Notscape: The CyberGumshoe


サイバーガムシュー


#52 -- 男たちも女たちもタフな女を書き始める



 最大手のサーチ・エンジン Yahoo! のMystery には、ほかのリンク・ページでは見つからない作家のウェブサイトが登録されているので、ときどき訪問することにしている。トマス・アドコックとか、ジェフリー・ディーヴァーの公式サイトを見つけたのもここだった。

 Gregory Mcdonald's Official Web Site もここで見つけたのだが、99年にはもう開設されていたようだ。管理者はマクドナルド自身ではなく、トマス・J・ブレイディー。マクドナルドと言っても若い読者には馴染みが薄いかもしれない。74年刊の『フレッチ/殺人方程式』と76年刊の『死体のいる迷路』(いずれも角川書店)でエドガー賞を受賞した作家だ(同じシリーズでエドガー受賞は初めて)。『フレッチ/殺人方程式』はチェヴィー・チェイス主演で映画化されたし、ノンミステリーの『ブレイブ』(新潮文庫)はジョニー・デップ監督・主演で映画化されたので、若い読者でも名前ぐらいは覚えているかもしれない。

 マクドナルドはハーヴァード大学卒業生で、大学時代はヨット修理で学費を稼いでいたという。そのあと〈ボストン・グローブ〉日曜版のコラムニストとして7年間働いた。80年代には、ボストンからテネシー修に移り、牧場経営を始めたと聞いて驚いたものだ。

 今のところは26冊の本を発表しているが、そのうち15冊がミステリーと呼べるものだ。フレッチものは86年刊の9作目 Fletch, Too(翻訳あり?)のあと発表していないが、93年からフレッチの息子ものを2作執筆している。そのあと、スカイラーものを2作上梓した。さて、ここで注目すべきなのは、フレッチものからスピンオフ(枝分かれ)したフリン警視もの(『空中爆破』角川文庫)の第4作 Flynn's World が99年に(なんと第3作の『会員制殺人クラブ』より13年ぶりに)「発表」されたが、買おうと思ってもパームトップ・コンピューターでしかダウンロードできないのだ。

 マクドナルドがペンズラー・ブックスから刊行した『公爵ロビーの大逃走』(サンケイ文庫)はノンミステリーと見なされ、10ドルのアドヴァンスでやっと出版された作品だという。99年には Wise Saws という作品が「発表」されたが、これもパームトップ・コンピューターでしかダウンロードできない。マクドナルドが編纂したアメリカ探偵作家クラブのアンソロジー『愉快な結末』(ハヤカワ・ミステリ文庫)収録の「映画ベストナイン」や《エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン》に発表された短編などが収録されているという。97年公開の映画『ブレイブ』に関しては、マクドナルドは脚本も見ていないし、アメリカでは公開されていないので、映画も観ていないらしい。

 それで、パームトップ・コンピューターを持っている人は、デジタル版の出版社 Fairhill Booksを訪問してから、絶版になった作品も購入したほしい。でも、おれはやはり活字になったフリンものの新作が読みたいのだよ。

          *

 忘れないうちに書いておこう。出版界の業界誌である《パブリッシャーズ・ウィークリー》にときどきミステリの記事が載る。4月24日号には Revisiting the Scene of the Crime という記事は、90年代のミステリ・シーンを回顧していると同時に、現状を指摘しているので、ミステリ担当編集者は必読である。[ ]内はおれの補足コメント。

 90年代には、多くのミステリがベストセラー・リストに載り始めた。ミステリ専門書店がアメリカじゅうにできた。そして、チェーン・ストアがミステリの棚を広げた。つまり、ミステリがよく売れているということだ。[しかし、バーンズ&ノーブルやボーダーズなどのチェーン・ストアが多くの小さい書店を閉鎖に追い込んだことも事実である。]

 それに、大手出版社同士が合併し、刊行点数が減った。[例えば、ランダム/バランタインがバンタム・デル・ダブルデイと合併。ハーパーコリンズがモロウ/エイヴォンを吸収。ペンギン/ヴァイキング/ダットン/シグネットがパトナム/バークリーと合併。]そのかわり、中小出版社が急増して、大手が契約を打ち切った作家の作品を刊行するようになった。

 ジョイス・キャロル・オーツやE・L・ドクトロウがミステリを書き、ジェイムズ・クラムリーやルース・レンデルが文芸作品を書き始め、両者境界線があやふやになり、一般読者もミステリを読むようになった。  このコラムの少ない読者もご存じのように、90年代のもっとも大きい現象はインターネットの登場だろう。出版社や専門書店がウェブサイトで宣伝したり、作家の紹介をしたり、ニューズレターを発行したりするのは当然のことになった。それに、大物作家も新人作家も自分でウェブサイトを開設し始めた。宣伝効果のためだけではなく、読者の反応をじかに聞くためでもある。

 90年代のトレンドは、女性作家の優位の継続で、サラ・パレツキーやスー・グラフトンのほか、エリザベス・ジョージやネヴァダ・バーなどもベストセラー・リストに登場し始めた。もうひとつのトレンドは歴史ミステリの台頭である。エリス・ピーターズの修道士カドフェルものが人気を博したあと、アン・ペリーやケイレブ・カーの作品が注目を浴びた。

 これからは、シリーズものばかり書かなくてもよくなる。例えば、エルヴィス・コールものの作者ロバート・クレイスは女性爆弾処理専門家を主人公にした新作を発表して、映画化権を売り、自分で脚色した。[このほか、ハリー・ボッシュものの作者マイクル・コナリーのノンシリーズのほうが映画化されそうだ。それに、コナリーやロバート・B・パーカーなどの男性作家が強い女性を主人公にした作品を書いた。ウォルター・ソレルズのように、ルース・バーミンハムという女性的筆名で発表する場合もあるが、これはソレルズという名前がチェーン・ストアのコンピューターに「売れない名前」としてプログラムされているからなのだ。そして、女性作家のほうは、『イージー・マネー』のジェニー・サイラーのように、悪女を主人公にして、“タフな”犯罪小説を書き始めた。] //


来月号に続く

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