第1回裁判


答 弁 書
(本山側)

第1 本案前の申立て

1 原告の訴えを却下する

2 訴訟費用は原告の負担とする


第2 本案前の申立ての理由

1 はじめに

(1)被告真宗大谷派能登教務所(以下「被告教務所」という。)は被告真宗大谷派の地方執行機関にすぎないため当事者能力を有せず,被告教務所に対する訴えは不適法である。

(2〉また,本件訴えは,宗教団体である被告真宗大谷派がその自治によって決定すべき事項であり,司法判断に適さないのであって,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」にあたらず不適法である。

2 被告真宗大谷派能登教務所の当事者能力

被告真宗大谷派内において,教務所は別院や普通寺院のように法人格を有する独立した宗教法人ではない。
被告真宗大谷派の地方組織については,「地方の宗務を運営するため,全国を教区に分け,各教区に教務所長を置き,教務所を設ける」とされており(真宗大谷派宗憲第60条第1項,乙1),また地方宗務の運営に関し,教務所等の「地方宗務機関は,宗会の議決に基づく宗務執行の方針に則り,地方の特性に適応して,教学の振興と宗門の発展に寄与するよう努めなければならない。」とされている(同宗憲第65条)。
さらに,教務所長の権限,任免権の所在についても,「教務所長は宗務総長の監督を受けて,教区内の諸般事務を掌理し」(宗務職制第22条,乙2),また教務所長を含む「宗務役員の任免は,この条例により宗務総長が行う」(宗務職制第19条第2項)とされている。
かかる宗憲及び宗務職制上の記載から,教務所は被告真宗大谷派の最高議決機関である宗会の議決に基づく方針に則り,地方における宗務を執行する機関であり,また教務所長は,被告真宗大谷派の宗務執行の権限を有する宗務総長の任命により当該教区の諸般の事務を掌理する役職であることが分かる。
このように,被告教務所は,被告真宗大谷派の一教区内の地方宗務を執行する機関であり,団体としての主要な組識は有しておらず,その運営,権限面においても被告真宗大谷派の宗務執行の方針に従うことが前提となっており,教務所長の任免,教務所の運営等の点で自主独立性を有しないのであるから,訴訟における当事者としての能力を有しないことは明らかである。
したがって,原告の被告教務所に対する訴えは不適法であり,却下されるべきである。

3 「経常費」「蓮如上人500回御遠忌懇志金」の位置づけ

(1)「経常費」の位置づけ

「経常費」とは,被告真宗大谷派が宗祖親鸞聖人の立教開宗の精神に則り,教法を宣布し,儀式を執行し,その他教化に必要な事業を行い,もって同朋社会を実現するために必要な経費(運営費)として,毎年全国30教区に御依頼し,その依頼に応じた門徒が本願念仏の教えに出遇えた歓喜と謝念に基づき納金する相続講金・同朋会員志金・懇志金等の浄財の総称であって被告真宗大谷派の主要財源である。
このように経常費は使途の点で被告真宗大谷派の教法,儀式,教化事業等と不可分であり,また財源の拠出方法の点においても門徒の自発的な信仰心に支えられており,極めて強い宗教性を有するものであって,宗派の高度な政治的自治的判断に基づいて決定されるものである。

(2)「蓮如上人500回御遠忌懇志金」の位置づけ

また「蓮如上人500回御遠忌懇志金」とは,被告真宗大谷派が平成10年に厳修した本願寺第8代蓮如上人の500回御遠忌法要及びその記念事業を行うにあたり,全国30教区に平成6年度に御依頼し,平成9年産までの4カ年度に亘って納金された浄財である。
かかる蓮如上人500回御遠忌懇志金は,使途が蓮如上人の法要及びその記念事業資金であり,また財源の拠出方泣の点においても門徒の自発的な信仰心に支えられていることから、経常費と同様,極めて強い宗教性を有するものであって,宗派の高度な政治的自治的判断に基づいて決定されるものである。
仮に原告の訴えが司法判断の対象となるならば,その判断過程において,被告真宗大谷派の教法・儀式・教化事業の在り方,蓮如上人に対する法要やその記念事業の在り方,財源を拠出する門徒の信仰心等に踏み込まざるをえず,ひいては宗教団体の自治の存立にも影響しかねない。
判例上も宗教上の教義の解釈にわたる事項等宗教団体が本来その自治によって決定すべき事項については,司法審査の対象とならないとされている(最高栽昭和44年7月10日判決・民集23巻8号1423頁[銀閣寺事件],最高裁昭和56年4月7日判決・民集35巻3号443頁[板まんだら事件],最高栽平成元年9月8日判決・民集43巻8号889頁[蓮華寺事件]外)。

4 被告らによる自治的解決

経常費や蓮如上人500回御遠忌懇志金のあり方は,専ら被告らの自治的解決に委ねられるべきものである。
現に被告教務所は,御依頼門徒戸数調査特別委員会を設置し,御依頼のあり方,門徒戸数の調査等を答申している。
また仮に原告がこれら御依頼金の納入を怠った場合,原告の願事が停止される可能性は否定できないものの,願事を停止するかどうかの判断も,また宗教的な意味合いを有するものであって,その可能性をもって本件が「法律上の争訟」であるということもできない。

5 まとめ

以上の通り,被告教務所は当事者能力を欠き,また原告の訴えは「法律上の争訟」に属せず不適法であることは明らかであるので、本件訴えについては却下されるべきである。