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私このごろスポーツ大好きです。

私、このごろ陸上が大好きです。残念ながら、自分が走ったり、投げたりというのはやっぱりむずかしいのです。だって、自慢じゃないけれど(もちろん自慢になんてなるものですか)高校の時に、50メートル走は13秒2でした。100メートルの記録なの?と聞かれそうだけど、50メートル。一生懸命走っての記録です。走り幅跳びは、記録は忘れたけれど、1メートルを大きく下回ったのは私だけだったような気がします。砲丸投げに到っては、手を離れたとたん、ぼとんと砲丸が下に落ちて、それが、丸い円からも出なかったので、失格になりました。そんな私だから、連合運動会みたいなもので、陸上競技場に行くことはあっても、いつも暗い気持ちでいて、楽しいなどと感じたこともなく、友人の走ったり投げたり跳んだりを見る余裕もありませんでした。
 ところがこのごろ、陸上を見るのがすごく好きになりました。きっかけは本校の陸上部が、地区予選会に出場したのを応援に行ったことでした。3年生の陸上部の生徒さんが「先生、応援にくるか?」と声をかけてくれたのです。実はその生徒さんから「応援に来て。僕のかっこいい姿を見て」と言ってもらったのは、始めてではありませんでした。けれど、ちょうどそのとき、試合当日の土日に、予定が入っていて行けなかったことと、もし、予定がなくても、もしかしたら陸上が苦手で、出かけると、走る順番を待つドキドキやみんながゴールした後、まだまだゴールが遠く、そのときにたくさんの視線が私に集まっていてその恥ずかしさを思い出すのが嫌だったり、それから、さそってくれたのが自分の学年のお子さんでなかったというような気持ちもどこかにあったのかもしれません。
 けれど、今回は当日になって、出かけようと思い立ったのでした。当日になって思い立つくらいなので、(陸上部の子ども達が一生懸命練習しているというのに)場所もわからず、電話で、聞く始末でした。
 さわやかなお天気の日でした。陸上競技場はコロシアムのように、すりばちの形をしていました。そのせいか、まるでその場所だけが包み込まれて、ここだけは周りの世界と違うように感じられました。さわやかな初夏の風がとてもここちよく吹いていました。
 陸上部の生徒さんは800メートルに出場することになっていました。
 800メートルの出場だったのですが、800メートルの競技って簡単じゃないなあと思いました。最初、1
レーンから9レーンまでスタートする位置が、少しずつずれていて、しばらくレーンのとおりに走って、そのうち、みんな内側を走るのですね。そんなことだって、よく考えたら簡単なことじゃないと思います。いったいどこまでがレーンの通りなのか、人をぬいてもいいのか、抜くときにはどうしたらいいのか、それから、スタートだって、そんなに簡単じゃない・・・その説明を陸上の顧問のひろ先生が、ひとつひとつていねいに説明しておられて、子ども達も不安を打ち消そうとしてだと思うのだけど、ひろ先生の言葉を確かめるように、「(グランドを)二週走る。途中はとまらず、一生懸命走る」「『用意』で緑の線のところに行く、緑の線は踏みません」「どんがなったら走ります」「一番でもいい、ビリになってもいい・・抜いてもいい、抜かなくてもいい・・でもいつも一生懸命走る」と口に出して何度も確かめていました。そして、あの広いグランドを二周・・・私もすごくドキドキしていて、完走し終わったとき、二人に駆け寄りたいくらいでした。ひろ先生が、子ども達の顔をのぞきこむようにして、伝えておられたことを、子ども達はしっかりと受け止めていました。
 陸上を見に行ったことを連絡帳に書かせていただいたら、寄宿舎の先生からお返事をいただきました。「子ども達と夜、体育館で一緒にドッチボールをしました。むずかしいお子さんも多くて、まざっていればいいと、そう思ってしまっていたけれど、ていねいにひとつひとつ指導することが大切なんだと連絡帳を読んで思いました」
 ああ、本当にそうだなあと思いました。子ども達はきっと走ることがどんなに楽しいことでしょう。そして、試合もまた、どんなに楽しく誇らしいことだろうと思いました。
 アシックスから出しておられる高橋尚子さんのフォトカードを10種類、知り合いの方が送って下さいました。RUN WITH YOUの文字と、尚子さんが、懸命にかけていたり、にこやかに駆けていたり、それから、犬を抱いていたりのとてもさわやかで可愛い写真が載っているのです。そのカードの中に「くるしい、けど、たのしい、くるしい、けど、たのしい、くるしい、けど、たのしい、くるしいけど、たの」と書かれたカードがありました。きっと子ども達も、ときには苦しいこともあるだろうけれど、きっとすごく楽しいんだろうなと思いました。ゴールしたあと「見た?」「どうだった?」と駆け寄ってくれた生徒さんの輝くような笑顔は、走ることは楽しいよ、うれしいよと教えてくれていました。 それはとりもなおさず、先生が、子ども達一人一人にしっかりと光をあてておられるからだなあ、だから、輝いているんだなあと思いました。そのポストカードを今、学校の仕事机の前のよく見えるところに並べて貼ってあります。今度子ども達の試合を見に行けるのは、30日。とても楽しみです。
