そして天使は、向こう側へ飛び立っていきました。 彼女の心には一点の曇りもなく、笑顔は爽やかに煌めいて。 過去を鮮やかに脱ぎ捨て、純白の羽を数枚、置き去りにして・・・。 いいえ、見えたわけではありません。 せめてそうであって欲しいと、 哀しみなど一つもなければいいと、ただ祈っているのです。 彼女には冷たく暗い顔なんて似合いませんから。 幾日か過ぎて。 ひとり、影を追いかけて、 あなたの残した温もりを開いてみます。 たったこれだけしかないんですね、 たったこれだけ。 それでもあなたの豊かな感性の輝きは、 確かに天空を貫いていました。 僕の心の扉を開け放ち、 いくつもの出会いの種をまいて、 あなたの残した温もりが冷えていきます。 それはとても残酷です。 耐え難い苦痛です。 それが僕の犯した罪、 言葉のせいであるのだとしても。 あなたの影が霞んでいくのを見つめることが、 罪を償い、あなたの心を癒やすことになるのだとしても。 もしもあなたが、自らが作り上げようとした虚構に疲れ果て、 そしてその虚構を僕が信じて疑わないことの重みに耐えかねて、 軽やかで艶やかな笑顔さえも忘れ去ろうとしているのなら、 そんな哀しみはやめて欲しいから、僕は告白します。 僕があなたに見つけたものは、あなたの虚構の向こう側にありました。 あなたの言葉の奥に密やかに滲んでいる、健やかな感性の光、 それだけが僕にとってのあなたであり、喜びであり、 あなたの虚構はステンドグラスの微かな七色ではあったけれど、 僕が見ていたもの、見続けたいものは、太陽が太陽として輝く姿です。 あなたが太陽にさえ疲れたとしても、太陽は光ることを止められはしません。 きっとこのまま、時が流れていくのだとしても。 僕の心に刻まれたあなたの形が消え去ることはありません。 僕が抱いていた魂の安らぎとしてのあなたへの愛は、 あなたを喪失した瞬間、 永遠に灯り続ける淡い暖炉になりました。 心の隙間を隙間として照らしながら、 光焔は温もり続けています。 僕の影だけが、揺らめいています。 もう、あなたに何も求めたりはしません。 あなたはあなたらしく、何ものにでもなることができるし、 また、何ものにもならずにいることもできるのです。 再び巡り会ったとき、僕はあなたに気づかないかも知れない、 それほどにあなたが新しく生まれ変わるのだとしても、 あなたが存在する限り太陽は輝くことでしょう。 その太陽を見上げ、陽射しを受けながら、 どうかあなたよ、いつの時も、健やかでありますように。