雑記帖 - 旅日記

No.15
2007夏〜黒島 後編
絵:マンタ
あんがとよー

さて、みなさまお待ちかね?の失敗編。今回、トさんは、このところ、とみに薄くなってきた頭を保護すべく、凸輔夫婦が誕生日祝いに送ってくれた能登上布製の誂えの帽子をかぶっていきました。嬉しくて嬉しくて、聴かれなくても「息子夫婦からのプレゼントです」「能登上布の誂えです」と鼻広げていたのですが…。事件は、パナリ島シュノーケリングツァーの最後に待っていました。それはまさに黒島港に着く直前のこと。ひゅっと風に飛ばされた帽子が、まるで翼のあるが如く、真っ青な空に飛びたつ鳥のように、軽やかに飛んでいってしまったのさ〜。

あまりの出来事に固まったふたりは声も出ず、しばし波間を目で追うばかり。青い海に白い波しぶきをあげて走る高速艇はみるみる落下地点から遠ざかってゆくのでありました。しばらくして、ようやく我に返ったふたり「あっれ〜」。早速、船頭さんの将太兄弟がサバニをとばしてくれたのですが、時既に遅し。サハラ砂漠で宝探しをするようなもんでした。きっと今頃、ダンディーなマンタが得意そうにかむっているに違いない。

もちろん、失敗話はこんなものではすまされません。 出発前は、どうしてもしておかにゃならない仕事があれとこれとそれと。どうみても時間がたりないではないか。歳を顧みずビギンさんの陽気なリズムにあわせてエイサァ〜と毎日5時起きで、小さな菜園の草むしり、茄子やトマトの枝払いに精だして汗ぐっしょり。月初めとあれば、毎晩汗かきながらもしっかりタオルケットをかぶって寝るのが好きなトさんなので、洗ってさっぱりさせたい布団関連も山盛りのてんこ盛り。私が担当している分の仕事の手配もしなくちゃいけない。

出発前夜まで、ふたりして9時近くまで事務所で仕事をこなしてよれよれになって帰宅。なんとか旅行鞄の回りに着替えや水泳グッズを積み上げたと思ったら、出発当日に日付が変更してしまっていた。慌てて布団に倒れ込み、はっと目が覚めると、もう明るい。「トさん、トさん、たいへん!寝過ごしたがいね!」「汽車の時間まで、30分ないがいねっ!」

がばっと跳ね起きるや、どたばたどたばた、じたばたじたばた、家中走り回るふたり。とにかく、鞄のまわりにあるものをそれっと詰め込み押さえつけ、鞄をひっつかんで出発した。汗をかきかき、汽車に乗り込み、何とか座席におさまって、何事にも慎重でおさおさ怠りない?ぺこは、機内持ち込み荷物を一応確認…。
「あじゃぁ〜、どうしてこんな洗濯もんが鞄に入っとんがけ!」
「ありゃ〜、どうして携帯防虫セットはいっとらんがけ!」
「あれれっ、なんでこっちに携帯ナイフと爪切りはいっとんがけ!」

持ってきちゃった(あるいは持ってこなかった)ものは、もおしょうがない。はたとお腹が空いている事に気がついた二人は、前日のうちに用意しておいた芝寿司をほうばり、お茶を飲み、お腹が重くなると瞼も重くなるという自然の法則に従ってシートに身体を埋めて爆睡。携帯ナイフや爪切りを、「ぴぃ〜」と不快な音を出すあの憎たらしい検査機械にキャッチされないために、預ける鞄に収納せんとて手に握りしめたまでは記憶があるのだが…。

汽車はあっというまに大阪に到着、ここでもまたもや、はったと立ち上がり、電車を乗り換え、空港にたどり着いた時には、間に合った安堵で、ナイフも爪切りもすっかり記憶のかなた…。という訳で、家族揃ってのスキー旅行の記念にスイスで求めた愛用の携帯アーミーナイフ(ご丁寧に名前を彫り込んで貰った)とゾウリンゲン製の小型爪切りを汽車の座席に置き忘れたまま、なぜか洗濯物で膨らんだ鞄を引き摺りつつ、旅は始まったのでありました。

そんなこんなで、無事で還ることなんて、わしら二人には毎度ありえないのだ。 トラベルの語源てトラブルだったっけ?

文 ト・ぺこ 編・絵 ぽこ