行政事件訴訟法の改正要綱案

第一 改正の必要性と視点

一 はじめに


 現行行政事件訴訟法は、2000年現在、制定以来38年経過している。その間主要な改正はなされていない。
 その後、次項に述べるように、行政改革会議の最終報告が出され、内閣に司法制度改革審議会が設置された。それに伴い、日弁連でも司法改革推進センターに、「行政事件訴訟法改正等推進協議会議」が設置された。そこで、法改正の必要性、視点、あり方について学者との研究会やドイツ・フランスの制度の現地調査などを行い行政事件訴訟法の改正試案要綱を策定した。
 それに基づいて、同法の改正案を提言する。

二 改正の必要性


1 行政改革からみた必要性
 1997年12月に行政改革会議の最終報告が出された。そこでは、「戦後型行政システムを根本的に改め、自由かつ公正な社会を形成し、そのための重要な国家機能を有効かつ適切に遂行するにふさわしい、簡素にして効率的かつ透明な政府を実現することにある」としている。
 また、「権力分立ないし抑制均衡のシステムに対する適正な配慮」を必要としている。これには司法権による法の支配の観点からの行政権のチェックが含まれる。これは「司法改革」の問題であるともいえる。
 この場においても、従来「法の支配」の例外とされ、司法が介入をさけてきた「行政裁量」についても、「アカウンタビリティ=説明責任」の観点から司法の介入が必要とされることになる。

2 司法改革からみた必要性
 1999年5月、内閣に司法制度改革審議会が設置された。これは、規制緩和に伴う行政の「撤退」と市民の自己責任の原則によって不利益を受ける人や、事案に対して司法による救済の強化を目指すものである。
 ここでも、日弁連としては、この審議会に積極的に対応しているが、行政訴訟手続についても、市民がもっと使いやすく簡素なものにすることによって、法の支配の徹底と市民の権利利益の救済ができるよう提言する。

3 国際面からみた必要性
 経済、人権、環境のグローバル化を迎えた現在、グローバル社会は、近代化されていない民主主義国家は相手にされなくなったり、軽視される方向にある。「一割法の支配」のような状況に日本がとどまるならば、日本の国際的地位は低下していかざるをえない。日本の行政事件訴訟法は、先進国の制度からみて、司法権を拘束し、市民による行政のコントロールを制限し、法の支配に欠けている。

4 現行法の不十分性
 現行の行政事件訴訟法が国民の利益・救済、違法な行政作用の是正としては、次の点で不十分にしか機能していない。
(1) 訴訟類型が現代の多様な行政紛争の解決、行政の是正手段として適応し得なかった。
(2) 処分性、原告適格、被告適格などの訟要件の制限的解釈による運用で、紛争の約20%が門前払いにされ憲法の「裁判を受ける権利」が形骸化していること。
(3) 本案の審理についても、行政裁量に対する司法の敬譲による考え方から、取下率が約23%前後にもなり、勝訴率は10%前後にすぎない。ドイツ・フランスの20%以上に比べて少ない。
(4) これらの影響を受けてか、訴訟提起件数も一審地裁レベルで年間1300件前後にすぎない。ドイツの22万件、フランスの12万件以上と比べると極端に少ない。その証拠に、訴訟要件が緩やかな住民訴訟提起件数は37年間で32件から330件と10倍の増加となっている。

5 行政紛争の増大
 行訴法制定後38年間に行政法令、行政計画、行政規制、非権力的行政作用などが倍増以上に増加している。それに伴い、行政紛争も倍増している。自治体も情報公開条例、環境影響評価条例、その他の社会調整条例を多く制定して、これに伴う紛争も増大している。

6 政策志向型紛争の増大
 社会の紛争は、個人の利益、救済から、市民社会の利益の擁護、社会的不平等・不公正の是正を求める政策志向型へ変化しつつある。これらの紛争解決は、法の支配の徹底を求めるものが多く、民主主義を支えるものとして不可欠なものとなっているが、現行法では法の支配に対する例外規定が多くあり、これに対応するには不十分となっている。

7 法の支配の徹底の必要性
 行訴法制定については、当時の民訴法の学者の意見が大きく作用したので民事法的発想が強く、行政作用の法の支配の確保の観点が不十分である。現状では、「一割法の支配・法治主義」でしかない。

8 法の不十分さがもたらす社会の歪み
 行政紛争救済チャンネルの不十分さは、非法的解決へと国民を志向させる。それは、特定の官僚や議員との癒着、利益誘導や官僚の天下り等々官僚支配国家の弊害をもたらしている。持たざる者を泣き寝入りをせざるをえない状況にある。これはとりもなおさず法の支配を乱すことにほかならない。「自由かつ公正な社会の形成」のためにも、行政の法的コントロールのルールを容易にすることが不可欠である。


