雑記帖 - 旅日記

No.9
2005夏~沖縄 その4「台風で東奔西走」
絵:飛んでいくのー
飛んでいくのー

高台に建つさわやか荘は風当たりが強かった。目覚めてみると、ベランダのフェンスが一式吹き飛んでいたのだ。停電は続いている。雨風が少し落ち着いたところで、今日の宿日本最南端の温泉パイヌマヤリゾートを目指した。おじさんの運転で島の西の端に向かう道路を走って貰ったのだが、道路の植え込み街路樹があっちこっちで倒れこんでいる。山のない西表は崖崩れこそ無いが、台風の被害は甚大で、村ごと吹き飛ばしてしまったこともあったそうだ。大自然の懐に抱かれることは、厳しさに鍛えられることでもあるようだ。

ワイパーもきかないような雨をともなう突風を、ものともせずにたどり着いた温泉は、風で吹き飛んだ葉っぱや枝が辺り一面に散乱していた。全面ガラス張りのいわゆるひとつのリゾートホテルだが、館内はしぃ〜んとしている。2階建てで西表の自然にとけ込んだ筈の建築物も、これだけの突風には弱いようだ。 大きくて立派な吹き抜けのあるホールには、天井からの雨漏りを受けて、掃除バケツがぽつんと置かれている。キャンセルに次ぐキャンセルで30室満室だったお客様も6組のみ。「なお、停電のため外の露天風呂やプールは使えませんのでご了承下さい。お詫びの印に、果物やコーヒー紅茶はサービスさせていただきます」。なぬなぬ、マンゴーも食べ放題けと、いっぺんに元気になる。いつもはオプションツアーで外部からやってくる人達で満員の筈の温泉も、今日はおかげさまで独り占め。だれもいないことをいいことにゆったりつかって、そのうち泳ぎだしている人もいたとか。

Highslide JS
海の中ではありませぬ
(2005-7-18 / ト)

明くる朝、目覚めてみると、期待ほどには風が弱まっていない。「もしかして、この波では船が出ないのでは?」。もしそうなると予約してある飛行機の便に間に合わなくなる。一刻も早く飛行機の予約変更をしておかねばと受話器をとると、今度は電話が不通。フロントに走ると、「回線が不通になりました。外線への電話はフロントの電話1本のみが、現在つながっておりまぁ〜す」と、また暢気な調子。帰りたい宿泊客ばかりなのだ。それぞれメモ帳片手に順番待ち。一人で一回使うと交替。1本しかない電話なので、かかってくると勿論使えない。「それでは、パソコンを使わせて貰えませんか」と頼んでみるが、「これ、1台きりなので…」と、無理な様子。当然、空港へは何度かけても繋がらない。

「こりゃ、こまった。一年越しで食べてみたかった琉球料理が…」「ありゃ、こまった。何としても請福酒造にたどり着きたいのに…」。旅の間中、トさんは、サムさんから頂いた請福さん宛の紹介状を航空券よりも大切にしっかり握りしめている。それに何より、帰宅の翌日から仕事の予定がぎっしりで、こちらは変更やキャンセルするとなるとタイヘンだ。何としても飛行機チケットの変更を手配しておかねば、と焦れど電話は繋がらず。漸く事務所のぽこさんに連絡がついたものの「しょ〜がないにゃ」との返事。

そうこうするうちに、船が運行を再開することに決めたとの連絡がはいる。不安な面持ちだった6組の客の間にも、安堵の笑顔がこぼれる。その後に待ち受ける、船酔いの怖さは、乗ってから知るか、知ってから乗るか…。ホテルのバスにゆられて着いた港は、波まだたかし。「先発の船は、波が高くて港に近づけず、引き返してきました」「うっ」またまた、みんなの顔に不安がよぎる。「雨のたたきつける港なので、船の荷物が降りるまで、中で待ちましょうねぇ〜」と、ホテルのスタッフはここでもいたってのんびり。けれど、船の荷下ろしの際には率先して手伝って、そんな時には動作がきびきび。

50人乗りの高速艇の乗客は30人。「後ろの座席の方が揺れがすくないですよぉ」と言われて、皆順々に後ろから席に着く。ちょっとだけ華やいだ期待感をもちながら…。日頃高いところには強いが、上下の動き(例えばエレベーター)には弱いぺこは、やや表情が固く、いつでもなく口数が少ない。懸命に腹式呼吸を練習する。高いところは苦手だが、上下の動きは平気だというトさんは、いたって平静。ようやく乗り込んだ船は、「きをつけてぇ〜」と、見送られて動き出した。

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