月刊「寺門興隆」2001年10月号 より抜粋
“住職が裁判所に申し立てた
  本山の懇志金問題が和解に

 

 本山に納める懇志金の割り当て基準をめぐつて三人の住職が、自らが所属する教務所長と組長を相手取り、簡易裁判所に調停を申し立てた−ご記憶だろうか。
本誌4月号でお伝えした真宗大谷派の懇志金(経常費)問題である。
この調停が去る六月二十八日に成立したのである。
 今年一月、大津簡易裁判所に調停を申し立てたのは滋賀県大津市にある真宗大谷派長蓮寺の川端裕敬住職(四十二歳)と専称寺の西川義光住職(五十歳)、龍華寺の村木龍海住職(四十九歳) の三人。
いずれも同派京都教区近江第一組に属する住職だ。

 一方の相手方は、同派京都教務所の大橋順晋所長と近江第一組の笠沼和雄組長の二人。
調停は今年の三月から四回開かれた。

 双方で合意された調停条項は要旨次のとおり。

 「組長は申立人ら三力寺の門徒に平成十年度以前の本山経常費割当について書面で謝罪する。
 平成十三年度以降の経常費割当は平成十年度以前の基準を使わずに、また、組長の職権によることなく公義公論の立場で話し合いをして決定する。
 本山経常費御依頼の性格は、あくまでも懇志として納めていただくものであると確認する」

三人の住職の要望に沿った和解になったのである。

義務金とされた懇志金

問題の中心となった経常費とは「御依頼金」とも呼ばれている懇志金の一つ。
宗派に納める賦課金とは別に、この経常費が毎年末寺に課せられているのだ。
懇志≠ニ名前がつくからには、その金額も寺院の裁量に任されているように思えるのだが、それが違うのである。
経常費の納入依頼は、本山(東本願寺)1教区1組1末寺1門徒の順で下りてくる。
この中で教区が経常費を義務金とし、全国に三十カ所ある大谷派教務所の多くも同様に扱っているという。

 川端住職らが属する京都教区(約四百力寺)も義務金とし、教区から依頼を受けた組の中で、各寺が拠出する経常費の額を決めているという。
実際、経常費を納入しなければ、住職交代や得度などの諸願事に支障をきたすこともあったらしい。
調停を申し立てたいきさつ川端住職たちがこうした懇志金に疑問を持ったいきさつは以下のとおり。
今から七年前、川端住職が経常費の納入を門徒にお願いしたところ、逆に「その金額の根拠はどういうものですか」と指摘されてしまった。

 これを機に川端住職は過去の経常費を公開するよう近江第一組に求め、実際に閲覧するが、どういう基準で経常費が割り当てられているか分からなかった。
 ところで、近江第一組は平成十一年、組会で各寺が自主申告した門徒の戸数を基準にして経常費を割り当てることを決めた。
これには川端住職らも「誰にも分かる基準」と納得していた。

 だが、昨夏に開かれた組会で前年に決められた自主申告による割り当てが白紙撤回されたのである。
当然、川端住職らはその場で説明を求めたが、それに関する質問は打ち切られた。
仕方なく川端住職が組長らに過去の経常費について質問したところ、「経常費の割当は組長の職権」との返答を受けたという。

 この対応に憤った川端住職らは組長や教務所長に抗議と質問の文書を出したのだ。
しかし、満足いく回答が得られなかったとして、あえて今年一月、裁判所に調停を申し立てたのである。

 西川住職は調停をこう振り返る。
「調停を重ねるうちに、相手方の対応が誠実なものに変わっていきました。
教務所長さんが問題の理解ができていなかった≠ニ言われましたが、その通りだったと思います」

 近江第一組における経常費問題は区切りがついた形になった。 ・・・〔以下略〕