03/08/15記

産廃事件について思う


 弁護士をしていると困ったことに出くわす。困ったことの一つとして、利益状況が反対の事件を受任することがある。
 福井市内の産業廃棄物中間処理場建設反対の住民から依頼を受けたことがある。これは、下水処理場から排出される下水汚泥(これも産業廃棄物だ。ついでに言うと、豆腐屋が出すおからも産業廃棄物だと最高裁判例は言う。でも、私たちが食用にしているものがどうして産業廃棄物なのだろうと素朴に感じる)や建設廃材を炭化炉で焼却処理して燃料にする施設だと言う。日本でも最新の設備を設置すると言う。このような施設を福井市のはずれの農村地帯に作ることが計画された。下水汚泥をダンプカーに積んで運んでくるのだから、道中にばらまかれるのではないか。異臭・煙はどうなのか。そもそも日本でもまだ本格稼働したことはない施設だというのだから、安全面に本当に心配はないのか。案の定、施設の試運転の時に爆音や煙の排出があり、住民の不安は一層かき立てられた。廃掃法の上では適法だと言うのだが、一定規模以下の中間処理施設には法の規制は全くと言ってないから、適法だと言われても、住民としては安心できない。そこで、業者を無許可開発で告発したり(都市計画法上の開発許可や林地の開発許可をとる前に、山林を伐採し、山林の区画形質を変更した)、県の廃棄物対策課に相談に行ったり、市や県に処理施設の情報公開請求をしたり、考えられる限りの手を尽くして建設阻止のための法的助言を行った。

 しかし、この手の事件は、法的には解決が難しい。訴訟の場に持ち込もうとしても、近隣住民には産業廃棄物処理施設の設置許可や産業廃棄物処理業の許可を争おうとしても、取消訴訟の原告適格がないとされ、訴訟の土俵にも上がらせてもらえない(だからこそ、今、行政事件訴訟法を改正して、原告適格の認められる範囲を拡大して、この手の事件もせめて訴訟の土俵に上がらせるようにしようとしている)。公害調停という手も考えられたが、実際に申し立てた経験もないから、実効性がどこまであるのか分からない。幸いにして、この事件の場合は、業者の設置した処理施設の欠陥のために、本格的に操業するに至っていない。しかし、また新しい業者がこの施設を買い受けて稼働させようというたくらみがあるという・・・


 ところで、産業廃棄物処理施設は、住民からは設置を嫌われる嫌忌施設の一つだ。でも、産業廃棄物処理施設は、どこかに設置しなければならない。毎日、生活をしていると、ゴミが大量に出る。そもそも世の中全体が、ゴミを出すことを前提にして動いている。消費生活はゴミと直結している。一般家庭が出すゴミは一般廃棄物だが、ゴミ焼却場で焼却した後の焼却灰は、産業廃棄物だ。それに、いくらゴミを出さないで生活しても、トイレにだけは行かざるを得ない。下水処理をした後の下水汚泥は、さっきも言ったとおり、産業廃棄物だ。そうすると、ゴミを出さないでおこうと思うと、生きていくことはできない。産業廃棄物処理施設は、必要不可欠だ。だったら、いかに安全で、いかに周辺環境に影響を与えない処理施設を作るか、そして常に監視して、周辺環境に影響が出た場合には直ちに操業を停止して影響を除去するシステムを作るしかないのではないか。そういうシステムができるのであれば、住民には影響はない。しかし、そういうシステムが本当にできるのか。仮にできるとしても、その施設を受け入れる住民への説明と納得を取り付けるべきだろう。それが民主主義的な廃棄物処理システムだ。


 そう思っているときに、ちょうど逆の立場からの依頼が来た。永平寺町の産業廃棄物中間処理施設の業者からの相談だ。前の経営者が随分ひどいことをやっていたらしく、中間処理業の許可しか得ていないのに、その土地に廃棄物を埋設したり、特別管理扱いの産業廃棄物を許可を得ずに処理していたらしいのだ。私の所に相談に来た業者は、その実態を正確に把握しないまま前の経営者から会社の経営権を譲り受けた。地権者や付近住民からの反対も強いが、操業を再開継続したいというのだ。そこで、私は、依頼者が処理したものではないが、無許可埋設廃棄物も自社負担で適正に処理する考えがあるかを聞いた。そうしたら、操業の再開継続を認めてもらえるのであれば、4、5年の期間をもらえれば、適正処理するという。産業廃棄物処分業が民間企業である以上は、その利益の範囲内で処分するしかしようがない。そのための4、5年だ。廃掃法もそのことは予定しているはずだ。というのは、利益以上のことをしろというのであれば、それは自治体が採算を度外視して、税金で行うしかないが、廃掃法は、産業廃棄物処理を民間企業が行うことを予定しているからだ。
 私は、ここであれば、他の産業廃物中間処理業者のような違法操業を行うのではなく、公害防止協定を締結して、地権者・周辺住民と業者が「地域環境保全委員会」の様な組織を構成し、月に1回は処分場の現地視察を行いながら、監視をし(処分場内外に観測井戸のようなものも設け、環境データを収集分析する)、違法操業や周辺環境への影響が認められれば、即時に操業を一時停止して、影響の除外措置をとるようなシステムを構築できるのではないかと思った。業者には、それに協力する姿勢があった。そこで、地権者からの申し入れに応じて、数回にわたり、地権者・周辺住民による処分場内の立入・掘削を行った。業者は、埋設廃棄物処理に4、5年はかかると言っていた(実際に、適正処理費用を試算させると、1億円近い数字が出てくるのであって、それを利益の範囲内で行おうとすると、それくらいの時間はどうしても必要になってこよう)が、地権者が1年以内で行ってほしいというので、それも業者に了解させた。

 ところが、地権者も周辺住民も、業者が中間処理業の範囲を拡張することは一切認めないと言う。それでは、利益が上がらない。その平行線の中で、結局、業者は違法行為を行い、撤退していくことになった。これも民主主義の帰結だろう。いかに完璧なシステムだと思っていても、その確証はないし、民主主義の下では、住民にそれが受け入れられて初めて完璧なシステムとなる。住民から受け入れられないのであれば、撤退するしかない。それは、業者の場合であっても、行政の場合であっても、同じだ。ところが、それを理解していないから、次から次に紛争が発生する。最近また私が受任することになった、魚あら処理施設に関する福井県と業者も、その1例だ。福井空港拡張問題のときと同じ誤りを福井県は繰り返している。哀しい限りだ。(
事案の内容