9  裁判官の専門性の欠如
 裁判官は忙しく、民事事件の片手間に行政事件をあつかっている。行政法を学んだことのない者もいる。さらに、社会的経験もないので行政判断に敬意を払う結果となっている。

三 行訴法改正に関する論議


 現行法が現代型行政紛争については対応が不十分で、新たな立法が必要とする議論は1980年代から出されるにいたった(@)。
 その後、「行政事件訴訟法改正試案要綱」が自由と正義に発表され(A)、その後ほぼ似た案の東京弁護士会試案が出された。
 その後、塩野宏教授が「行政事件訴訟法改正論議管見」なる論文で前記の試案を含めて改正問題について論じられた(B)。

注(@) 雄川一郎「行政事件訴訟立法の回顧と反省」公法研究45号(1983−1982年―公法学会報告―)。阿部泰隆・行政訴訟改革論1頁。南博方・紛争の行政解決手法54頁。
 (A) 自由と正義45巻6号84頁(1994年)。これはその後、山村恒年・行政事件訴訟の改正として第二次案が自由と正義に掲載された。
 (B) 成蹊法学43号(1996年)45頁。

四 法制度改正の視点


1 法改正は次の視点からすべきである。
(1) 行政作用過程の全体について法の支配を徹底させ、行政の説明責任を担保することを確保するようにすること。
(2) 市民に利用しやすい制度にすること。
(3) 憲法上の市民の裁判を受ける権利を実質的に保障するため、原告適格や訴えの利益の範囲を拡大すること。訴訟法の解釈や規定によって裁判を受ける権利を理由もなく制約しないこと。
(4) 行政不服裁判所を設置し(注@)、法曹一元による専門裁判官の裁判を確保し、素人でも司法救済を受けやすくすること。
(5) 素人参審もしくは陪審制度を導入し、行政訴訟への国民参加を進めること

2 行政事件訴訟法の改正の方向
 (1)訴訟要件の規制緩和
 訴訟提起のための訴状は書面であればFAXでも紙切れでも可とする。内容が不十分でも釈明で明確にすれば足りることにする。
 訴訟対象性(処分性)、原告適格、管轄、被告適格、出訴期間について現行法の厳しい制限を緩和し、法の支配の例外を少なくする。
 (2)多様な訴訟類型の導入
 義務づけ訴訟(差止訴訟、給付訴訟)、行政立法取消訴訟なども規定する。 
 (3)裁量統制基準の明確化
裁量は、法の支配の例外であるが、それを狭くするため、判断余地と用語を改め、その手続的、実体的要件を明確化する。
 (4)職権探知主義の導入
 原告の主張していない違法理由を裁判所が職権で調べ、その結果を口頭弁論で当事者の攻撃防御にさらすことにより早く、素人でも救済を受けられる制度にする。
 (5)素人参審もしくは陪審制の導入
 裁判に一般市民の感覚を取り入れるため、素人参審もしくは陪審制度を導入する。
 (6)個別法・特別法の制定と改正
  @  個別法による不服審査前置主義を廃止し、選択主義にする。
   A  環境、開発、消費者行政作用については個別法に市民訴訟の規定を導入し、誰でも訴訟できるようにする。(注A)

