Notscape: The CyberGumshoe


サイバーガムシュー


#77----ストランド街の復活とミステリ状況の変化



 6月17日にケイト・スタインから電子メールが届いた。ミステリ業界誌である《ミステリ・シーン》(MS)をエド・ゴーマンとマーティン・H・グリーンバーグから買ったというお知らせである。スタインがMSの新しい編集人なるという話はその2週間前から流れていた。

 MSについては、このコラムでも前身の『ガムシュー・ファイル』でも紹介したことがあるので、このコラムの数少ない読者はご存じだろう。スタインとご亭主のブライアン・スクーピンが9月中旬に発行される第76号から共同出版人になり、スタインが編集人になる。前編集人ゴーマンは編集顧問とコラムニストとして関わる。そして、スクーピンのほうはウェブサイト Mystery Scene Magazine の管理人として関わる。

 6月26日現在、このウェブサイトにはトップページも含めて、イメージがまったくなく、文字ばかりである。必要最低限の情報しかない。白いバックグラウンドに黒い文字だけで、イタリックやゴシックのフォントを使ったり、文字の色を変えたりするというHTML言語特有のトリックはない。トップページには、この状況の変化について書いてある。いずれ、活字版から選りすぐったコラムや記事を再録するらしい。

 ゴーマンが書く「エドのページ」というのがあり、編集人交替の状況を説明している。2002年の10月でMSは創刊18年目を迎える。1986年にゴーマンとロバート・J・ランディージが共同で創刊し、共同発行人兼共同編集人として始まった。90年代半ばにランディージが抜けて、編纂王として知られているグリーンバーグが発行人となった。

 ゴーマンによると、18年目なので、新鮮な視点が必要になったという。それよりも大きな理由はゴーマンの健康状態だろう。甲状腺癌を患ったことがあり、編集の仕事よりも執筆の仕事に専念したいという。しかも、大河小説を書きたいというのだ。それに、家族と一緒の時間を楽しみたいということもある。

 購読ページでは今のところ申込用紙を印刷して、小切手と一緒に郵送してほしいと書いてある。1年分(5号分)で32ドルとあるのはアメリカ国内の購読料である。海外購読料は明記していない(以前は60ドルぐらいで、しかも船便だったのだ。今度は海外購読料を安くするか、航空便で郵送してほしいね)。7月になれば、このウェブサイトから直接クレジット・カードで購読申し込みができるらしい。

 さて、新編集人のケイト・スタインという名前を知っている人は、かなりのミステリ通だろう。オットー・ペンズラーがミステリアス・プレスの発行人だった頃にそこで編集者として働き、《ジ・アームチェア・ディテクティヴ》の編集長を1992年から95年まで務め、アメリカ探偵作家クラブの機関誌《ザ・サード・ディグリー》を編集した。彼女が編纂した The Armchair Detective Book of List, revised second edition (Penzler Books, 1995) はアンソニー評伝賞を受賞した。ペンズラーがミステリアス・プレスをワーナー・ブックスに売却したあと、彼女は《メアリ・ヒギンズ・クラーク・ミステリ・マガジン》の上級編集者や《アガサ・クリスティー・ソサエティー》のディレクターを務めた。

 MSはネットジンではないので、ウェブサイトは貧弱でもいいのだが、少なくともMS最新号の表紙の画像とか、その目次ぐらいは公開してもいいんじゃないかな。とにかく、ケイトの幸運を祈りたい。こちらは第77号まで購読料を払っているのだから。

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 The Strand Magazine のウェブサイトはもっと華やかである。これも1998年の創刊号から購読しているはずだったのだが、最近来ないなあと思っていたら、もう2号分届いていない。購読更新の通知がなかったから、そのままにしていたが、これは一年に3号しか発行しない刊行不定期に思える雑誌なので、届かなくても気がつかないのである。

 トップページでは、この雑誌が短編小説やインタヴュー、小論を掲載していることを強調している。しかも、短編小説や小論で扱うミステリの舞台はヴィクトリア朝時代のイギリスから現代アメリカまで、小説のタイプは伝統的なパズラーからハードボイルド私立探偵もの、サスペンスフルなスリラー、ユーモアものまでに及ぶ。

 おれは不勉強なので、もともとの《ストランド・マガジン》のことはたいして知らなかった。新生《ストランド》の1998年12月創刊号に載った記事によると、もともとの《ストランド》はジョージ・ニューンズが発行人、H・グリーンハウ・スミスが編集人となり、1891年にイギリスのロンドンで創刊された。大衆向け雑誌を目ざし、当時では珍しくページごとに写真か挿し絵を入れ、ほかの月刊誌の半分の値段で売っていた。シャーロック・ホームズものの「ボヘミアの醜聞」を1891年7月号に掲載したときには、売り上げが急増したという。

 コナン・ドイルは1930年に亡くなるまで《ストランド》に作品を寄稿し続けた。ドイルのほか、P・G・ウッドハウス、H・G・ウェルズ、アガサ・クリスティー、マージョリー・アリンガム、E・C・ベントリイ、ドロシー・L・セイヤーズなどの有名作家もこの雑誌に寄稿した。

 第2次大戦中は、紙も配給となり、雑誌のサイズも縮小した。値段があがり、売り上げがさがった。そして、1950年3月に廃刊に追い込まれたわけである。そして、約50年後の1998年にアメリカのミシガンで新生《ストランド》が創刊されたわけである。

 この雑誌にはヘンリー・スレッサー、ジェイムズ・サリス、マイクル・ギルバート、ジェイムズ・メルヴィル(大谷警部もの!)、ジョン・モーティマー、エドワード・D・ホックなどの英米の有名作家も寄稿していて、最近増えてきた無名の新人作家の多いウェブジンとは格段の差がある。しかも、ピーター・ラヴゼイ(「完全主義者」『ジャーロ』2000年秋号訳載)やマイケル・ボンド(パンプルムースもの)、H・R・F・キーティング、キャサリン・エアードの短編がこのサイトで公開されているので、無料で読めるのである。

 このサイトからも購読やバックナンバー購入ができるので、ぜひ一度訪ねてみるべきだろう。 //


来月号に続く

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