星野富弘 詩画集「四季抄 風 の 旅」より








   「ひなげし」



花が上を向いて


 咲いている


私は上を向いて


 ねている


あたりまえのことだけれど


神様の深い愛を感じる






   「つばき」



木は自分で


動きまわることができない




神様に与えられたその場所で


精一杯枝を張り


許された高さまで


一生懸命伸びようとしている




そんな木を


私は友達のように思っている






   「やぶかんぞう」



いつか草が


風に揺れるのを見て


弱さを思った


今日


草が風に揺れるのを見て


強さを知った







   「はなしょうぶ」



黒い土に根を張り


どぶ水を吸って


なぜきれいに咲けるのだろう


私は


大ぜいの人の愛の中にいて


なぜみにくいことばかり


考えるのだろう







   「まむしぐさ」



ひとたたきで折れてしまう


かよわい茎だから


神様はそこに


毒蛇の模様をえがき


花をかまくびに似せて


折りに来る者の手より


護っている


やがて秋には


見かけの悪いこの草も


真紅の実を結ぶだろう





すべて 神さまのなさること


わたしも


この身を よろこんでいよう







   「しおん」



ほんとうのことなら


  多くの言葉は


     いらない




野の草が


   風にゆれるように


 小さなしぐさにも


輝きがある







   「れんぎょう」



わたしは傷を持っている


でも その傷のところから


あなたのやさしさがしみてくる







   「がくあじさい」



結婚ゆび輪はいらないといった


朝 顔を洗うとき


私の顔をきずつけないように


体を持ち上げるとき


私が痛くないように


結婚ゆび輪はいらないといった





今、レースのカーテンをつきぬけてくる


朝陽の中で


私の許に来たあなたが


洗面器から冷たい水をすくっている


その十本の指先から


金よりも 銀よりも


美しい雫が落ちている







   「きく」



よろこびが集まったよりも


悲しみが集まった方が


しあわせに近いような気がする





強いものが集まったよりも


弱いものが集まった方が


真実に近いような気がする





しあわせが集まったよりも


ふしあわせが集まった方が


愛に近いような気がする







   「どくだみ」



おまえを大切に


摘んでいくひとがいた


臭いといわれ


きらわれ者のおまえだったけれど


道の隅で


歩く人の足許を見上げ


ひっそりと生きていた


いつかおまえを必要とする人が


現れるのを待っていたかのように





おまえの花


白い十字架に似ていた










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