザン、スチュアート・カミンスキー、ローレン・D・エスルマン、ジャネット・ドーソン、ジェレマイア・ヒーリイ、ジョン・ラッツなど)がマクドナルドに受けた影響についてコメントを寄せている。
 
ウェブ上で唯一の悪党パーカーもののサイトを開設した、とトレント・レイノルズという男が電子メールで知らせてきた。トレントはリチャード・スタークの『悪党パーカー/人狩り』(ハヤカワ・ミステリ文庫)の映画タイアップ版 Payback(実際に原作本のほうも改題されているのだ)を読んで、ほかのパーカーものも映画化されていることを知り、The Violent World of Parker を開設したという。つまり、メル・ギブソンの映画からパーカー小説にハマったわけだ。だから、まだ完成されているとは言えない。トレントはリー・マーヴィン主演の『ポイント・ブランク』をヴィデオで観た世代で、むしろギブソン主演の『ペイバック』のほうを気に入っている。それでも、新しい情報を教えてくれる。  
92年公開の Full Contact はリンゴ・ラム監督、チョウ・ユンファ主演の香港映画だが、『人狩り』の非公認の映画化だという。もう1作の香港映画 The Devil and the Angel も非公認の映画化だというが、おれは香港映画に疎いので、日本公開名も知らない。  
トレントによると、『殺人遊園地』(ハヤカワ・ミステリ)の映画版『スレイグラウンド』のヴィデオが売り切れたそうだ。しかし、CD Universe で入手できるというので、おれは早速注文してみたが、どうも手遅れだったようだ。駄作らしいのに、わざわざ入手する気になったのは、ピーター・コヨーテ扮する悪党の名前がその映画では“ストーン”となっていることを確認するためだ。Internet Movie Database では、コヨーテの役名は“パーカー”になっているが、トレントはヴィデオの現物を持っているので、彼のほうが正しそうだ。それに、トレントは『ペイバック』のディレクターズ・カット海賊版を入手していて、製作者でもあるギブソンが劇場公開版をアクション・コメディーにしたと少し非難している。
 
この号が本屋の店頭に並ぶ頃には、エドガー賞の受賞者がすでに決まっているだろうが、Edgar Awards at MysteryNet には、エドガー賞の選考方法やグランド・マスター受賞者P・D・ジェイムズの略歴、候補作リスト、これまでの受賞者リストなどが載っている。とくに、候補者の略歴が役に立つ。どうも最近の候補者の名前はほとんど初耳だからね。でも、短篇部門候補者クラーク・ハワードの略歴がわからないとは、どういうことなんだよ?  //


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