田舎弁護士日記(その2)

 今日は、いわゆる一審強,第1審強化福井地方協議会が開催されました。これは、福井県内の弁護士35 名、裁判官9名(内2名は簡易裁判所判事)、検事6名(内1名は副検事)が集まって、民事刑事に関する 協議するというものです。年2回開催されており、協議会の後は懇親会を開きます。

 きっと、東京の先生には想像できないのではないかと思いますが、田舎では、このように極めてアットホ ームな付き合いをしています。酒の席だということで、ここだとばかりに,この前の判決はひどかっただの 、あの準備書面は出来が良かっただの話し、日頃の憂さをはらします(?)。そのような付き合いを通して 、お互いのざっくばらんな考え方を交換しあっています。その結果、都会から肩肘張って来られた裁判官も 、福井のローカルルールを感得していただき、福井になじんでもらうのです。

 以前、東京の弁護士さんが、地方では弁護士が法廷で何件も事件を抱え、原告席に座っていたかと思うと 、次は被告席に移り、廊下では、この前の事件はこっちが譲歩したから今回はそっちが譲歩して欲しいなど と和解の話をしており、馴れ合いの訴訟をしているかのようなエッセイを発表されたことがあり、地方会を 侮辱するものだと大問題に(少なくとも地方会では)なったことがありました。確かに、10時の弁論を何 件も指定され、弁護士が原告席と被告席をめまぐるしく交替しているというのは、良く目にする光景です。

 しかし、一度たりとも、この前の事件はこっちが譲歩したから今回はそっちが譲歩して欲しいなどという 馴れ合いができたことはありません。何度そのそうにできればと思ったことか知りません。東京では、大体 の訴訟は和解で、それも証人尋問に入る前に和解で終了していたのですが、福井に移ってからは、和解の成 立率が極めて低くなりました。証人尋問の割合が増え、訴訟準備に大変手間がかかると思うようになりまし た。とにかく、福井では、和解率が低いのです。法廷で、「何馬鹿なことを言っているんだ」などと喧嘩ま がいのホットな弁論をすることも珍しくはありません。1審強でも、同様、弁護士会が裁判所に対して、対 決的な協議事項を提出したりして、「裁判所のやり方はおかしい」などと、公に批判することも多々ありま す。その意味では、よほど地方の方が、欧米的にアドバーサリーシステムを実現しているように感じます。

 今日も、裁判所の刑事部の事件処理はおかしいから、一斉に国選弁護をボイコットしようなどと、過激な 発言もでました。地方では、訴訟指揮がひどい裁判官に対して,「栄転決議」をすることもあります。そう することで、ひどい訴訟指揮をする裁判官が変わっていくということがあります。弁護士会が今提唱してい る「司法改革」は、このような地方会の実践の中でこそ、実現していけるのだろうと、アルコールを飲みな がら考えた次第です。

                             1997年5月22日記