Notscape: The CyberGumshoe


サイバーガムシュー


#58 -- 買うならクライダー、読むならクライダー



 ビル・クライダーという名前は、彼が70年代に《ジ・アームチェア・ディテクティヴ》や《ポイズンド・ペン》、《ミステリ・ファンシアー》という今は廃刊になってしまった懐かしいファンジンに記事を寄稿している頃から知っている。彼は熱烈なミステリ・ファンであって、50年代の古き良きペイパーバックの収集家でもある。

 彼が大学教授だと知ったのは、彼が小説を書き始めてからのことだから、80年代前半だろうか。ビル・クライダーのウェブページは、以前にどこかのホラー関係のウェブサイトの一部として存在していたが、1ページだけの代物だった。それを補うかのように、彼はときどき宣伝用のニューズレターを電子メールで送ってきて、近況を知らせてくれていた。

 そういうわけで、クライダーが The Official Bill Crider Website を立ちあげても別段驚かなかった。クライダーの自己紹介文を読んでみよう。彼はテキサス州のメクシア(地元ではマーヘイアと発音)で生まれ育った。「私立探偵の英雄」という博士論文を書いて、テキサス大学オースティン校から博士号を取得。今はテキサス州のアルヴィン短期大学で文学芸術学部長を務めている。彼が3匹の猫を飼っていることは知っているし、レタージン Mystery & Detective Monthly にも寄稿していることは知っているが、購読者限定のミステリ・ファンジン DAPA-Em にも寄稿しているとは知らなかった。

 最新ニューズレターには、ダン・ローズ保安官もの(『死ぬには遅すぎる』ハヤカワ・ミステリ)の新作 A Romantic Way to Die の生原稿を提出したとか、女性大学教授サリー・グッドものの第2作 A Knife in the Back を書く契約を交わしたと書いてある。本を買ってくれと、冗談半分に(いや、本心かもしれないぞ)しつこいほどの売り込みに努力しているのだ。

 それに、さすがミステリ・ファンである。自分の作品リストをちゃんと作成してくれている。クライダーはローズ保安官もの、大学教授カール・バーンズもの(扶桑社ミステリー刊『サンタクロースにご用心』の表題作)、私立探偵トルーマン・スミスもの、気象予報官スタンリー・ウォーターズもの、女性教授サリー・グッドもののほか、単発もの(『鮮血の刻印』新潮文庫)、ウェスタン小説、ホラー小説(ジャック・マクレイン名義)、児童ミステリも発表している。とくに、短篇小説のリストも作成してくれているのがありがたい。クライダーの初めて売れた短篇は、ジョー・R・ランズデール(『バッド・チリ』角川文庫)との共作 A Right to Be Dead で、カナダの《ブラック・キャット》に掲載された。この雑誌は20年前におれが本誌で紹介したので、現物がどこかにあるはずなんだが、見つからない。そのほか、おれの知らないホラー・アンソロジーにも数多く寄稿しているなあ。

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 おれは『Dr.刑事クインシー』というTV番組が好きだった。クインシーのウェブサイト The Quincy Examiner のサブタイトルは、On-line Home to Fans of Quincy M.E. という。「Dr.刑事」という邦題も変であるが、検屍医が犯罪捜査するというのも現実離れしている。と思ったら、この番組の約14年後にパトリシア・コーンウェルの創造したケイ・スカーペッタ(『検屍官』講談社文庫)もクインシーと同じように、検屍解剖のあと、犯罪捜査にも積極的に参加しているではないか。

 このファン・サイトはクインシー・ファンのマイク・バティラが番組放映20周年を記念して、96年に立ちあげたらしい(FAQによると、この番組は76年10月3日に始まり、83年9月に打ち切られた)。バティラは現在ケーブルTVのA&Eで再放送されているエピソードを観ているようだ。このバティラがジャック・クラグマン扮するクインシーと、TV版『おかしな二人』のオスカー(映画ではウォルター・マッソー、TVではクラグマン)を比べているところがなかなか興味深い。

 この番組では、スカーペッタよりずっと前に法医学の要素をミステリに取り入れたところが画期的だった。それに、プロットがなかなかよかった。自動車事故に見せかけて、じつは他殺だったとか、幼児虐待の容疑で逮捕された母親の無実を晴らすとか、現代にも通じる社会性に富んでいた。

 このサイトに興味を持ったのは、エルヴィス・コールものでお馴染みのロバート・クレイス(『サンセット大通りの疑惑』扶桑社ミステリー)がこの番組の脚本を書いたことがあるからでもある。エピソード・ガイドは未完成だが、FAQのページにクレイスの名前が脚本家の一人として挙がっている。そのほか、おもしろいトリヴィアが紹介されている。クインシーのボートの名前は《フィジ号》だとか、クインシーのファースト・ネームはわからないが、イニシャルはRだとか(そのときの脚本家のイニシャルがRだったからだが、クレイスのことかもしれない)、クインシーは2度結婚していたとか(一人目の妻は脳腫瘍で死亡)。

 フレームやJavaScript を多用しているサイトだが、おれのように古い機種でネット・サーフィンしている訪問者もナヴィゲートしやすいサイト作りをしてくれるところに好感が持てる。

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 ドミニック・マーテルと言っても馴染みのない名前だろうが、サム・リーヴズと言えば思い出していただけるだろう。『長く冷たい秋』(ハヤカワ・ミステリ文庫)などの運転手クーパー・マクリーシュもの4作を90年代前半に発表した。

 彼のウェブサイト Dominic Martell を偶然に見つけた。最近リーヴズの名前を聞かないと思っていたら、マーテル名義でパスキュアル・ローズものを発表していることがわかった。ローズは元テロリストで、昔の仲間をCIAやモサドなどの諜報機関に売って、今はスペインのバルセロナで身を隠しているという設定だ。2001年には第3作 Gitana が刊行されるが、このシリーズはイギリスでしか刊行されていない。

 この第3作の第1章や、第1作 Lying Crying Dying の書評が載っているが、情報量が少なすぎるのだ。クライダーのようにしつこく宣伝しないと、本は売れないよ。 //


来月号に続く

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