注(@)行政不服裁判所を創設する必要性について補足する。 今日の行政は極めて複雑化・専門化しており、行政領域も極めて広範にわたる。そのような行政過程において発生する行政事件に裁判所が適切に対応するためには、裁判所自身も、行政に対応して専門化を進める必要がある。
 しかも、行政訴訟には職権で違法性を審査する必要があり、かつ参審制等が導入されるなど、通常の民事訴訟とは異なる訴訟手続が適用されることから、民事訴訟手続との混同を避け、行政訴訟手続に特化するためにも、行政訴訟のみを取り扱う専門裁判所が必要である。 このように行政不服裁判所は、最も適正かつ効率的に行政の違法を是正し、国民の権利利益を救済し得るように、専門性技術性と民主性(陪参審制)を兼ね備えたものとするところに最大の眼目がある。
 もちろん、行政訴訟のみを取り扱う行政不服裁判所を設置するとは言っても、憲法の禁ずる特別裁判所を設置するものではなく、最高裁判所の系列の下に置かれるものである。その性格は、家庭裁判所と同様であり、行政不服裁判所の裁判に不服があるときは高等裁判所に上訴することができるとするものである。 
 さらに、行政不服裁判所を設置することによって行政寄りの裁判が行われるようになるのではないかとの懸念に対しては、行政訴訟事件については行政不服裁判所と通常裁判所のいずれにでも提訴できるように選択起訴制を採用することとした。選択起訴制にするならば、行政不服裁判所と通常裁判所との間で行政訴訟についての適度な競争原理が働き、よりよい行政訴訟が実現されることになるであろう。
 (A) 1972年、日弁連が提案した「環境保全三法」はこれらに関する規定を設けている。まず、環境保全基本法は、義務づけ訴訟として規制措置請求訴訟、基準等改定義務づけ訴訟を住民が、環境保全計画法では、開発行為の許可の差し止め訴訟を住民、団体が、それぞれ提起できることを定めている。
 日弁連が昭和50年12月に提言した「環境保全政策法試案要綱」は環境アセスメント法であるが、地方環境影響審査会の許可に対して計画・事業主体を相手に形式的当時者訴訟を認めるとともに、法令案や計画も処分性をもたし、関係人がそれについて原告適格を有する規定が設けられていた。

第二 行政事件訴訟法改正案の概要と考え方


 1 今回の改正試案は、後述のとおりである。これと現行法との比較は表1のとおりである。
 2 新視点の導入―法の支配と司法改革、行政改革、規制緩和 
 従来、改正の視点は、現行法では国民の権利利益の救済に不十分で利用しにくいということであった。特に取消訴訟においてそれが顕著であったので、訴訟は住民訴訟へと代替手段を求めてシフトしていった。
 住民訴訟では、住民の権利救済というよりも行政の違法是正という点に重点があった。それは「法の支配」の徹底を求めるものであった。その結果「官官接待」などの違法支出が改められるようになった。これはとりもなおさず、「行政改革」をもたらしたのである。
 また、外国人や外国企業からすれば、行政訴訟は不透明な日本の規制行政にチャレンジする手段でもある。「競業者」に原告適格が認められれば、業界との密着行政にメスを入れることもできる。その意味では、行政訴訟の規制緩和の効果をもたらすこともありうる。
 すなわち、国民の裁判を受ける権利の拡大に加えて司法改革をふまえた法の支配の充実、行政改革、規制緩和を視野に入れた改正案を考える必要がある。
 以上の見地から、現行法には、法の目的は規定がないが、法の支配と法治主義の理念から、行政作用の違法是正と市民の権利利益の救済を目的とすることを明記する。

 3 訴訟類型の拡大の明文化
(1) 義務づけの訴えの明文化
 現行法は「取消訴訟中心主義」である。しかしアメリカやドイツでは義務づけや差止訴訟が認められている。この方が直裁的で使いやすい。現行法には明文はないが解釈上は認められると判例学説は解していた。しかし、判例の要件は極めて厳格で希にしか認められていない。勝訴例もない。
 本法案では「義務づけの訴え」を典型行政不服訴訟として規定した。その他の無名不服訴訟を否定するものではない。
(2) 行政立法取消の訴え
 アメリカでは、行政立法はルールメイキングとして、訴訟の対象となっている。フランスでも同様である。アメリカでは、その案の段階で公聴会等が開催されることが多い。日本では政令・省令(規則)、告示(環境基準、地域指定等)は、行政が決める点で法の支配の例外となっている。これが民主主義の「骨抜き」の結果をもたらしている。そこで「法の支配」を徹底するため、これらの取消訴訟についての規定を置いた。
 これを徹底するには、行政手続法を改正し、行政立法作成に関して国民の意見を聞く手続を設け、それに不服あるものが取消訴訟を提起できるようにすべきである。

4 取消訴訟の改革

(1) 対象 ― 処分性の拡大(3条)

 判例は処分性の要件として直接法的効果が発生する行為としている。これでは狭すぎるので、相手方の同意に基づかない、法に基づく一方的な行政権限の行使を対象とした。不特定多数の者に対する地域指定などの一般処分も含まれる。フランスの越権訴訟の対象も行政の行う一方的行為とされている。
 これは「法の支配」を徹底するためである。すなわち、対象は、法令違反の審査可能なものであればよい。本来、法の根拠を必要とする行為を法に基づかないでした行為も法の支配違反として対象となる(例えば、名誉を侵害する事実の公表など)。
 また、「法の支配」からみれば、取消訴訟の対象は、法的効果の発生を必要とせず、行政の行為規範があれば、司法による違法のコントロールが可能である。従って、法定計画や法に基づく地域指定等も取消訴訟の対象とする。

