Notscape: The CyberGumshoe


サイバーガムシュー


#71 -- それじゃあ、マクダーミドは固茹で作家なの?



 2001年11月にワシントンDCで催された《バウチャーコン》で、ヴァル・マクダーミドの『処刑の方程式』(集英社文庫)がアンソニー賞とマキャヴィティー賞を受賞したが、2000年にはバリー賞(最優秀イギリス犯罪小説部門)も受賞していた。それに、《パブリッシャーズ・ウィークリー》では数カ月前にマクダーミドを有望なミステリ作家の一人に挙げていたし、イギリスでは2000年刊の『シャドウ・キラー』(集英社文庫)は《ワシントン・ポスト》で2001年度にアメリカで刊行された優秀作品の一つに挙げられている。

 というわけで、ついに開設された公式の Val McDermid's Website を訪問してみた。嬉しいことに、クリスマス・シーズンに訪問すると、トップ・ページでは、タイプライターの音を立てながら、サンタクロースが歓迎してくれるし、クリスマス・ツリーが輝いている。

 ニュース・ページによると、『殺しの儀式』や『殺しの四重奏』(いずれも集英社文庫)のトニー・ヒル&キャロル・ジョーダンものの第3作 The Last Temptation がイギリスで2002年2月に刊行されるらしい。そして、サイン・ツアーの予定も書いてあるが、ミステリ作家の命を狙うシャドウ・キラーに注意しろよ。マクダーミドが現在執筆中の作品は単発もので The Distant Echo というタイトルだ。

 それよりもすごいニュースは、ヒル&ジョーダンもののシリーズがTVドラマ化されることだ。ヒル役のロブスン・グリーンとジョーダン役のハーマイオニー・ノリス共演で現在撮影中で、2002年春にはイギリスで放映されるらしい。ドラマ化されるのは、シリーズの1作目と2作目とパトリック・ハービンスンのオリジナル脚本 (Justice Painted Blind) の3本で、マクダーミド自身が『殺しの儀式』にジャーナリストAとして特別出演する。もし評判がよければ、シリーズ3作目もドラマ化されるかもしれない。

 現在、マクダーミドはマンチェスター南部でパートナーと子供と3匹の猫と一緒に住んでいる。事実として書くが、マクダーミドはレズビアンであり、前出のパートナーは女性であり、子供は養子である。

 マクダーミドは小説を執筆しながらも、《マンチェスター・イーヴニング・ニュース》などの新聞にミステリ書評を寄稿している。彼女の書評は Tangled Web でも読める。作家仲間の作品を書評しながら、自分の作品をコンスタントに執筆するのはそう簡単ではない。

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“ハードボイルド小説”のメーリングリスト Rara-Avis で Hard-Boiled Detective Fiction の紹介をしていたので、訪問してみた。

 サイトの管理者はウィリアム・マーリングで、オハイオ州クリーヴランドにあるケイス・ウェスタン・リザーヴ大学の英文学教授である。ユタ大学で学士号と修士号を、カリフォーニア大学サンタ・バーバラ校で博士号を獲得している。最近まで日本の神戸大学の客員教授でもあった。

 目次を見ると、ハードボイルド小説前史、古典的作家、第二世代、重要作品、特徴、批評、ほかのメディア、概要、著書目録、論文の提案、用語説明という章に分かれている。

 正直言って、おれはもう学術的な論文を読むのに飽きているので、特徴の章と概要だけを読んで、全体の感想を述べてみよう。マーリングはハードボイルド小説をハードボイルド・ヒーロー(あるいは、ヒロイン)の登場する小説と見なしていて、ハードボイルド文体を軽視している。ここで、ハードボイルド小説の定義がおれとはかなり違っているのだ。つまり、前提が異なると、あとの分析や説明に関して賛成できるところは極めて少ないわけだ。

 マーリングが引用しているジョン・カウェルティやロバート・スキナー、ウィリアム・ルエルマンたちの評論書をかつて読んだことを思い出したが、内容はほとんど覚えていないのは、年齢のせいなのだろうか。マーリングの過ちは、ハードボイルド小説と私立探偵小説を混同していることだ。だから、このサイトのタイトルを Hard-Boiled Detective Fiction から Private Eye Fiction に変更すべきなのだ。

 マーリングの名前をどこかで聞いたことがあるぞと思いながら、著作リストを見ると、1983年にハメット評論書を、1986年にチャンドラー評論書を、1995年には The American Roman Noir を発表していた。それに、Hard Boiled Fiction という評論書の刊行を講談社と交渉中だという。このサイトの論文はその評論書の下書きのようなものなのだろう。

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 Cluelass Homepage の管理者ケイト・デリーが The Deadly Directory の2002年版 (Deadly Serious Press, 2001; $24.99)を出版編集した。1年前にも書いたように、このミステリ界のガイドブックには世界じゅうの書店、ミステリ誌、ウェブサイト、専門出版社、書評家、イヴェント、ファンクラブなどの連絡先が掲載されている。

 2001年版と異なる大きな違いは、版元の Deadly Serious Press の住所が変わったことだ。出版人のデリーが「一身上の都合で」カリフォーニア州バークレーからアリゾナ州ツーソンに引っ越したからだ。2001年版では抜けていたが、本誌のライヴァル誌である《ジャーロ》の項も載っている。

 とくに注目すべきは、この一年のあいだに消滅した書店や雑誌、ウェブサイトのリストだ。活字雑誌の Murderous Intent と New Mystery と Mary Higgins Clark Mystery Magazine、ファンジンの Dastardly Deeds と Mysterious Women は廃刊になった。このガイドブックにはまだ載っていないが、最近、オンライン雑誌の Blue Murder が消失した。

 Cluelass のウェブサイトでもこれらの項目は検索できるのだが、使いやすくはない。活字版のほうが簡単に使える。ぜひミステリ専門店に注文していただきたい。日本関係の項目については、おれが協力しているので、デリーに直接連絡しづらい方はおれのほうに苦情を申し立てていただきたい。 //


来月号に続く

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