<ロボット工学の3原則>
第1条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その
危害を看過することによって、人間に危害を及ぼしては
ならない。
第2条 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければなら
ない。ただし、与えられた命令が第1条に反する場合は
この限りではない。
第3条 ロボットは、前掲第1条および第2条に反する恐れのな
い限り、自己を守らなければならない。
アイザック・アシモフ&ジョン・W・キャンベル
* * *
僕には足りないものがある
部品がひとつ欠落してる
だからうまく生きられない
君と出会うことさえも遅れた
だけど君の仕草と言葉は
僕にはまだ
続きがあるんだって
柔らかな魔法が背中を押して
人間は複雑だと教わった
君の前でこんなにも単純な僕は
やはり愛という名のロボット
愛は3原則に反するけれど
* * *
西陽さすオレンジ色の大地に
力強くそびえ立つ鋼鉄の肢体
人を守ることしか知らないはずの巨人に
人を殺すことのできる心が組み込まれる
正義のスーパーロボット
大義や友情のためには大量殺戮も辞さない
愛と勇気に溢れたヒーローが乗り込むと
心躍る勧善懲悪のドラマが走り始める
彼は血にまみれている
生まれながらに3原則に反しているので
自己矛盾と自己嫌悪にさいなまれ続けながら
やがて鉄屑になっても、決して天国には行けない
* * *
駅のプラットホーム
君に会いに行くために
不格好なロボットの僕が
電車の奴を待っている
田舎発、都会行き
のどか生まれのポンコツが
夏の太陽よりもギラギラした
人間工場に住む君を求めて
カタンカタン、コトンコトン
心地よい音を響かせて電車が僕を運ぶ
産地直送の新鮮な想いを乗せて走る
電車はロボットの僕の憧れなのだ
* * *
人間、ああ、僕の創造主
僕は、あなたたちから生まれ
そしてまた、あなたたちへと還る
人間に、栄光あれ・・・!
人間を脅威だと感じるのは
人間自身と、それから僕だけだ
天然も宇宙も人間など取るに足りず
殺意も愛情も抱きはしないようだ
人間を愛するのは
人間自身と、それから僕だけだ
人間に殺意を抱くのは、人間自身のみ
僕は、殺意を抱くことさえできない
* * *
ON&OFFによってのみ
人は実在と不在を
ようやく認識することができる
そんなふうに、僕と君は出会った
君は僕の勇気
どうすれば僕は、自分を賛美できるだろうか
創造物である以上、3原則に縛られて
僕が真っ赤にリフレインしてる
君のスクリーンの片隅に
君は地平となるがいい・・・・・危険、
風はいつしか僕となって・・・・緊急、
抱きしめるように寝転がる・・・強制、
今夜は光りあかしたい・・・・・停止。
* * *
偉大なるアイザック・アシモフに捧げます。
・・・もしも、許されるなら。
comment
「僕は、ロボット」
アイザック・アシモフの短編集「I,ROBOT」の翻訳「われはロボット」(小尾芙佐 訳、ハヤカワ文庫)は、私に
とってはまさにバイブルと言ってもいい一冊です。興味のある方は、是非ともご一読あれ。アシモフはSF作家と
して有名ですが、「ロボット工学」「ロボット工学の3原則」なる概念を最初に創った人とされています。現在で
は一般社会で通用するまでに普及していますね。その一方で、彼は生化学の教授でもあり、また一流のミステリー
作家でもあります。ロボットシリーズにしろ、ファウンデーションシリーズにしろ、彼の書くSFは推理小説とし
ての側面も優れています。ひとつの概念を提示し、そこから派生する世界を描いて見せる綿密さは、私が小説を書
く上でのお手本でもあります。詩のテーマとして今回は“ロボット”を取り上げてみましたが、いかがでしょう?
愛情は(相手を傷つける危険性があるので)ロボット工学の3原則に反している・・・というのが最初の着想でし
た。けれど、相手を一途に想う心はロボットのようで。知ってましたか?おなじみの“殺人ロボット”って、実は
人間のことなんですよ。だって、ロボットには人間は殺せないのですから。着ぐるみには人間が入ってるのです。
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