(2) 原告適格(9条)

 現行法の処分又は裁決の「取消を求めるにつき」というのは、「取消訴訟遂行利益」という訴訟法的利益と解することもでき、「法律上の利益」も広く、実体法、手続法上の利益と考えれば、かなり広げて解することができる。
 しかるに判例は、これを「当該処分を定めた行政法規(注・政令も含む)が個々人の個別的利益として保護すべきものとしている利益」に限定している。これは、行政裁判を受ける権利を個別法や行政立法で定めるカタログの利益に限定するものである。このように原告適格を「個別法規の留保」に限定することは、憲法32条の「裁判を受ける権利」を不当に侵害するものである。
 これを広げると濫訴の危険があると主張するものがあるが、日本の取消訴訟の件数が、米、独、仏等に較べると極端に少ないことを考えると、あたらない主張である。
 個人の権利、利益を広く救済し、司法による行政のコントロールを広げる「法の支配」からも原告適格は拡張されるべきである。そこで、アメリカ行政手続法の原告適格判例法で認められている「現実の損害(injury in fact)」に合わせて、自己およびそれと共通する公共の利益について訴訟追行上の現実の損害のおそれのあること、すなわち「現実の利益」で足りるとした。したがって、抽象的なおそれでは足りない。言いかえると、損害賠償訴訟の法益侵害にあたる損害のおそれでも足りる。

(3) 取消理由の制限(10条)

 ここでの「法律上の利益」も原告適格に合わせて「自己の利益もしくは一般公共の利益」に広げた。これは本案審理の要件である。従って、他人の利益にのみ関する違法理由は制限される。一般公共利益保護の規定違反のみの主張も制限されない。

(4) 被告適格(11条)

  現行法では、法規上被告行政庁の特定は弁護士でも困難で、被告を間違えて却下されるケースが多いので、処分を分担した機関や上級行政庁に被告が誰かについて教示をもとめることができるようにする。
 教示が誤っていても、教示どおり被告にすれば適法とすることとする。

(5) 管轄(12条)

 行政庁の所在地が東京である場合が多く、その場合東京地裁が管轄となる。しかし、地方に居住する者には不便であるので、原告の居所の管轄裁判所にも提起できることとする。また、地方裁判所と行政不服裁判所の競合管轄を認め、どちらにでも提起できるようにする。

(6) 出訴期間(14条)

 現行法の3カ月以内は短すぎるので6カ月とし、「重大な違法」がある場合は2年とする。これにより処分の違法は通常の違法と重大な違法と無効の3種類となる。

(7) 被告を誤った訴えの救済(15条)

 現行法は、故意または重過失で被告を誤った場合は変更が許されていない。弁護士は通常重過失ありとする例が多いので、裁判所が被告に釈明を認め、誤っているときは原告に変更の申立を求めた上決定で変更する。

(8) 請求の客観的併合と選択的併合

 従来、大阪国際空港差止訴訟最高裁の判決のように行政訴訟でやればともかく、民訴では国の航空管理権を侵害するとされ、行政訴訟でやれば原告適格なしとされ、キャッチボール扱いされたことがある。
 そこで、両訴訟を選択的に併合したり、行政訴訟の各訴訟類型相互間についてもこれを可能にする。

(9) 第三者の訴訟参加(22条)

 現行法は、訴訟の結果により「権利を害される第三者」にのみ訴訟参加を認めている。これを「利害関係を有している第三者」に広く参加の機会を広げる。

(10) 職権探知・職権証拠調、記録の提出(24条)

 現行法は弁論主義を前提とし、職権証拠調ができるとしている。しかし、「法の支配」と「法治主義」を徹底する考え方から、ドイツのように裁判所は、原告が主張していない違法性をも審理できることにした。これなら素人でも訴訟を遂行できる。すなわち、裁判所は、原告の主張する違法理由のみならず、職権でその他の違法理由も探知する。職権で調べた証拠の内容は弁論で明らかにされ、当事者の弁論に付されるようにする。
 ただ、従前職権証拠調が利用されなかった原因である、裁判官の時間的、情報的限界を克服する必要がある。そのために調査官制度を活用し、若手の行政法研究者(大学院博士課程修了程度)の人材をこれにあてるものとする。現行の行政官から調査官を採用する制度は廃止する。

(11)  文書提出命令

 文書提出命令は現行民訴法では不十分な点があるので、記録保有行政庁の文書提出、事案の経過の報告義務を課する。

(12) 執行停止(25条、29条)

