Notscape: The CyberGumshoe


サイバーガムシュー


#43--ロバート・マッギニスって誰か知ってる?



   
どちらかというと、50年代のロマン・ノワールの内容よりも、その頃のペイパーバックのカヴァー・アートのほうに興味があるので、マーク・モンラックスというイラストレイターが管理している Lurid Paperback Cover of the Week を訪問してみた。  
モンラックスは30年代、40年代、50年代のルーリッドな(毒々しい、派手派手しい)表紙のあるペイパーバックを集めているのだ。毎月テーマを決めて(例えば8月は「赤毛」)、毎週1点ずつその毒々しさの特徴を指摘している。もちろん、モンラックスはルーリッドとポルノ、ゴシック、ロマンス、スリーズ(低俗)との違いを説明している。一口で言うと、50年代のペイパーバック・ミステリは買ってもらうために、表紙に裸に近い美女が多く描かれていた。持っていても母親や家族から隠すべきなのがポルノであり、隠さなくてもいいのがルーリッドなのだ。  
その頃のペイパーバックを持っている人なら理解してもらえると思うのだが、文章で毒々しさを説明するのは困難である。正直言って、ここのリンク・ページにロバート・マッギニスの名前を見たのが、一番の収穫だった。マッギニスはおれの一番のお気に入りのカヴァー・アーティストなのだ。カーター・ブラウンのシグネット版のカヴァーの美女を描いたのが、マッギニスなのである。アメリカでは、ブラウンの小説の中身よりも、マッギニスの描いた美女を目当てにペイパーバックを買った若い男が多かった。ブラウンを知らない人や嫌いな人には理解してもらえないと思うが、『007シリーズ』や『バーバレラ』、『ティファニーで朝食を』の映画ポスターを描いたイラストレイターだと言えば、わかってもらえるだろうか。  
Robert E. McGinnis Gallery はマッギニスの息子カイルが管理している個人サイトである。どちらかというと、「セクシーな」パイパーバック・イラストレイションよりも、「まじめな」風景画などのほうを強調している。1993年にはイラストレイター協会の殿堂にはいって、ロックウェルとか、ホーマー、センダック、エルテ、ハーシュフェルドなどの有名イラストレイターと肩を並べるほどの名声を得た。一番驚いたのは、26年生まれのマッギニスがまだ現役だということだ。  
雑誌小説の挿し絵、風景画、カヴァー・アート、美人画、映画ポスターなどのサンプルが数多く見られる。彼のヌード画は猥褻ではなく上品なので、女性の方にもぜひ見てほしい。経歴ページによると、オハイオ州シンシナティ生まれのマッギニスは、子供のときに好きな漫画の主人公ポパイの絵を描いていて、小学校のときには近くのシンシナティ美術館の児童絵画教室に通った。高校卒業後、カリフォーニアのディズニー・スタジオで漫画を描き、第二次大戦中はオハイオ州立大学で美術を勉強した。大学時代にはフットボール部でレフト・ガードを務めた(44年度全国大学同点第1位)。  
大学卒業後、地元でコマーシャル・アートの仕事をしていたが、尊敬するイラストレイターのコービー・ホイットモアにあこがれて、ニューヨークに出た。ここで、友人にデル・ブックスのアート・ディレクターに紹介されてから、1200点以上のペイパーバック・カヴァーを描くことになる。そのほか、《レイディーズ・ホーム・ジャーナル》や《グッド・ハウスキーピング》、《サタデイ・イーヴニング・ポスト》などの雑誌小説の挿し絵も手がけることになったのである。  
Robert McGinnis というファン・サイトがあるというので、そこも訪問した。管理者はグレアム・フラナガンというオーストラリア人で、昔からファンダムで活躍しているハードボイルド・ファンだ。へええ、フラナガンもマッギニスのファンなのか。トップ・ページには、マッギニスが描いたフランク・ケインの非ジョニー・リデルもののカヴァー・アートを載せている。  
このサイトには、マッギニスの描いた150点ほどのカヴァー・アートをスキャンして載せている。カーター・ブラウンやブレット・ハリデイ、ジョン・D・マクドナルドのペイパーバックのカヴァーは有名だが、このリストを見ると、おれが持っている本も数点あるぞ。スタンリイ・エリンの『第八の地獄』とか、エド・マクベインの『通り魔』、リチャード・スタークの『悪党パーカー/漆黒のダイヤ』などなど。  
ジョージ・ケリーもマッギニスのファンである。ケリーも昔からファンダムで活躍しているミステリ研究家であり、今ではイアリー短期大学の経営学教授である。ケリーは少年のときにコミックスを収集していたが、夏のキャンプで家を留守にしているあいだ、母親が彼のコミックスを捨ててしまった。自分の部屋がきれいで、空っぽになってしまったので、彼はかわりにペイパーバックを集め始めた。血気盛んなティーンエイジャーだったので、とくにセクシーなカヴァーのカーター・ブラウンやブレット・ハリデイのペイパーバックに興味を持った。つまり、そのイラストレイターであるマッギニスの描いたカヴァーを捜し始めたのである。そして、ニューヨーク州立大学バッファロー校から経営学や英文学、図書館学の修士号を獲得したあと、96年には同校から英文学博士号を獲得した。  
そのあいだも、ペイパーバック収集を続けていたため、25000冊以上もたまってしまった。そして、ペイパーバックやファンジン、パルプ・マガジンのせいで洗濯ができなくなった奥さんがついに言った。本を始末しないと、服を洗濯しないわよ、と。それで、ケリーはコレクションを州立大学バッファロー校の図書館に寄贈したのだ。彼は一つ一つビニール袋に入れて保存していたので、状態は良好だったという。  
The George Kelley Paperback and Pulp Fiction Collection では彼のコレクションの内容をのぞけるのだ。冒険、探偵、エロティック、ファンタスティック、ホラー、リーガル、SF、戦争、西部に分類されているが、大学図書館がこういう「大衆文学」を学問として整理してくれるというのは、大量の本や雑誌に部屋を占領されている人間たちにとって、うらやましい限りである。 //


来月号に続く

日本語版ホームページに戻る

国際版ホームページに戻る