僧帽弁狭窄症(MS)

 僧帽弁狭窄症は,僧帽弁口が狭くなり,拡張期に左房から左室への血液の流入が障害されている状態をいう.

 

成因:本症の大部分は,リウマチ熱の後遺症として発症する.リウマチ熱の伴う炎症性変化が,僧帽弁複合体に反復して波及すれば,僧帽弁狭窄症を引き起こさせる病理学的変化が生じる.リウマチ性心炎に罹患してから臨床的に明らかな僧帽弁狭窄症が発症するまで,通常10年以上かかる.リウマチ性心炎の発症年齢は平均12才で,僧帽弁狭窄症としての臨床症状が発現するのが平均31才である.本症の約半数の患者はリウマチ熱の既往は明瞭ではない.

病態生理:僧帽弁口面積は正常では4〜6cm2であるが,1.5cm2以下になると臨床症状が発現する.本症における血行動態の特徴は左房から左室への血流障害であり,必然的に左房圧が上昇する.これに伴い,肺静脈及び肺毛細血管圧が上昇して肺水腫の状態が起こる.肺毛細血管圧の上昇は反応性に肺小動脈を収縮させ,肺血管抵抗ならびに肺動脈圧が上昇し,右心への圧負荷が増大する.

臨床所見

・症状:最も早期の症状は,労作時の呼吸困難である.病期の進展に伴い,夜間発作性呼吸困難,起坐呼吸などを生じるようになる.もよく認められ,その主な原因は肺鬱血である.本症では血痰から大喀血までさまざまな喀血が見られる.その原因は気管支静脈ないし肺毛細血管の破綻や肺塞栓である.心拍出量が低下してくると易疲労感や下肢の冷感,末梢性チアノーゼなどが起こる.本症の10〜25%の症例に全身性の塞栓症が認められる.塞栓症を起こした部位により様々な症状が出現しうる.病期が進展して右心不全の状態になると.肝腫大の増大に伴い右季肋部の重圧感や疼痛が認められ,食欲低下,体重減少,衰弱感が強くなり,心性悪液質の臨床像を呈するようになり,僧帽弁顔貌(両頬の徴紅)が認められる.

・心臓の聴診所見

(1)心尖部:歯切れがよく,ピッチの高い高進したT音を聴く.拡張期に低調なドロドロ雑音遠雷雑音)を聴き,これは本症の特徴的雑音である.U音の直後に高調な過剰心音である僧帽弁開放音(OS)が聴取される.

(2)肺動脈弁口部位:高調な拡張期雑音が聴取されることがある.これは肺高血圧に伴う,相対的肺動脈閉鎖不全の雑音(Graham Steel雑音)による場合と軽症な大動脈弁閉鎖不全に基づく雑音の場合がある.

検査所見

・心電図:左房負荷により,T・U誘導で幅の広い二峰性のP波(僧帽性P波)とV1で後半の陰性部分の大きい二相性P波が見られる.QRSは右軸偏位を示すことが多く,高度な肺高血圧が存在する症例では右室肥大の所見を呈する.心房細動が40%の症例に見られる.

・心カテーテル検査:狭窄度を反映して左房圧は上昇する.一方,左室拡張気圧は左心不全が存在しない限り正常である.したがって,本症では拡張期において明らかに,左房と左室の間に圧較差が存在する.この圧較差の大きさが重症度を示すことになる.

経過・予後

 通常30〜40才台で自覚症状が出現し,約半数は50〜60才台で死亡する.合併症としては心房細動,血栓塞栓症,急性肺水腫,感染性心内膜炎,気管支炎,右心不全などがある(中でも血栓塞栓症が特に重要).

 

治療

・内科的治療:軽症例には特に治療を必要としない.感染予防,塞栓予防などが行われる.

・外科的治療:症状を有し,他の合併疾患による手術危険率が高くない全ての症例に手術適応があり,特にU度からV度への移行期が最もよい適応である.一方,鬱血性心不全・リウマチ熱・心内膜炎などを合併する場合は内科的治療で症状が改善してから手術を行う.最近では,開心術を行わない経皮的交連切開術が行われるようになった.これは大腿静脈より経心房中隔的に左房にバルーン付きカテーテルをいれ,バルーンを僧帽弁口部で拡張し狭窄を拡大するものである.