雑記帖 - 旅日記

No.9
2005夏~沖縄 その2「西表満喫特急コース」
絵:水陸両用
水陸両用

捕れたての魚と自家栽培の野菜に惹かれて選んだ「さわやか荘」も、満室だった筈が、キャンセルにつぐキャンセルで、残ったのは物好き夫婦が1客のみ。そう誰あろう、トぺこのふたりだけなんさー( 今考えてみると、1客のみでは、まったく迷惑だったと思うのです)。やあやあ、はるばる来ました西表の港には、民宿の名を大書した見送りの車は多けれど、お出迎えの車は、ぽつりぽつり。そのぽつりの一つ「さわやか荘」の案内版を掲げて手を振ってくれている男性が目に入ってやれ嬉し。

お迎えに来てくれた運転手さんは、大自然倶楽部の白いテーシャツがよく似合う50代の偉丈夫、と思ったのは早トチリで、後から知った実年齢は61歳。島の自然に魅せられ、東京から移住してしまったやまとんちゅうは、かつて自他共に認めるモーレツ社員で、出世街道をひたすらまっしぐら。大企業の支店長も務めて将来を約束されていた筈の人生も、ある日突然のリストラにあい、やむなく軌道修正を強いられた。もともと好きだった西表の自然に、生きる希望を見いだして家族共々やって来た。なんと元オールジャパンの野球選手という筋金入りのスポーツマンで、美しい白い歯がこぼれる笑顔が若々しくかつ優しい。

日頃、できれば運転は運動のデキルお方にと望んでいるので、すっかり安心して揺られていく。我々が、初めての西表と知ると「今日は1組だけなので時間に余裕がありますから」と、特別サービスで島巡りしてくれる。ここは秘密の海岸に抜ける道、ここは…、と車を止めて案内して下さる。のっけから嬉しい。

色白でまん丸ふくよか、どこか京都の「お福さん人形」を思わせるおかみさんに鍵を貰い部屋に飛び込んだ。日頃、10畳の和室にせんべい布団、寝ござに扇風機を愛用し、クーラーのない古家を、あっちにごろごろ、こっちにごろごろ。絶えがたい暑さの熱帯夜には、ぽこにゃんに並び、網戸に張り付かんばかりにびろ〜んと縁側に伸びきり風を感じるという自由自在な寝姿を楽しんでいるのが二人の暮らしのスタイル。普通サイズも柔らかめのベットも苦手ときているので、予約は広めの和室。築17年経過とは思えぬ清潔さ。お掃除が、手入れが、行き届いている。

さあさあ、のんびりしてはいられない。明日は確実に大型台風が直撃しそうだから、何が何でも今日の内にシュノーケリングも、ピナイサーラの滝トレッキングも、カヌーもやりたい。それに「年に1度でいいから珊瑚の海で熱帯魚と遊びたい、年に1度でいいからヨーロッパの氷河を滑りたい」というのが、分刻みの激務を毎日こなしているトさんのたっての願い。毎朝、鏡の前で、白髪と薄毛のダブルパンチに見舞われた頭をとかし、喉元の皺がトトコッコみたいだと首を伸ばしつつ鏡を覗き込んでいるトさんが、この頃益々愛しい。なんとか願いをかなえてあげなくては、とドングリ眼を更に見開き「ぜんぶやりたいのですっ!」と宿の方にお願いしたところ、切れ長の涼しげな目の息子さん、やや困惑気味のとまどいを左のこめかみに浮かべながら「そ・れ・でふぁ〜〜」と特別プライベートツアーを組んでもらえることになった。大急ぎで水着に着替え、その後の滝壺トレッキングのための着替えやストックも詰め込む。とにかく急げ、急げ。

まずは自己紹介「富山からきた遊び好き。こっちがトっちゃん、私がぺこちゃん。」
「じゃ、ぼくをアキちゃんと呼んで下さい」と実に察しがよい。
人影もまばらな星砂の浜は、意外と波も静か。熱帯魚たちが歓迎してくれた。「わぁ〜、こっちも、あれも、これも、すごい、すごい!」。ざっと数えて30種類。ついと出した人差し指を、えさだと思ってツンツン。食い気のはった大きめの魚はツンツンパクッ。1時間半飽くことなく潜り続けた。

お迎えの車が来る約束の時間までにお昼をすませる。「星の砂レストハウス」の八重山そばやゴーヤチャンプル定食がすこぶる美味しい。オリオンビールでぐびぐび喉をうるおし、タコの酢のもん追加して下さ〜い。

野田知佑さんを愛読していると、自然、カヌーに乗ってみたくなる。今回ついに夢見たカヌーが漕げるのだ。西表は高い山がないので流れが緩やか。初心者にはもってこいの川なのだ。「これくらいに手を広げ、左に漕ぐときは添えた右手をこんな具合に…」とアキちゃんの説明はとってもわかりよい。早速、マングローブの茂る川に漕ぎ出した。ぐぐぐっと手応え十分に意外とスムーズに進んでゆくではないか!ふふふっ。

Highslide JS
どんどこどこどこ
(2005-7-16 / ト)

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