Notscape: The CyberGumshoe


サイバーガムシュー


#79----ハリウッドとミステリ作家との愛憎関係



 今年の3月にLAでロジャー・L・サイモン(『誓いの渚』講談社文庫)と15年ぶりに再会したとき、2003年に刊行されるというモウゼズ・ワインものの次作 Director's Cut(仮題)の抜粋版がアメリカ脚本家同盟の機関誌 Written By に掲載される予定だというので、この機関誌には気をつけていた。

 さて、Written By の2002年夏号 はミステリ特集を組んでいて、活字版の内容のほとんどがウェブサイトに公開されている。つまり、無料で読めるわけだ。

 Westlake and Company、は、ディック・ロクティによるドナルド・E・ウェストレイク(『骨まで盗んで』ハヤカワ・ミステリ文庫)とのインタヴュー記事である。ドートマンダーものの映画版では、名前がバランタインとか、オーガスティンとか、カーディナルとかに変わっているが、その名前はビールの銘柄だとか、おれが初めて知った情報が多い。2000年刊の The Hook に登場する作家や、2002年刊の Put a Lid on It に登場する泥棒がウェストレイクと同じような体験をしていることがわかる。

 Ross Macdonald's Mean Street ではマクドナルド伝の作家トム・ノーランがマクドナルドとハリウッドとの愛憎関係を披露している。『動く標的』でアーチャーの名前がハーパーに変更させられたのは、ポール・ニューマンのヒット映画のイニシャルがHだったからではない。マクドナルドがアーチャーの名前を無料で譲らないので、脚色をしたウィリアム・ゴールドマンがよく似たハーパーに変えたのだ。ゴールドマンは『さむけ』の脚本も書いたのだが、ニューマンが関心を持たなくなって、棚上げされた。おれはノーランの素晴らしいほどに興味深いマクドナルド伝を読んだが、こういうエピソードは知らなかった。

 Confessions of a Mystery Writer では、ウィリアム・リンク(『刑事コロンボ』二見文庫)がTV界の面白い裏話を教えてくれる。リンクとレヴィンスンが制作・脚本を担当した『エラリー・クイーンの冒険』はプロットがややこしすぎて、すぐに終わってしまったが、『ジェシカおばさんの事件簿』はプロットをかなり簡単にしたので、12年も続いたという皮肉が面白い。

 ハリウッドで成功したミステリ作家たち(レイモンド・チャンドラー、ロジャー・サイモン、スー・グラフトンなど)に関する記事は活字版にしか掲載されていないので、これもぜひウェブサイトで公開してほしいものだ。

         *

 リチャード・S・プラザーという作家を知っている読者は、かなり年配の読者だろう。1950年刊の処女長編『消された女』に登場させたLAの私立探偵シェル・スコットが人気を博し、日本では60年代に『傷のある女』『スキャンダルをまく女』『肉体の短剣』(いずれもハヤカワ・ミステリ)が紹介されたし、日本版《マンハント》でも数篇訳載された。80年代には田中小実昌訳で『おあつい死体』(中公ノベルス)がぽつんと1点訳出された。

 The Richard S. Prather/Shell Scott Website は、デラウェア技術大学のメディア専門家だというディーン・デイヴィスが管理するファン・サイトである。

 プラザーは1921年にカリフォーニア州サンタ・アナに生まれ、リヴァーサイド高校を卒業し、49年から専業作家になった。シェル・スコットのほうは年齢が30歳代で、LAのダウンタウンで私立探偵事務所を構えている。

 デイヴィスによるプラザーとのインタヴュー記事がこのサイトの目玉だろう。プラザーは子供のときから作家になりたくて、1949年に空軍基地での仕事をやめて、小説を書き始めた。プラザーが影響を受けた作家は、レイモンド・チャンドラーとデイモン・ラニアンである。

 プラザーの“最新作”は1987年刊の Shellshock だが、目下のところスコットもの長篇41作目 The Death Gods を執筆中だという。プラザーの作品はみんな絶版だが、オーディオ版が出版されているし、ネットから旧作がダウンロードできるらしい。

 プラザーの作品は時代錯誤とか男女差別(つまり、政治的に正しくない)と見なされ、新作を刊行しようという出版社は見つかりにくいかもしれないが、少なくとも、PWAのアンソロジーには短篇を寄稿してもらいたいものだ。

         *

 プラザーのリンクから、Dean Davis -- Just Some Guy Who Wrote Mysteries という奇妙なサイトにたどり着いた。デイヴィスという男は1954年から1969年までキング・ベネットものの私立探偵小説を書いていた作家である。

 ベネットはラス・ヴェガスの探偵で、フランク・シナトラやディーン・マーティンなどのラット・パックの連中とも仲がよく、シェル・スコットのラス・ヴェガス版という形容がぴったりだろう。

 デイヴィスは少年時代から作家になっりたかったが、ビリヤード場でハスラーをして金を稼いでいた。1953年の10月に《クライム・シーン》というミステリ雑誌を出版しているオットー・グリーンフィールドとその弟ケヴィンがビリヤード場を訪れた。賭けに勝ったデイヴィスが《クライム・シーン》にベネットものの作品を寄稿することになるのだ。

 しかし、雑誌の売れ行きは芳しくなくて、グリーンフィールド兄弟は男性雑誌《ガーリーQ》を創刊した。デイヴィスはその雑誌にジャズ記事などを書き始めると共に、ベネットもののペイパーバック・オリジナル小説も書き飛ばす。

 でも、ディーン・デイヴィスという作家も、キング・ベネットという私立探偵も、《クライム・シーン》というミステリ雑誌も、《ガーリーQ》という男性雑誌も知らないぞと思った真面目なミステリ研究家がいるはずだ。ごもっとも。ディーン・デイヴィスという人間は現実に存在するが、ミステリ作家ではなく、リチャード・プラザーのファン・サイト管理者なのだ。もちろん、ベネットという探偵も《クライム・シーン》とか《ガーリーQ》という雑誌も存在しない。

 激怒しないでいただきたい。おれでさえ、もう少しで信じ込むところだったのだから。えせ作家の“公式”サイトをこれだけ“入念に”作成するという一銭にもならない無駄な労力には、感心する次第である。とにかく、一見の価値あり。 //


来月号に続く

日本語版ホームページに戻る

国際版ホームページに戻る