滅菌同種骨移植の実験的研究


要約


四肢・体幹の大きな骨欠損の再建に対して,欧米では凍結処理同種骨を用いた再建が多くの施設で行われている.しかし,我が国では無菌的に同種骨を大量入手することが非常に困難であるため,感染が危惧される切断肢などからの骨供給を考えねばならず,このような移植骨材においては,適切な滅菌処理が必要である.滅菌を施した同種骨の臨床応用が可能であれば,無菌的に骨採取が必要な凍結処理同種骨に代わる移植骨材として,大量の同種骨の供給が可能になると思われる.さらに,凍結処理同種骨移植の重大な合併症である移植後感染の発生も滅菌処理によって防ぐことが可能であると考える.そこで,著者は滅菌処理同種骨の移植抗原性や骨形成能について凍結処理同種骨と比較検討し,これらの移植骨としての有用性を探る目的で以下の実験を行った.まず,Wistar系ラットの大腿骨骨幹部を用いて,-80℃凍結処理骨,オートクレーブ処理骨(135℃,10分),エチレンオキサイドガス処理骨を作成した.これら処理骨の移植抗原性については皮膚脱落試験によって検討した.移植実験では,各処理骨をSD系ラットの大腿骨骨幹部に作成した骨欠損部に移植した.さらに,化学的操作を加えた脱灰凍結乾燥同種骨(autolysed antigen-extracted allogeneic bone)を各滅菌処理同種骨の周囲に移植した群も作成した.この5群に対して,各処理骨が母床と骨癒合していく過程をX線像,組織像,微小血管造影像,移植骨内への血管侵入率によって経時的に観察した.皮膚脱落試験の結果,滅菌処理骨の抗原性は凍結処理骨の抗原性と同程度まで低下していることが示された.骨癒合に関して,X線像で凍結処理骨では移植後8週目に,滅菌処理骨では各々移植後12週目に骨癒合がみられた.凍結処理骨の着床過程では,移植骨周囲の線維性結合織に軟骨や新生骨が誘導され,移植骨への血管侵入と共に移植骨への新生骨の添加や侵入が認められたことから,凍結処理骨は骨誘導能と骨伝導能を有することが示された.これに対して,滅菌処理骨の着床過程においては,凍結処理骨の場合と異なって移植骨周囲に骨誘導は認められず,移植骨への血管侵入と共に移植骨への新生骨の侵入が認められたことから,滅菌処理骨の着床には主に骨伝導が作用しているものと考えられた.また,移植骨への血管侵入率(母床の血管密度に対する移植骨の血管密度の比)においては,どの時期においても滅菌処理骨は凍結処理骨よりも血管侵入率が低かった.この原因としては,骨伝導能しか有しない滅菌処理骨では,凍結処理骨のような骨誘導能による骨伝導の促進効果が得られなかったためと考えられた.一方,滅菌処理骨に化学的操作を加えた脱灰凍結乾燥同種骨を移植した群では処理骨周囲の骨誘導能が高められ,結果的に化学的操作を加えた脱灰凍結乾燥同種骨非移植群に比べて,骨癒合や移植骨への血管侵入が促進されていた.以上から滅菌処理骨の着床は凍結処理骨よりも遅延がみられるものの,組織学的には十分な骨癒合が認められ,さらに移植骨への血管侵入や新生骨による移植骨の再置換が徐々に起こることが示された.このことは,塊状移植骨材として滅菌処理骨が十分に臨床応用できることを示唆するものである.また,滅菌処理骨周囲に骨誘導物質を加えることで,骨形成能の面では凍結処理骨に遜色のない移植骨材になり得るものと考えられた.

金沢大学十全医学界雑誌 第101号 第5号(平成4年10月)802-816(1992)

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