「厳冬記」

 

Poem by Kobashiri


 
 
 
 
 

冬の夜は

カツンコツンと

更けて鳴る
 
 
 
 

重苦しい雲の間に

星ひとつ瞬き

今は舞い踊る綿雪もなく
 
 
 
 

見渡せば連峰と内海の狭間

この平野は果てなく白い色であり

人の暮らしもまた、雪原の起伏に過ぎず
 
 
 
 

冷気は僕を奪う

笑顔のまま死にたければ

笑ってみろよと五感を斬りつける
 
 
 
 

獄雪に埋もれてみると

生きることは耐えること

そして待つことだとわかる
 
 
 
 

こんなにも重く深い凍え

君への想いを確かめるため

僕はちっぽけに歩みをつなぐ
 
 
 
 

風が止み

ようやくため息をつくと

また雪が吹いてくる
 
 
 
 

君の“頑張る”が

僕の血管を駆けめぐる血潮となって

諦めない指先のしびれを創造する
 
 
 
 

便利になるたび退化するこの体

知識を得るたび考えなくなるこの頭

心は心のまま、君を想い続けるのがいい
 
 
 
 

どんなに凍えたって

このくらい不自由な方が心は動く

このくらい単純な方が心は想う
 
 
 
 

不純を許さぬ冬の眼差しにさらされながら

僕の不格好な想い方はユラユラと彷徨い

季節の彼方にある君の姿を探し当てた
 
 
 
 

まっさら真白の真ん中に

大桜が化石のように立っている

瞳に映るは絢爛たる春の艶姿ではない
 
 
 
 

圧倒的な太陽の力をいっぱいに受けて輝く

葉桜の何ものにも負けることのない緑色

虚飾を落とし大地と一体化した生命力
 
 
 
 

蝉時雨とライスシャワー

大きな緑の中で君は真っ白になる

その日を僕は信じて待っている
 
 
 
 

今は隔てられていても

信じる心を強い瞳に託して

君の生き様から目をそらさない
 
 
 
 

コオオ、コオオと鳴く

吹雪の新手の一派が

大桜をかき消した
 
 
 
 

こんな埋もれてる毎日に向かって

クラクションを鳴らしたい

世界を叩き続けたい
 
 
 
 

静かに締め上げてくる冷気の中で

異世界の生き物のようにもがいている

白い布団にくるまってもがいている
 
 
 
 

君が泣いている夢を見た

僕の届かない遠い空の下で

君は泣いているの?
 
 
 
 

静かに、静かに裏切っていく世界

もう一度、生まれるのなら

僕は、君になりたい
 
 
 
 

冬も夏も、雪も太陽もみんな

そこに喜びと生き様を見つける

僕は、君でありたい
 
 
 
 

雲は走り去り

満天の大宇宙に瞬くは

やはり星ひとつのみ
 
 
 
 
 
 



 
 

「厳冬記」
 
 

今年は冬が深く、こんな詩ができました。どこかで読んだ

みたいな内容ですが。人の想い方って、それほど違わない

気がします。モチーフは、近所の大きな桜の木。夏の葉桜

が風にそよぐ姿を、雪の日の空気に映して・・・。だから

最初、タイトルは「幻灯機」でした。でも、あんまり雪が

元気なものですから。冬は森であり、雪はその森の木々な

ので、人は森を壊さないように暮らさなければならないよ

うに思えてくるのです。想いを温めながら、夢見ながら。

 
 
 

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