 同じ事を思ったのが、体育交歓会のフットベースボールの練習です。
 前に一度、体育館で風船ボールをネットをはさんで、やりとりをするゲームをしたことがあるのですが、メンバーがフットベースボールと同じだったものだから、ふーん、フットベースボールって、ドッチボールみたいなんだなあと思って、尋ねたら、「これは、フットベースボールじゃないよ。おまけにドッチボールでもない。風船バレーだよ」って・・・私、それくらいそのスポーツが何なのかということもわからないのですけれど。
 だから、フットベールボールってどんなかな?私も担当に入っているけれど、ちゃんと一緒にやっていけるかなととても不安でした。ゆかちゃんやかなちゃんやみいちゃんだって、それから他のメンバーだって、まだ一年生だから、フットベースボールの経験もないから不安だっただろうと思うのです。そんな私たちがたった3回の練習で、どうやってゲームができるようになるのかなと思ったのです。
 指導してくださってるのは、陸上と同じひろ先生。
 「まずはキャッチボールの練習をしよう」
 二つに分かれて列をついて、最初は2メートルくらいしか離れていないところから、バレーボールのようなボールを投げて取る練習をしました。(フットと言っているけれど、どうやら、取るときは手で取るらしい)ボールが飛んでくるだけで、小さいときから思わず逃げることが身に付いていて、それを取るなんてことをしてこなかった私だけど、2メートルなら、とれるかもしれない・・みんなにとっても、2メートルの距離がよかったのか、かなちゃんが胸のところでしっかり受け止め、みいちゃんも、ワンバウンドでボールをとり、ゆかちゃんも、やっぱりすぐにワンバウンドでボールを受け止めて、向かい側にいる友達にボールを投げていました。ひろ先生はそのたびに、かなちゃんうまいなあ・・・みいちゃんいいねえ・・・ゆかちゃん、がんばってる!!って声をかけてくださいました。そして、だんだんとその間の距離を伸ばしていきました。
 その次は足でボールを蹴る練習(どうやら、ピッチャーはボールをバッターにころころところがし、バッターはそれを足で蹴るらしいということがわかりました)です。でも、それだってそんなに簡単なことじゃないですよね。転がってきたボールを、決まったゾーンの中に入ったときに、やっぱり決められたゾーンの中で、蹴るのです。動いてくるボール、まず手か足でしっかりとめてから、蹴りたくなるのが人情だけど、それはだめなのだそうです。でもどうしても一度、手で止めてしまう男の子には、ひろ先生は、ひざをついて、その男の足を手で持って、ボールがころがってくると、はい今、こうやって蹴るんだよと、男の子の顔を見あげて、教えておられました。そして、蹴ったら、こっちへ走るんだよって。
 その練習が終わった頃に、cグループから、試合をしようと声がかかりました。(私たちはDグループなのです)。え!?試合?試合なんてできるの?
 でも、たったこれだけの練習の間に、どの守備には誰がいいんじゃないかということをひろ先生はちゃんと考えておられたようでした。「はい、君がピッチャーだよ」「君が一塁だよ」みいちゃんとゆかちゃんとかなちゃんが、なんという名前の守備位置になったのかは、残念ながら、私がよくわかっていないために、わかりません。私にわかったことは、ボールを取ったら、一塁に投げるということだけ。でもゲームをしていくうちに、細かなルールも、少しずつわかってきたように思います。ゲームの間中、失敗しても、決して、先生は「だめだよ」なんてことはおっしゃいませんでした。「もうちょっとだったね。大丈夫」「今のがいい。その調子だね」「こういうときはこっちへ投げよう」
 先生の言葉を聞いているうちに、私は小さいときにスポーツが好きでなかったのは、「叱られちゃうのじゃないか」「迷惑をかけてるんじゃないか」「こんなでは恥ずかしいのじゃないか」ってそんなことばかり思っていたからだと思いました。今こんなに練習が楽しいのは、そして子ども達が、楽しそうにしているのは、そういう不安や劣等感からぜんぜん違うところに、この練習があるからじゃないかなと思いました。
 終わってから、ひろ先生に「すごく楽しかっです」とお話したら、先生は「僕はスポーツの楽しさを少しでも体験してくれたといつも思って前にたっています。生徒にはもちろん先生方にもです」とおっしゃいました。
 大事なことは本当はどの勉強でも同じなのかもしれません。先生の姿勢が、子ども達をとても前向きにさせているんだなと思いました。
 陸上・・・残念ながら走ったり、投げたりはできないのです・・って書いたけど、私もスポーツがとてもしたくなりました。



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