ヴェスタリオミア物語 第3章 森(4)

 

 


震えては                   震えては                   帰ってくる

立ち止まり                  立ち止まる                  あの子が

また                     こんな想い                  帰ってくる

歩き出す                   だから知りたい                10年ぶり

そんな帰郷                  あんたの全て                 帰ってくる



君は                     うちは                    わたしは

確かな歩み                  あんたについてく               ひとり

期待に胸ときめかせ              期待に胸ときめかせ              期待に胸ときめかせ

私は                     あんたは                   あなたは

君の顔を見ることができない          うちに背を向けて歩く             森から戻らない



希望の天地“ロステムス”           うちの故郷“ロステムス”           “ロステムス”

私を知らない人々の国             ある日あんたがいて              どんなところ?

新しい私が始まった街             深い湖みたいやったから            あの子は

ようやく巡り会った君は            そして好きになったから            エスタミスを捨て

私の故郷が見たいと言った           あんたの故郷が見たい言うた          ファレシアの家を捨てた



ロステムスの中心都市ロスタから        長い長い旅                  いいえ

このちっぽけなエスタミス村までは       あんたはろくに話しもせん           それでいい

緑地帯を浸食し始めた砂漠と湖を過ぎ      今、なに考えてんの?             それでいいの

山岳地帯を越えて行く長い長い旅だ       不安になったりもするけど           あの子には

故郷が近づくほど、君が近くなる        でも少しずつあんたが見えてくる        未来がある



ポツリポツリと過去を語り           故郷のこと、親のこと、森のこと        こんな家に

「人生って、疲れるわ、ホンマに」       「人生って、疲れるわ、ホンマに」       こんな森に

そう言った私に                そう言うたあんたに              縛られてはダメ

「オッサンくさぁ、アホちゃう?」       「オッサンくさぁ、アホちゃう?」       こんな過去は

笑いながら君は私の心を見すえる        うちはそう笑うしかなかった          捨てていけばいい



そして君はうつむき、つぶやいた        けど、急にムカッ腹立ってきてな        あの子には

「・・・当たり前やん、そんなん」       「・・・当たり前やん、そんなん」       幸せになって欲しい

君のそんなそっけない包み込み方が       なんかウジウジしてるあんたが悲しかった    それはホントのこと

あの懐かしい森の空気と重なって        今まで言ってくれんかったんが悔しかった    わたしは祈り

私と君は今、森の入り口にいる         自己嫌悪しながら、森の入り口にいる      森の入り口にいる



森の成長は早い                うわぁ、森や                 森は絆ね

彼らは人間の数十倍の速さで広がっていく    うち、初めて見た               遠く離れていても

そしてそれから人間の数百倍も生きる      なんでかわからんけど             わたしたちを

これほど高度な生命体が            涙が出てくる                 大切な家族を

どうして滅びようとしていたのか        うちな、ここ来てよかった           結びつけてくれる



衰え萎んでいく“最後の森”を         あんたの父さまは“最後の森”を        あなたは“最後の森”を

追いかけるように               追いかけて行ったのかもね           追いかけることもせず

父と母の“始まりの森”は           母さまは“始まりの森”を           わたしたちの“始まりの森”に

ここから疾走しはじめた            ずっと育て続けてる              全てを注ぎ込んでくれてる

この家は森の入り口に             そしてあんたとうちはここにいる        わたしは信じてるから



終わりと始まりの場所に立っている       終わりと始まりの場所に立ってる        終わりと始まりの場所に立っている



「ただいま」                 「ただいま」                 「ただいま」

そう言える場所があり             ここがあんたの家なんやね           ああ、あの子の声だ

「お帰り」                  「お帰り」                  「お帰り」

そう言ってくれる人がいる           あんたの母さまが応える            精一杯の笑顔を見せよう