 現行の執行不停止原則をドイツと同様に執行停止原則をとり、例外として公租公課等決定の場合は不停止とする。停止の場合も、行政庁の申立により行政に著しい支障の生じる場合は、全部一部の解除を決定できるとする。

(13) 内閣総理大臣の異議の廃止(現27条)

   あまり活用されていないし、違憲の疑いもあるので廃止する。

(14) 裁量処分の取消(30条)

 訴訟要件をクリアしても、裁量処分については現行法では裁量のゆ越、濫用がある場合に限り処分を取り消せるにすぎない。しかし多くの場合、これが障壁となっている。そこで、裁量処分の行為規範を手続的規範と実体的規範に分けて規定する。
 ア 手続的合理性と公正 行政手続法に定める手続要件のみならず、裁量の基礎となる事実の認定とその評価について法の 趣旨・目的からみて利害関係、専門家の意見聴取等を行って合 理的であることの主張・立証を行政庁に義務づける。
 イ 実体合理性と公正  要件・効果の裁量にあたっては、代替案の比較検討と比較評価、費用便益分析など合理性の主張・ 立証を行政庁に義務づける。
 ウ アイの主張・立証に基づいても、不合理、社会通念と条理違反が認められるときは当該処分を取り消すものとする。

(15) 取消判決、違法宣言判決(30条の2)

 現行法の9条括弧書きを廃止し、処分または裁決の効果経過後でも違法確認の利益があるときは、裁判所が違法宣言判決をできることとした。同時に給付判決もできるとする。

(16) 中間確認判決(35条の2)

 訴訟要件の存否の中間確認判決をできることとし、これに対し独立に上訴でき、控訴裁判所は控訴の日から6カ月以内に判決しなければならないとする。

(17) 和解(35条の3)

 アメリカやドイツでも和解は一定の範囲で認められている。裁量処分について裁量の範囲内で和解できることする。日本でも行政事件訴訟の和解が年間20件程度ある。

5 その他の行政不服訴訟の改正

(1) 無効確認の訴えの原告適格(36条)

 現行法の条文の解釈について一元説(狭い説)と二元説(広い説)とに分かれていたので、途中に「及び」を入れて二元説であることを明確にする。
 また、「現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」を「紛争の根元的解決を求める現実の利益を有する者」として明確にする。

(2) 義務づけの訴えの原告適格、被告適格、判決(37条の2、3、6)

 義務づけの訴えに関する規定を整備する。判決については、ドイツ行政裁判所法の規定に倣った。
 すなわち、行政庁の作用は、法で行使を義務づけられて裁量の余地がないものは、義務づけ判決が可能である。裁量についての行政庁の判断は、義務づけ訴訟中の弁論で主張されるから、裁判所は、それを、行政の第一次判断として、その適否を判断すればよい。また、裁量判断が、弁論中で示されない場合は、判決の法解釈を考慮して行政庁が決定する義務があることを判決するものとする。これは、ドイツの指令判決に倣ったものである。義務づけ訴訟は処分することの禁止のみならず、その執行または続行の差し止めも同時に請求することができる。

(3) 行政立法取消しの訴え(37条の4、6)

  被告適格、及び取消判決後の官報への掲載について規定した。

(4) 仮命令(37条の5)

 作為を求める義務づけの訴えには執行停止はあり得ないし、仮処分もできないので訴訟が長引き、権利利益の実現が不能となり、または著しく困難となるおそれがある場合は、仮命令、仮の地位を定める命令を裁判所が発することができることとした。これもドイツの制度に倣ったものである。

(5) 取消訴訟に関する準用規定(38条)

  取消訴訟以外の抗告訴訟に取消訴訟の規定の一部を準用する。

(6)  行政庁に対する強制金

 義務づけ判決、仮命令を行政庁が履行しないときに強制金を科することを警告し、期間を定め強制金の徴収を執行する。

6 補足

 処分の効力を争点とする訴訟(45条)

 先決問題として、行政処分の効力の有無が争われている民事関係の争点訴訟については、行訴法45条は執行停止制度の規定を準用していない。仮の救済の重要性からみると憲法違反の問題が生ずる可能性も指摘されている。従って、行政庁の第一次的判断が示されている点から考えて、本要綱の第25条2項の要件に該当するときは、民事保全法の規定による仮処分をすることができることにする。

7 その他の改革事項

 印紙代は、金銭の給付を求めるものは民訴費用法により、その他のものは、2000円とする。
 複数の原告が同一の処分を争う場合には、住民訴訟並みに一人分とする。これに必要な関係法も改正するものとする。

参考 行政事件訴訟法改正条文比較表