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お茶のコップ
 暑くなってきたので、クラスにお茶を置くことにしました。そのときに、ひとつみんなとある約束をしたのです。それはこんな約束でした。お茶を自由に飲んでいいけれど、飲んだら、次の人がまた使えるように、自分が使ったコップはきれいに洗って、水を切って、もとにもどしておこうね。
 コップ洗ってくれるかな?少しはらはらしながらいたのには理由がありました。
 毎日の学校生活を送る上で、いくつかみんなにしてほしいと思うことが出てきました。でも、それは、もしかしたら、小学校や小学部のあいだはまだ、小さくて、してこなかったことかもしれないし、もしかしたら、小学校や小学部のあいだには、ちゃんとできていても、ここでは、しなくてもいいのかなと思ったことなのかもしれません。
 ひとつひとつはとても小さなことなのです。たとえば、朝学校へ来て、着替えをします。スカートや制服を脱いで、ロッカーにつっこんでおくのは、らくだけど、でも、あとでしわくちゃになったスカートをはかなくてはいけなくなります。だから、「かならず着替えをしたら、スカートをかけておくことにしようね・・・ 」私はそう言いたいのだけど、子ども達にも、言い分があります。「しわくちゃでも、困らない・・・」でも、私の言い分は「しわがない方がかっこいい・・・」です。
 朝の会のときに、朝の会が始まっているのだけど、仲の良い、3人はまだ、手をつないだり、お話をしたり、たたいておいかけっこをしたりしていることがあります。私は「誰かが(お当番さんだったり、教員だったり、友達だったり)みんなに対して、一生懸命お話をしているときは、その一生懸命さに対して、やっぱり聞く方も、一生懸命向き合おう」と言いたいのです。それで、そのことを、大きな声で怒るわけではないけれど、でも、譲ることなく伝えたいと思うのです。しつこいと思われようと、がんこものだと言われようと、そうしてほしいと言いたいのです。
 掃除の時間が始まると、さあ、掃除だよというけれど、なぜか、3人のうちの二人が暖房の上にすわって、ほうきを放り出してしまいます。本当は掃除がしたくないというような理由じゃないのかもしれません。どんなふうに私をうけとめてもられるのだろうと、知りたいから、ちょっとわがままを言ってみるのかもしれないし、それから、もし、掃除をしないで、昼休みのまま楽しくいたいなという気持ちかもしれないし、あるいは、掃除をしようね、しないよというやりとりを楽しみたいのかもしれない・・・何かきっと理由があるのだけど、座って、二人で笑いあっていたりするのです。そんなときも、やっぱりがんこものの私は、「掃除の時間は掃除をしてほしい」「遊ぶときは思い切り遊んだらいいけれど、掃除の時間はしっかり掃除をしてほしい」という思いはゆずれないのです。気持ちを伝えるというとかっこいいけれど、ときには追いかけていって、教室にひっぱってきて、ほうきを手渡して、また逃げていったのを追いかけて、つかまえてきて・・・そんなこともあったのです。
 帰りの会で、体操服をかばんに入れます。そのとき、私はやっぱり、脱いだまま、裏に返ったままの体操服をかばんにつっこんでおしまいなのは、うれしくないなあと思います。お母さんや寄宿舎の先生がまた表に返したりするのは大変だから、ちゃんと表に返してたたんで持って帰ろう・・・それが私の言い分です。そして子ども達の言い分は、「そのままにして帰っても、お母さんや先生がしてくれるから大丈夫だもん」かもしれないし、もしかしたら思春期なので、「やろうと思ったけど、そんなこというならやめる」って思っているのかもしれません。
 休み時間や、それから授業の中でも、私たちは本当に仲良しで、朝一番に学校に来て、私に「おはよう」って抱きついてきてくれて、それで、みんな一緒に笑い転げています。けれど、してほしいと思うことがあるときは、私、真剣にそのことを話したいし、伝えたいのです。・・・みんないろいろな思いがあるだろうけど、譲れないことは譲れない。
 毎日の繰り返しの中で、3人は少しずつ、私の思いをくんでくれるようになってきました。その一番の理由は3人のやさしさにあるのだと思います。そんなに言うのなら、しかたがないとみんなが譲ってくれているのだと思います。
 最初にお茶を出したとき、「自分で洗ってこようね」というと、3人が口々に「いやだ!」と言いました。「洗うのはお母さん、だから先生が洗う」と言いました。
 だから、お茶を教室に置いたときに、次の人がいつでも飲めるようにコップを洗ってねと言ったときに、みんなどういうかなととても心配でした。でも、そっと見ていると、みんなとても自然にコップを洗って、そこに置いてくれています。ほっとして、そして、ああうれしい・・と思っています。
 こうして、気持ちを伝えあっていくうちに、なんだか心がつながりあってきたなと感じてもいるのです。



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