緑色の感情がこみ上げる            あかん、緊張してきたよぉ           一生懸命、練習したんだもの



心は幸せに満ちても              母さまってどんな人?             ああ、わたしのウィトン

身体が拒絶するのだ              うちを気に入ってくれるやろか?        彼女作って帰ってくるなんて

過去を                    うまくやっていけるんやろか?         手紙を読んでびっくりした

この家を                   あ、母さま、笑ってはるよ           心から、嬉しかったのよ

この空気を                  ちょっと空気が和んだ             この人が、そうなのね



「母さん、彼女がティア」           「母さん、彼女がティア」           「母さん、彼女がティア」

それだけ言うのが精一杯だった         ところがあんたはそれだけ言うて        そう言ってウィトンは顔を歪めた

くしゃみと吐き気が襲ってきて         真っ青な顔を両手で押さえると         いつもの発作ね、子供の頃と同じ

「ちょっと、ごめん」             「ちょっと、ごめん」             「ちょっと、ごめん」

私は裏の井戸に向かった            って、裏口から出てった            そしてまた、裏の井戸に向かう



井戸の水で顔を洗う              どういうことぉ!?              ふたりきりとり残されて

この水は森から来るのだと           いったい、どないなってんの??        あの子が選んだ人と向かい合う

生命からしみ出した水なのだと         うちと母さまは顔を見合わせて         この人は、森を愛してくれる?

父は言っていた                「はじめまして」               「はじめまして」

柔らかい水が顔を斬りつける          なんて言ってみるけどね            この家を、守ってくれるの?



井戸端には                  めっちゃ気まずいぃ              ダメよ、出てこないで・・・!!

真っ白な花が咲いている            ウィトン、はよ帰ってこいぃ          わたしの心に棲んでいる悪魔の蠢き

森の“種”から最初に咲いた          うちが曖昧な笑顔で固まっていると       “疑い”という名の恐怖

ウィティの花だ                「様子、見てきて下さる?」          「様子、見てきて下さる?」

この一輪から森が始まった           母さまがちょっと困った顔で言う        わたしは必死で、そうしぼり出した



母の日常は                  うちはホッとして裏口を出る          わたしは毎日を戦う

この花に水をやることから始まる        あんたは井戸で顔を洗ったらしい        ひとりぼっちで

私の名前もこの花にちなんで付けられた     今は、井戸端に生えてる花を          あの子の生まれた日を想い

母はこの花と共に生きることを選んだ      ジッと見つめてる               ウィティの一輪を見つめながら

永遠に枯れることなき、純白の花        名前は知らん、純白の花            幸せの終わりを告げた、純白の花



「ウィトン、父さんを呼んできて」       「ウィトン、父さんを呼んできて」       「ウィトン、父さんを呼んできて」

母の声に振り返ると              家の中から母さまの声がする          もう、ひとりぼっちは嫌だ

少し戸惑った顔の君がいた           なんかさっきより恐い             言い争っては、森へ逃げ込むあなた

君は感じたろうか、母の心の怯え        ここは言うとおりにした方がいい        どうして幸せになれなかったんだろう

私には手に取るようにわかる          振り返ったあんたの目がそう言ってた      みんなで幸せになりたいだけなのに



私は君を連れて                うちはあんたに手を引かれて          あの子は彼女を連れて

森の奥へと入っていく             森の奥へと入っていく             森の奥へと入っていく

君を休ませてあげることもできない       想像していたより、ずっと大変そう       そしてわたしは、戦いに戻る

これが私の家、故郷なのだ           これがあんたの家、故郷なんやね        わたしたちの家、故郷の森を

そして父は                  でもな                    守らなければ



もう何ヶ月も森から戻らないと聞いた      うちは絶対、挫けへんからね          ファレシアの家を、守らなければ







作・ 小走り

 


 

<コメント>

これからいよいよ森の奥への旅が始まるのですが、今回のお話はその前準備のような感じです。 前回からほとんど話が進んでないという印象ですが、ご容赦下さいませ・・・。今回のような、 並列させる形式は以前「ワルツ」という作品で初めてやって、その後は使わなかった(あまりに も難しくて)のですが、いかがでしょうか?読むのが疲れるだけ・・・?(笑)       

 

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