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「鳥になる」


期待に膨らんだままに
太陽が照りつける

プラットホームにくずおれる翼
しゃくり上げて叩き落とされる翼

岸辺の涙と歓声は
ともかくとして

真夏の風の麻衣を
音もなく切り裂いていく

笑顔のような
ヴァーティカル

湖面に跳ね返った
光の粒に乗って

その緊張と高鳴りの果てに
夢は何気なく叶えられる

必至の汗にも機体は
微動だにせず

人間の夢が
10000mを越える

ただ口をポカンと開けて
見えもせぬ遠くを見つめる人々

躍動するもの達よ
今だけは静かに

浮かぶ滑る回る
夢の踊り場に舞う

至福の翼達は
色を忘れて白く輝く

力尽きて水に浸る
天然と人のバランス

ため息と羨望と
素直な驚きと憧れがある

全てが終わり夕映えの湖面を
滑り上がる生まれながらの鳥達

破れた翼の残骸と
羽根の一枚との相似形

もう戻ることはできない
人間の憧れの道

これを健康な精神と呼ぶ
その列に加わりたいと思う

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