Notscape: The CyberGumshoe


サイバーガムシュー


#53-- 少し古いワインを新しい皮袋に入れたら



 先々回ではエドワード・ゴーリーの死亡記事に終始して、あるミステリ作家が3月に亡くなったことを書かなかった。タルメッジ・パウエルが3月9日に79歳で亡くなったのだ。〈ザ・シャドウ〉や〈ランチ・ロマンシス〉、〈ブラック・マスク〉などのパルプ・マガジンとか、〈エラリイ・クイーン〉や〈アルフレッド・ヒッチコック〉、〈マンハント〉などのダイジェスト雑誌とか、『恐怖のハロウィーン』(徳間文庫)や『バレンタイン14の恐怖』(新潮文庫)などのアンソロジーにも寄稿していたので、昔からの読者はご存じだろう。

 ハードボイルドのメーリング・リスト Rara-Avis でパウエルがノース・カロライナ州で亡くなったという投稿があったが、〈ニューヨーク・タイムズ〉には死亡記事がなかったので、ノース・カロライナの新聞をインターネットで捜してみた。それで、11日付の〈ヘンダースンヴィル・タイムズ=ニューズ〉で死亡記事をやっと見つけた。それで、彼の本名がオーヴァル・タルメッジ・パウエルだということがわかった。
 パウエルのウェブ・ページ Talmage Powell, Author を訪問してみると、彼が死亡したことが明記してあった。パウエルの作品リストがあり、89年刊には Written for Hitchcock という短編集を出したし、マンフレッド・リーと一緒に“エラリイ・クイーン”名義で4作のペイパーバックを発表したのだ。

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     January Magazine のニューズレターThe Rap Sheet によると、ケヴィン・バートン・スミスがロジャー・L・サイモンの『誓いの渚』(講談社文庫)を書評しているというので、早速その書評 Wine and His Times を読んでみた。97年にハーパーコリンズから刊行されたモウゼズ・ワインもの7作目が今頃紹介されたのには理由がある。

 初めてのソフトカヴァー版がアイブックスから2000年に刊行されたのだが、サイモンが「まえがき」で裏話を書いている。じつは、この Introduction はおれの管理している『ガムシュー・サイト』でも読めるのである。去年の11月にサイモン自身が掲載したらどうだいと提案したので、同じくアイブックスから再刊される『大いなる賭け』(ハヤカワ・ミステリ)の「あとがき」Afterword と一緒に掲載することにした。

『誓いの渚』の「まえがき」によると、ハーパーコリンズは本をほとんど無視して、宣伝をしなかったらしい(うん、ゲラには最後の15ページが欠落していて、結末がわからなかったからねえ)。しかも、サイモンは次作の契約が破棄されたことを、〈ニューヨーク・タイムズ〉の第一面で知るのだ。

 サイモンがしょっちゅうワインものを書かないのは契約のせいだけではない。何か言いたいことがなければ書かないというのだ。『誓いの渚』の場合は、環境保護団体のリーダーだったジュディー・バリがFBIの「爆弾学校」教官が仕掛けた爆弾のせいで下半身不髄になった事件だろう。じつは、この事件を日本のメディアも〈ニューヨーク・タイムズ〉も報道していない。おれがこの関連性に気づいたのも偶然だった。97年3月に〈USAトゥデイ〉の死亡欄を見て、〈アース・ファースト!〉の活動家で、90年の爆発事故で怪我を負ったジュディー・バリが乳癌で亡くなったことを知り、早速インターネットで検索して、「爆殺未遂事件」のことを初めて知ったのだ。

 それに、『大いなる賭け』の「あとがき」によると、サイモンが映画版の『探偵モーゼス』をユニヴァーサル撮影所で編集しているときに、ハワード・エピスのモデルである逃亡中のアビー・ホフマンがやってきて、エピスの人物設定について苦情を述べたという。そのとき、ホフマンは自著『この本を盗め!』を映画会社に売り込みに来ていたのだ。

 このアイブックスはバイロン・プライスが編纂した『フィリップ・マーロウの事件』(早川書房)のソフトカヴァー版を99年に刊行したが、これには、ロジャー・サイモンとJ・マディスン・デイヴィスによる新作2篇が88年刊のオリジナル版に加えられていて、Raymond Chandler's Philip Marlowe で2篇の新しいマーロウ物語が読めるぞ。

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 アンソニー・ブルーノには、3年ほど前にニューヨークのエドガー受賞ディナー会場で会ったことがある。『悪どいやつら』(文春文庫)を翻訳したことを話したら、なかなかいい翻訳だったと言ってくれた。どうしてそんなことがわかるんですかと尋ねると、合気道の先生が読んだからだと答えた。

 Anthony Bruno, Crime Writer のウェブサイトをどこで見つけたのかは覚えていない。とにかく、略歴が遅まきながら役に立つ。ブルーノはニュージャージー州オレンジで生まれ、育った。ボストン大学でドナルド・バーセルムの大学院創作クラスに出席し、ボストン・カレッジから中世学の修士号を取得した。修士学を取得したあと、ニュージャージー州ホーボーケンに移り、マンハッタンの出版社に勤めた。そのとき、知り合いの文芸代理人の紹介で、ヤング・アダルト用のロマンス小説をエイドリエンヌ・マルソーとか、ジャネット・ノビリー、アマンダ・ブラウンフィールドというペンネームで書き、そのあと、ヤング・アダルト用のホラー、成人用ロマンス、アクション小説も執筆する。それで、88年刊の『悪どいやつら』が本名で発表した最初の犯罪小説なのである。

 FBI特別捜査官マイク・トッツィ&カスバート・ギボンズものを6作(ほかに扶桑社文庫ミステリー刊『バッド・ラック』など)書いたあと、95年にブラット・ピット主演の『セブン』の脚本をノヴェライズ(二見文庫)する。最近は仮釈放違反者捜索班のロレッタ・コヴァックス&フランク・マーヴェリものを書いている。この二人は公的な逃亡者追跡人であり、3作目の Hot Fudge が2000年8月に刊行される。それに、現実の賞金稼ぎジョシュア・アームストロングについて書いたノンフィクション The Seekers も8月に刊行される。 

 ちなみに、ブルーノは合気道3段である。でも、怖そうじゃなかったけどね。 //


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