顔面骨折
頬骨・頬骨弓骨折
症状と所見
容貌:頬骨部が扁平,頬骨弓部の陥凹.外眼角部の下降(頬骨の下方転移であった場合).
眼症状:眼球運動障害と複視(blowout fractureの不純型).
知覚障害:眼窩下神経支配領域にみる.
開口障害:骨折片が側頭筋を刺入,圧迫している場合以外は経過とともに軽快する.
治療
麻酔:全身麻酔.ただし,頬骨弓骨折に対するGillesの側頭切開法は局所麻酔でも可能.
整復の時期:全身状態が許す限り早い方がよい.遅くとも1週間前後に行う.1ヶ月以上経つと整復に骨切りが必要となってくる.
整復:
Gillesの側頭切開法:頬骨弓骨折に用いる.側頭筋膜深葉と側頭筋の間にエレバトリウムをいれ,頬骨弓後面に達して整復する.
観血的整復法:
下眼瞼切開:経下眼瞼切開法で眼窩下壁の骨折部に到達.逸脱した眼窩内容を元に戻した後,シリコン板あるいは自家骨片で骨欠損部を覆う.
眉毛外側切開:頬骨前頭縫合部の転位に対して.顔面神経の枝に注意.
固定:骨折部の固定はステンレス軟鋼線やキルシュナー鋼線を用いる.
固定期間:キルシュナー鋼線抜去は約6週.
上顎骨骨折
Le Fort型骨折が基本となるが,その他頬骨骨折,頬骨弓骨折,blowout fracture,鼻骨篩骨合併骨折などを合併することが多い.
症状と所見
他の骨折を合併することが多いので,当然それらの症状が重なるが,Le Fort型骨折に特有なものとしては,
異常可動性:上顎歯列を持って検する.上顎歯列のみ(Le FortT型),顔面中央(Le FortU型),顔全体(Le FortV型)が動く.
咬合異常:骨折の部位,程度によって種々の咬合異常を呈するも必発である.
容貌:顔面の高度な腫脹.間延びした「馬面」(Le FortV型),あるいは顔面の凹凸が失われ「皿状」(Le FortU型)となる.
治療
救急処置:気道の確保が大切.すなわち骨折により口蓋部が後方に移動して気道を閉塞したり,出血,歯牙の骨折,義歯その他の異物による気道閉塞がおこる.このような場合気管切開が必要となる.
麻酔:全身麻酔,ことに気管切開挿管.
整復の時期:受傷後1週間以内ならば非観血的整復が可能.それ以上ならば観血的に行う.
整復:骨折を起こした上顎骨の転位を矯正し,正常咬合に戻すことが大切である.
非観血的整復法:用手的に上顎歯列を持って動かしたり,骨鉗子で上顎骨を把持して,整復(Le FortT,V型).
持続牽引法:上顎歯列にarch barまたはdental wireを装着し,head castとの間でゴムバンド牽引を行ったり,Halo外固定装置を用いる.
観血的整復法:下眼瞼切開と口腔内切開で骨折部に到達する(Le FortU型).
固定:Barton Bandage:転位,咬合異常ほとんどない場合.
顎間固定:arch bar装着し,ゴム輪または軟鋼線で固定.
craniofacial suspension:前頭骨の頬骨突起,眼窩下縁,梨状下縁とarch barとの間を軟鋼線で固定.
その他軟鋼線あるいはキルシュナー鋼線で骨折部を直接固定.
固定期間:6~8週で顎間固定,craniofacial suspensionの軟鋼線やキルシュナー鋼線を除去する.
下顎骨骨折
症状と所見
容貌:下顎部の変形.
知覚障害:下歯槽神経支配領域にみることあり.
咬合異常:骨折部のミリ単位の転位でも咬合は不正となり咀嚼が障害される.
治療
整復固定:非観血的療法:顎間固定:arch barや軟鋼線による連続歯牙結紮法を用い,上下顎歯列をはじめ,ゴム輪で,ついで軟鋼線で固定する.
観血的療法:
麻酔:全身麻酔を経鼻挿管で行う.
観血的整復:骨折部の固定は軟鋼線,キルシュナー鋼線,プレートなどを用いる.
顎間固定:
固定期間:顎間固定をはずすのは術後約4週,骨折部を固定したキルシュナー鋼線の抜去は約6週である.
参考文献:伊丹康人・西尾篤人(編),整形外科MOOK(16)「骨折」,金原出版