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「歌うたい(その3)- 四季夭折 -」02


生まれもつこの身の上のもろどもを恨みて誰か恋いしはべらむ

まつたけの薫れる秋になりにけり いつや運ばむ 吾の夕げに

立ち枯れの向日葵なれど愛でにけり 深まる秋のしるべなりせば

二百夜を通い渡りしほの風に季節は涼みぬ 実る秋にや

手折りもて枯れども薫れ女郎花 お色直しの秋になるかも

曇り戸を染めて赤らむ夕焼けを開けて見やれば時は名折れり

薄影に寝覚めてみれば夕さりの風の心は憧れにけり

微妙なる心尽くしの朱色かな 蜩急かす 定性分析

心をば病むほどならば淋しさも紛れむかなと思いこめたり

てふてふは春にてこそと思いきに 秋にてあればまして儚し


     美童のふたりみたりと走り来て水際に止まる 落ったりするなよ

     なにがしの花壇に生うる花よりも吾が庭に生う雑草の恋しや

     立山の雲より生うる大鳥は里をかすめて海を渡れり

     草深き山路を越えて氷見の浦に打ち出てみれば連峰浮かべり

     木枯らしを胸一杯に吸い込んで温みて漏らす冬の入り口

     細道の更に端なる一線に自転車乗りは追いやられたり

     匂うとて気にも留めざる草雑草を愛おしむ秋になりにけるかも

     水田枯れ 刈り残さるる稲幹に たった一声 鴫は立ちたり

     晴れぬるも情けなきかな この空はまだ吾が空にあらじとぞ思う

     リアス式の雲の白さに打ち寄せる真っ青な風が吹き上がる空


天上の真白の雲の遥か彼方 低く無限に空は青みぬ

まっさらの空を吹き抜くこの風を掴みて旗はすっと止まれり

空に浮かぶ赤い風船 ペシミスト 雲の彼方へ消えてなくなれ

深みなく幼き思い抱えつつ 受け止めたるをすっと詠みたし

空は青 大地は緑 溶け合いて生まるる山の紅葉なるかな

人嫌いはコンプレックスの故と話してくれた友が少し遠くなって
不思議 往かないでくれ

夕さりて全てが暮れる今日の日に 一本道をじっと見ている

いにしへにうちたる衣 今はなく ただ秋空にブラウスの舞いて

一筋に天に向かいて立てらるる竿の端先は折れて鋭し

吹き付けて心にしみるものどもを拾い集めて秋は暮れゆき

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