ヴェスタリオミア物語 第3章 森(1)

 

 

君の涙を残して、僕は今、森に入る

愛することと愛することが、戦ってしまうんだ

誰も傷つけたくないと思うことはたやすい

けれど、心の使い方は、とても難しい

君を暖めたいと思う心の裏側で僕は

自分が温もりたいだけなのだと知った

そして、僕の純粋さが挫折した気がしてた

この鬱蒼とした森の湿り気に抱かれながら僕は

感情の奔流を持て余してうずくまる

 

いつの間に日溜まりは過ぎ

森は光を亡くして、今は温度と音の世界

見えるものに傷つき、見えないものに怯える僕は

目を閉じて、森の温度と音にジッと心を傾ける

ここには綺麗事がない

あらゆるものが奪われ、叩きのめされている音

森は混沌という、くぐもった熱に満たされている

そしてその中から、這い上がるものたち

力強く、息をするものたち

 

傷つけないのが優しさ、傷つかないのが温もり

そういう陽炎のような日々を重ねていくうちに

君からは笑顔が消え、僕からは言葉が消えた

他人を情報源としか見ない社会に育ち

思いやりという想像力を持たず

君はただ、愛という言葉に憧れていた

僕は夢を支える君の、心の涙を知らずにいた

心の襞をかき消すように、僕たちは日々を重ね

何ものも生まれない息苦しさに、もがいていた

 

僕の夢は、この森を守り育てること

求めるだけでもなく、与えるだけでもなく

生命の生と死の輪が連なる螺旋階段を上るように

もがくように捻れながら、一途に天空を目指す一本の樹

森中を抱きしめるように枝を伸ばし

その幹は森全体の法則になろうとしているように見える

僕は初めて出会った日から、この樹を愛していた

混沌に根ざし、混沌から立ち上がった樹よ

本当は、僕はこの森になりたかった

 

森に生まれ継ぐものたち

森に憩うものたち

森に侵されるものたち

森にさらされるものたち

しかし誰ひとりとして

この樹に巣くう虫や鳥や動物や

この樹に注ぐ雨や霜や陽の光や

この樹に吹き付ける微風や雪が

そして落ち行く一葉や

土を削る根のひと伸びが

どれほどの激痛であり

どれほどの希望か

理解できるものはいない

 

だから僕は、一粒の種を持ち帰った

君はこの種のように、愛を胎動させてる

僕は、君から発芽するであろう森の芽吹きを

抱きしめるように育てていこう

君の森は

いつもこんな混沌の中にあって

それだからこそ、たくましく愛を育んでいく

僕たちは森という法則を得て解放された

まだちっぽけな星の片隅に過ぎない





作・ 小走り

 


 

<コメント>

 

いきなりの第3章です(汗)。第1章はまだ続きますし、第2章は現在書き始めたところ。

で、先にできたこっちを読んでもらいたいな、と。さすがにもう、ストーリーを覚えている

人はいないだろうなぁ・・・(笑)。で、この第3章は、ヴェスタリオミア物語の中で重要

な意味を持っている“森”をテーマに、いくつかの詩を編んでいくつもりです。もともと、

この連載(?)を始めたとき、“詩小説”なんぞとつぶやいていたのを、知っている人は知

っている・・・。こういうことを実は、やりたかったのだな。“森”が何を意味し

ているのか、感じ取っていただけるように頑張りますので、気長におつきあい下さいませ。

 

EMAIL:kobashi@nsknet.or.jp
http://www.nsknet.or.jp/~kobashi/

 



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