02/08/18

自治体職員とともに考える


 京都に移ってきてから、職務のうちで一番大きく変わったのが、自治体職員の法令実務研修を担当するようになったことだ。

 平成12年4月から地方分権一括法の施行に伴い、従来の国と自治体の関係がタテの関係から対等平等な関係に変わった。機関委任事務が廃止されたことに伴い、自治体が条例を制定できる範囲も広がったし、国からモデル条例・条例準則がしめされることもなくなった。また、住民の権利義務に関するものは首長の規則では制定できなくなったので、条例で制定しなければならない範囲も広がった。そのため、「条例をつくる」という課題に直面する自治体が増えた。従来、条例つくりと言うと、「法制執務」という名称で、「及び」と「並びに」の使い分けの仕方とか、条例の一部改正の「とけ込み方式」とか、極めて技術的なことを教えることが多かった。

 でも、私の担当する条例つくりの法令実務研修は、そういった技術的なことよりも(というか、弁護士の職業柄、そういった技術的なことは疎いという方が正確だ)、政策と法務の架け橋を裁判実務の観点から行うという政策法務的な内容のものとなっている。もう少し言うと、市民サイドで行政訴訟をしてきた経験から、市民の目と裁判実務の視点から政策法務を見据えた研修内容となっている。


 研修を担当していて思うことは、専門分化した当該実務分野に関しては、圧倒的に自治体職員の方が知識(法律の知識を含む)・経験とも豊富なこと。だから、当該実務分野のことは、職員の方から学ばせてもらうことにしている。それに対して、私が教えられるのは、それぞれの実務分野が裁判になったらどうなるか(訴訟に耐えられるか)、あるいは他の実務分野の知識に照らすとどうなるか(総合性複眼性)、という視点だ。

 残念に思うのは、法令の研修が体系的に行われていないこと。講師任せはもちろんのこと、地方分権一括法の施行に伴う分権時代の基本的な自治法の研修もなされていないことが多いことである。近時の地方財政難の影響は、まず職員研修に現れていると聞くが、そのせいだろうか。

 市民の目から見ていると、「地方分権」と騒がれた割には、日常生活に何の変化もないのは、そもそも「地方分権」が中央省庁の都合・財政難から強力に進められたことにもよる(平成の市町村大合併の推進や、近時の住民基本台帳ネットワークの強行は、まさにその典型例である)が、基本のところでは、自治体職員自身が「分権」ということを自覚していないからではないかと思われる。自治体職員としての最低限の法的素養の修得が体系的組織的になされない限り、自治体における「法治行政」「法の支配」の実現、さらには住民自治の視点に立った地方自治(そもそも地方自治の本旨は、団体自治と住民自治の両方をその要素とするものであるのに、往々にして「住民自治」が欠落しているために、あえて住民自治を強調しなければならない)は、不可能ではないだろうか。


 (以下続く)

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